チキータをどう説明するか

それでは一般の視聴者にチキータをどう説明したらよいだろうか。

その前に、何をチキータとするか確認しておく。

チキータはもともとは、台上のボールに対する横回転を入れたバックハンドドライブのことだったが、最近は横が入っていなくてもチキータと呼ばれている。

私はそれでよいと思う。なぜなら、卓球の戦術・技術におけるチキータの革新性は、横回転にあるのではなく、台上のボールに強烈な前進回転をかけて速く安定したボールを打つことにあるためだ。

よって、台上バックハンドドライブのことをチキータとする前提で、これを一般の人にどう説明するかだ。

簡単に言えば「台上の低いボールに対して、台の上でラケットをくるっと回転させて下から上に振り上げてボールに当てる打ち方をしたとき」がチキータだ。

格好としては肘を肩と同じくらいに上げるのが特徴だ。

振り上げるときにどれくらい薄く当てるかの度合によって、フリックと区別がつきにくいと思うが、これは仕方がない。一般の方がフリックとチキータを見間違えても誰も責められない。スマッシュとドライブが区別がつかないのと同じだ。

一般の方への説明は以上として、あらためてチキータの革新性を整理してみた。

①相手の低いボールに対して速いボールを入れるためには前進回転をかけて弧を描かせることが必要。ネットがあるので、真っ直ぐ飛んだら絶対に入らないわけだから。

②前進回転をかけるためには、ラケットを下から上に振り上げながらボールを打つ必要がある。相手のボールが下回転の場合には特に上に振る必要がある。

③相手のボールが台上で2バウンドしてしまうほど短い場合には、台が邪魔になるので、ラケットを台の表面までしか下げられない。

④したがって、台の表面から打球点の間の鉛直距離にして16cmほどの空間でラケットを上方に加速してボールに当てなくてはならない。ラケットの幅だけで11cmほど(45度にかぶせた場合の鉛直方向の幅)あるので、ボールをラケットの中央に当てる前提だと、10cmほどしか鉛直方向の加速距離がない。

⑤その10cmの加速距離で必要なスイング速度を出す方法として開発されたのが、チキータ。バックハンドでスイングの回転半径を小さくし、回転角度を180度以上もとることでそれが可能となった。

どんなもんだろうか。

 

チキータがわかりにくい理由

一般の方々から「卓球のテレビを見ていてもチキータがわかりにくい」とよく聞く。

わかりにくいのも当然だ。なにしろテレビで「チキータ」として紹介される動画のうち、およそ半分がチキータじゃないのだから。

普通のバックハンドがチキータとして紹介されているので、視聴者が「これのどこが特別なんだろう?」と思うのはむしろ目が確かなのだ。だってそれ、普通のバックハンドなんだから(笑)。

要する、テレビ制作者がチキータをわからない場合、視聴者がその道連れにされているのだ。本来ならわかる目を持つ視聴者さえも「わからない」状態になっているのだからもう絶対にわからない。絶望的にわからない。わかったらそれこそ勘違いなのだ。

例えれば(例える必要もないが)、野球のピッチャーのボールをカーブもストレートもシュートも気分次第でときどき「今のは素晴らしいカーブですね」と解説され、それを聞いた視聴者が「カーブってどういうボールのことなんだろう?いやー野球は難しいなあ」と思っている状況なのだ。

なんたる悲劇だろうか。

審判のファインプレー

ジャパンオープンの男子ダブルス準決勝で、信じがたい審判のファインプレーがあった。

馬龍/許シン vs 樊振東/林高遠

の3ゲーム目の4-2の場面でそれは起こった。

プレー領域にハエが紛れ込み、馬龍がこれをラケットで何度か払おうとしたのだが、当然のことながら、そんなことでハエを追い払えるはずもない。

と、そのとき、副審を務めていた今野啓がすっくと立ちあがり、近づいたと思ったら、なんと

一発でハエを掴んでしまったのだ。

これには馬龍は笑い、許シンは固まったという。

知らない人が見たら、ハエ掴みの達人かと思うだろが、実は啓さんは過去にハエを手づかみした経験は一度もないという(誰でもそうだと思うが)。

国際大会での審判という重責ゆえに、火事場の馬鹿息子、いや、馬鹿力で実力以上を出したのだろう。

「ハエを手づかみにした達人的審判」として、今野啓の顔は馬龍と許シンの海馬にしっかりと刻み込まれたことであろう。

羨ましいことだ。

東京五輪で混合ダブルス追加!

東京五輪で混合ダブルスが正式種目として採用されることが、あたかも朗報のように報道されていた。

それで「中国は目の色を変えるかも?」なんて言ってる。吉村と石川が金メダルを獲ったからチャンスだと言わんばかりだ。

ううむ。どこまで事情を知って言っているのかわからないが、なんとも微妙な気持ちだ。

吉村/石川ペアが混合ダブルスで金メダルを獲った理由は、もちろんこのペアが強いからだ。しかし、もうひとつテレビが語らない要因がある。

混合ダブルスには中国ペアが出ていないからだ(方博がドイツ選手と組んだけだ)。中国は混合ダブルスが弱いわけではない。弱いどころか、女子が強いために混合ダブルスも恐ろしく強いのだ。

かつて、エントリー数が多いときは混合ダブルスと女子ダブルスの両方ともベスト4がすべて中国だったし、へたするとベスト8のうち6ペアまでが中国で、残りの2ペアは元中国選手というのが普通に見られた。

それが2009年横浜大会から、中国はダブルスから主力選手を外したり、国際ペアを組ませたり、出るペアを極端に減らしたりして(1ペアだけとか)、あからさまに他の国にメダルを譲ろうという「外交」を始めたのだ。

東京五輪で混合ダブルスが正式種目になったとき、中国が「目の色を変える」とすればそれは、通常の意味である「必死になる」ということではなくて「獲りに行く方針にする」というだけのことなのだ。そうならないことをアテにして「東京五輪は混合ダブルスの連覇が期待できます!」と言っているわけだから、なんとも失笑させられる。

もちろんそれでも連覇できる可能性はあるが、ものすごく厳しい戦いになるだろう。

だって、中国が本気出したら「馬龍/丁寧」「樊振東/劉詩雯」「許昕/陳夢」など、陳夢どころか悪夢のようなペアがぞろぞろ出てくるんだから、どうするんだこんなもん。

中国がその気になれば、実はもっとも金メダルが絶望的な種目が混合ダブルスなのだ。

「チョレイ!」の語源

張本の掛け声が取りざたされているが、不思議なのは誰もその語源について推測さえ言わないことだ。

現在、全国レベルの男子卓球界で「チョレイ!」「ジョレイ!」「ショレイ!」「ジョライ!」などが流行しているわけだが、普通に考えればこれは「ショー」「シャー」になんとなく「レイ」「ライ」などをつけたものだろう。あえていえば「ショー、オラー」とでもいう感じだろうか。

そしてもちろん「ショー」「シャー」の語源は「よっしゃ」であり、つまりは「よし」にその端を発している。もちろん愛ちゃんの「サー」も同源でありいわば従妹である。

卓球が日本に伝来して100年以上経つわけだが、純然たる日本語の「よし」が、選手本人さえわからない形に装いを変えて今に生き続けているわけだから、感動的ではないか。

ちなみに、ヨーロッパ卓球界では「シャー」「ショー」「ヨー」が掛け声の定番だが、これはかつて日本が世界制覇をしたころに、日本で卓球修行をした選手が真似をしたのが広がったものだ。

かつて実況中にこれを聞いたアナウンサーが「人間が気合が入ったときに出る声は世界共通なんですねえ」と言ったものだったが、そういうことではなくて卓球界共通なのだ。

私がテレビの前で歯ぎしりしたことは言うまでもない。

ドイツの英雄はどいつだ

丹羽がオフチャロフに勝ったことがテレビで報じられているが、いずれもオフチャロフを「ドイツの英雄」と言っている。

いつからオフチャロフがドイツの英雄になったのだろうか。

ボルはどうする。

英雄を使ってしまったらボル様を何と言う気だ。

今から心配だ。

丹羽の個性

丹羽がついにやった。オフチャロフロフを破ってベスト8に入ったのだ。

監督に声を出せと言われても出さなかった丹羽が、最後にガッツポーズをしたようだが、あくまで丹羽らしくやってほしい。やる気がないのかと批判されてもまったく気にせず蛙の面に小便というのが丹羽の真骨頂なのだ。

それほどの心臓だからこそオフチャロフのドライブをオールフォアでカウンター(成立するのかそんな戦術!)できるのだ。

今後も声を出せとかガッツポーズをしろとか寝言を言われると思うが、そんなものはガン無視してやってほしい。丹羽が声を出したらそれは超絶カウンターができなくなったときであり、終わりのときなのだ。

テレビ東京のネット配信では、解説者が「丹羽の卓球は6次元卓球だ」と面白いことを言っていた。何が6次元かと言うと、前後左右上下で6次元だそうだ。

これはまいった。左右を2次元分に数えてしまうとは、凄まじい個性である。コロンブスの卵的発想といおうか瓢箪から駒といおうか、馬耳東風といおうか、とにかく驚愕させられた。

ライジングカウンタードライブの許容誤差

テレビを見ていたら、平野が丁寧のドライブを前陣でカウンターする様子を横方向から映した画像が流れた。

コマ送りをしてみると、ラケットの角度、ボールの軌跡、スイングの方向がうまいぐあいにわかるような画像だったので、測定してみた。

すると、ラケットの角度はボールの軌道に対して43.5度、スイング方向は46度だった。つまり、飛んでくるボールに対して約45度の方向にほとんど面の方向にスイングしているのだ。

これはとんでもなく困難なことだ。

どういうことか。この映像はスロー再生だったし露出時間もわからないのでスイングの速さは正確にはわからないが、これまでの他の測定からだいたい時速30km程度だと思われる。これは秒速8.3mだ。ということは、0.01秒間に8cmの速さでボールの軌道を45度の角度で横切る打ち方をしていることになる。

ラケットの幅は約15cmだから、約0.02秒の誤差しか許されない正確さでスイングしなくてはラケットに当たらないということなのだ。当たるといっても、端に当たったのでは入らないのだから、実際にはその半分程度の誤差しか許されないだろう。

なぜ普通に真っ直ぐ当てないで、こんな空振りスレスレの打ち方をするかといえば、回転をかけたいからだ。激しい前進回転がボールの軌道を丸め、ネットを越した後に台に入ることに役立つからだ。遅いボールなら回転などかけなくても重力で落ちてくれるので台に入るが、なにしろ丁寧の反応時間を破るほどのスピードのボールを打たねばならないのだから、回転をかけなかったらボールは真っ直ぐに飛んでいって台に入ってくれない。

速いボールを台に入れるために激しい前進回転がどうしても必要なのだ。

どこにくるかわからない相手のボールのコースと回転量を判断してラケットの角度を出して0.02秒の誤差で振り抜く。そんなこと人間にできるのだろうか。

できるから平野はやっているわけだ。そして、ひとりができてそれが可能であることを示すと、他の選手もどんどんできるようになるのがスポーツの常だ。

まったく凄い世界だ。

ちなみに、面の方向とスイングの方向が2.5度違っているわけだが、その影響も考慮して許容誤差時間を真面目に計算すると、0.020秒となった。なお、ボールの速さは時速30km、ラケットの幅は152mmとした。

説明は省略するが、暇な人は眺めて見てほしい。

そのうち、きちんとスーパースローカメラで真横から撮影して正確な測定をしてみたいものだ。ああ面白い。

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