ハゲの損害賠償

母方の祖父はツルッパゲだったし、母の弟はかなり若いときからハゲていた。彼によると、ハゲる前の30代の一時期、とにかく猛烈に頭がかゆくなったのだという。私が「掻いたからハゲたの?」と聞くと「いや、あれはハゲようとしてかゆかったんだ(方言:いや、あいづぁハゲんぺってかいがったのだ)」と語気を強くした。まだハゲていなかった私はその表現が面白いなあと他人事のように聞いた記憶がある。

私は見事にその血を受け継ぎ、30代半ばから急速にハゲだした。実家に帰るたびにどんどんハゲていく私を見て父は「うちにはハゲている人はいないから、お前はお母さん方の血でハゲたんだな。お母さんの実家にハゲの損害賠償してもらえ」とバカにした。

父も結構面白いことを言うもんだと思った。

どうしてこうもバカでかい?

昨夜は近くのアップルビーズというファミリーレストランで飲み会だった。私は甘い酒が好きなのでさっそくわけのわからないカクテルを注文した。メニューを見るとワイングラスぐらいの大きさに見えたのだが、実際はバカでかかった。どうしてこうもデカいのか。

なるほど、メニューの写真で、浮かんでいる金柑みたいなのがじつは普通の大きさのライムだったわけだ。

そういえば初めてアメリカに来て頼んだカクテルは、グラスのふちに塩がついているように見えたが、なめてみると砂糖だったのには驚いた。いちいち過剰である。

痒くないのかデビッド!

昨日の午後、急にデビッドの髪が短くなった。何事かと思って聞くと、仕事の合間に床屋に行ってきたという。たったの15分ぐらいの間である。まるでトイレに行くようなつもりで床屋に行ってきたのである。

こちらに来てから床屋に行ったことがあるが、ひどい目にあった。一応からだにケープをかぶせるのだが、密着性が悪く、ろくに掃除もしないので、首から肩にかけて髪の毛だらけになるのだ。矢も立てもたまらず、家に帰って大急ぎで頭を洗い、シャツについた毛を取るのに苦労したものである。

デビッドの首を見たら、やはり髪の毛だらけだった。「痒くないのか?」と聞くと、「パウダーをつけてくれるので痒くない」と平気な顔である。信じられない。効くかよそんなもの。「アメリカ人の実態を記録したいので写真を撮らせてくれ」と言うと、パソコンの前でうなじを露出したまま動きを止めてじっとしていてくれたデビッドはいい人である。ちなみに写真の下のほうにある毛は、下からせり上がってきている背毛がはみ出して見えているのであって、切った髪の毛ではない。念のため。

デビッドは首筋に髪の毛を大量につけたまま、9時まで仕事をして帰っていった。

蜂退治

家の周りに蜂がいる。家のある部分になぜかいつも蜂が数匹いて、こわくて芝生刈りもままならない。巣があるようでもないのだがいるのだ。

そこでふっと思いついた。蜂蜜業者のような完全防備にして退治しよう。さっそくインターネットで参考写真を見る。さすが、プロ用はまるで宇宙服のような厚手の服でヘルメットまでしている。

できるだけそれを真似るように、ゴム長靴+ジーパン+ジャンパー+帽子+ゴム手袋に、店の生地コーナーから網状の布を買ってきて頭からかぶり、胸のところで紐でしばってもらった。

これで完璧だ、と思って外に出るとそういえば40℃だった。なぜか蜂もいない。そこで、蜂がいて芝刈りができなかったあたりの芝を刈ることにした。ところが暑くて5分ともたない。妻も、「それでなくても東洋人で白い目で見られているのに(青い目だ)、そんな格好をしてこれ以上異常なことはやめてほしい」と懇願され、止めた。

かっ飛ばしてつかまった

アメリカに来てしばらくしてのこと。メールで卓球の練習をさそわれたので、車で230kmの道のりを走った。意外なことにアメリカは卓球台の消費が世界一だと以前卓球レポートで読んだことがある。その情報どおり、家に卓球台を持っている人は普通にいるのだ。家が広いこともその理由だろう。やはり卓球は娯楽の王様なのである。

ただし競技としてやっている人はまったくといっていいほどいない。人数あたりの比率は日本の1/40である。だからまともな相手を探そうと思ったら車で1時間、2時間走るのは当たり前なのである。逆に言えば、そういう状況でも競技卓球をやっている人は、みんな異常な情熱を持っているのである。それは後で書くとして、車である。

アメリカで、気持ちのよい日に新しい車に乗って卓球をしに行く、そのあまりの幸福感に私はすっかり平常心を失っていた。どんどんアクセルを踏んでいって、最後に時速180kmまで行くと、アクセルを踏んでいるのに突然減速しだした。多分自動ロックが働いたんだと思う。
それからもずっと時速140kmぐらいで走っていると、物陰からパトカーが出てきてつかまってしまった。

私はそのとき初めて「スピード違反をしたらつかまる」ということを思い出したのである。警察はいないだろうとか、つかまらないだろうではなくて、本当に思いつかなかったのである。楽しすぎると私は正常な判断力がなくなるのだなあと思った。

つかまったときの速度は時速140kmで、罰金は200ドルであった。あとで同僚に聞くと、もし時速180kmでつかまっていたら刑務所行きだったのだという。それで、「むしろ俺は運がいいんだ」と思うことにした。

警察は切符を切った後、「テイク・ケアー」といって去っていった。悔しい。

リンダとリンダ遠藤さん

妻は英会話に私以上に苦労しているようである。小学校の先生(50才ぐらいの女性)が教え子の結婚式に出ると言っているのを本人の結婚式だと思い込んで勝手に驚いてみたり、スーパーマーケットで酒を買おうとして生年月日を聞かれて住所を答えてしまったことに家に帰ってから気がついたりと、なかなか忙しい。自分で言いたいことは無理やり言えるのだが、なにしろ聞けないのだ。店員が値段を言う。店員は数字しか言わないとわかっている、その限定された状況でさえ、その数字が聞き取れないのだ。難しいものである。

その中でも傑作なのがリンダ・遠藤さん事件である。お向かいのリンダさんと話していると、妻の状況を見かねたリンダさんが、知り合いにリンダ・遠藤さんという日本人がいるから紹介してやると言ったそうである。それなら英語も日本語も話せるので、さぞ効率のよい英語習得ができるだろうと妻は楽しみにしていたのである。ところがその後、その話をするとどうにも話が食い違い、何かがおかしい。そして最終的に判明したのは、リンダさんが知っている人とはリンダ・遠藤さんではなくて、リンダ・アンダーソンというアメリカ人であり、彼女が日本人を知っているという話だったのである。その日本人は我々がすでに知っている私と同じ会社の人であった。

考えてみれば、一般のアメリカ人が「遠藤さん」などと「さん」をつけるわけがなかったのである。それにしてもまた「リンダ」だ。山本リンダっていうのもいたが。

進化論と創造論

ドッグはとてもいい奴だ。誰にでも優しく心底のお人よしであり、なおかつ敬虔なクリスチャンである。先日、アキラくんという日本人が、ドックに「アインシュタインの相対性理論をどう思う?」と聞いた。「アキラくんはジョークを言っているな」と私は思った。なぜそう思うかといえば、第一に、アキラくんはジョークが好きである。第二に、アキラくんのやけに真面目ぶりながらもどこか笑いをこらえたような力の入った表情、第三に、我々の仕事に相対性理論など少しの関係もなく、あきらかに場違いな話題だったからだ。

ドッグはこの質問に対して真面目な顔で「アイ・ライク・イット」と答えた。横で聞いていた私は大笑いをして「物理の理論に対して、正しいとか間違ってるならわかるが『好きだ』とはどういうことだよ」とツッコんだ。ドッグは笑いながら「それもそうだが、いい理論だと思うよ」と答えた。

続けてドッグは「互いに相容れない二つの理論があるんだ」とあらたまった真面目な顔で話し始めた。わたしはすぐにピンときて、ドッグの話をさえぎり、アキラくんに「ドッグは進化論と創造論の話を始める気だぞ!」と予言した。「ひとつは、人間は猿から進化して・・・」思ったとおりだ。

ドッグはひとしきり進化論と創造論を説明すると「俺は創造論が大好きなんだ」と言った。もちろんこれも予想通りだった。

雑誌とブログ

雑誌(卓球王国)の原稿で苦しんでいる。

アメリカのレーティング制を日本卓球界に紹介するネタはすでに書き上がっているのだが、急に城島さんの「ピンポンさん」が出たので、どうしても荻村ネタを書きたくなり、とりかかっている。締め切りは野中さんから毎月21日ごろと言われているが、翌月になって入れたこともあったので本当の締め切りはよくわからないが、たぶんまだまだに違いない。

城島さんの「ピンポン」を読みかけて感動したおかげで、荻村伊智朗に対するツッコミというかギャグを書けなくなってしまった。自分でもさっぱり面白くないのだ。土日ねばってみてどうしてもダメならレーティングネタを出せばいいさ、と思いながらちょこちょことやっていたら段々によくなってきて、どうにか出せそうな感じになってきた。

というわけで、ここ2,3日のブログの書き込みは原稿からの逃避だったのでした。

エンジニアとアニマル

職場にドッグという名前のエンジニアがいる。ドッグといってももちろんDogではない。Dougである。この二つの発音はアメリカ人にははっきりと違うらしいのだが、我々にはほとんど違いがわからない。

そこで、あるアメリカ人に「エンジニアのドッグとアニマルのドッグでは発音はどう違うのか」と聞いてみた。彼の答えは「オーライ、説明してやる。エンジニアはダーグ、アニマルはダーグだ」 ・・・同じじゃねえか。「違いがわからないからドッグの部分だけ交互に言ってくれ」と言うと彼は「イエス。ダーグ、ダーグ、ダーグ、ダーグ、ダーグ、ダーグ、ダーグ、ダーグ」と言った。もういい。ぜんぜん違いがわからない。違いが分かるように極端に言ってくれというと彼は「エンジニアはダーグだが、アニマルはダオグだ」と言った。なるほどそういわれるとわずかに違うような気がした。

それ以来、一部の日本人の間では、ドッグの陰の呼び名は「エンジニア・ドッグ」となった。ときどきドッグにわざとそう呼びかけると、当然ながらきょとんとした顔をしている。まさか自分が日本人から犬と区別がつかない存在であるとは思ってもいるまい。

銃とヘビ

先月のことだ。平日、妻が家にいると、隣の家の方から銃声が聞こえたという。爆竹ではなくて銃の音だったという。パン・・パンパンという間隔で3回鳴るようすが、いかにも何かを狙って撃ったようだったという。冗談ではない。隣で銃など撃たれたのでは怖くて外にも出られないではないか。

翌日職場で聞いてみると「それはたぶんヘビでも撃ったんだろ」という。それにしても住宅地での銃の使用は禁止されているので、また聞こえたらすぐに警察に通報してやると言われた。

妻もお向かいのリンダさんに銃声のことを相談したという。ところがリンダさんの答えは、「それはヘビを撃ったんでしょ。私もよく撃つよ。」というもので、銃よりもヘビがいかに怖いかをヘビの習性やサイズ、色、とぐろを巻く様子などを身振り手振りで20分ぐらい説明されたそうである。毒はあるのかと聞くと「それは無い」という。ただ嫌いなだけなのだ。

聖書に、ヘビがずるい奴として出てくるので、どうも本気でヘビはずるくて悪い奴だと思っているようである。

アメリカ人と卓球をしたとき、空いている台でひとりで変化サービスの練習をしていたら、ウォレンという奴が「そんなスニーキーなサーブ練習して」とニヤけながら言った。スニーキーとは知らない単語だったのでスペルを聞いて調べると、snakyという単語で、意味は「ヘビのような、陰険な」であり、スネークの派生語であった。生物に陰険も正直もないと思うが、ヘビも災難である。職場でそれを話すと翌日からことあるごとに「スニーキーなサーブ出すんだろお前」とか「お前はスニーキービジネスマンだ」とからかわれるようになった。卓球も知らないくせにそんなことを言うのである。迷惑な話だ。

それにしてもヘビを銃で撃って、当たるんだろうか。

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