卓球用品店を後にした私はそのままタクシーに乗って、卓球場へ向かった。卓球をなんと発音するのかタクシーの運転手さんに聞いたが、まずその質問の意味を伝えられず四苦八苦した。いくら聞いても「ピンポン」と言ったり、「その卓球場は知らない」というそぶりだ。最後に「発音」と書いたらわかってくれて、「ツァオ・ツィオー」と教えてくれた。私が真似をするとかなり違うらしく、何度も何度も言われ、しまいには「ツィオー」のところだけ6回ぐらい言わされ、最後に「チ」だけを10回以上言わされたが、最後まで彼のお気には召さなかったようだ。それもそのはず、私には彼の「チ」と私の「チ」のどこが違うのかまったくわからなかったのだから直しようがないのだ。
そんなこんなで、目的の「媽媽桌球俱樂部」に着いた。媽媽はママと発音し、要するにホビープレーヤーを対象とした「ママさん卓球クラブ」だということが後でわかった。ウエブサイトには日本語表示もあった。http://mamapingpong.com/japanese.htm
入り口を入ると地下に降りる階段があって、目の前に楽しげな卓球クラブが現れた。中国語の文字の雰囲気も手伝って、さながら極楽に来たようであった(大げさだが)。
雑然としたカウンターは日本の卓球クラブと似たようなものだ。
鳥小屋のように金網で囲われた台もあって楽しい。明らかに素人の親子が延々と多球練習をしていたのだが、子供がラケットにさっぱりあたらないのにランダムのコースでボールを出す練習の効率の悪さに、すんでのところでアドバイスをするところだった。
店主の女性によれば、このクラブは創立40年で、もともとは彼女の母親が始めたものだという。その母親とは、元台湾代表の桃足という選手で、お父さんも卓球選手だったという。
私が「日本から仕事で来ているが卓球が大好きで、日本の卓球雑誌に記事も書いている」と吹いたら(嘘でもないんだが)、喜んでいろいろと説明してくれ、卓球までやらせてくれた。
会場にいた選手は、コーチの二人を含め私の相手にならなそうなへんてこなフォームだったが、いざ練習をしてみると、まったくノーミスである。最初の10本ぐらいすべて私のミスでラリーが終わるのだ。これはただ事ではないと思い、試合形式の横下サービスを出したところ恐ろしく短く切れたストップをされてノータッチを食らった。なんだなんだなんだ。こちらがスーツで外靴だったとはいえ、これはない。聞くと週に3日は練習しているという。たぶん試合をするとスコスコにされるのだろうな、という認めたくない予想が立ったので、礼を言って卓球を止めた。相手は英語を話し私を「素晴らしく基本ができている」と褒めてくれたが、そんなものができてもストップをノータッチじゃ話にならない。日本の卓球はどこか間違っているのだろう(私の卓球を勝手に日本に拡張してやった)。
卓球地獄だ。
ショーケースに面白い絵があったので由来を聞くと、ここで強いママさんに負けた男性が腹いせに「この女はオオカミなのに違いない」という意味を込めて描いたものだそうだ。「この人は絵の天才なの」と言っていたが、どこがだろうか。
最後に、この卓球場の広告が載った新聞をいただいて帰ってきた。楽しいひとときだった。機会があったらまた行きたいと思う。
見出しの「街頭夜猫族」ってのがなんとも楽しい。宮根さん、意味教えてください。なんとなく見当はつきますが。