私が所属している卓球クラブは、このあたり一体の呼び名をとってWiregrass Table Tennis Clubという。メンバーは私を含めて7人くらいである。練習場所は近くの教会だ。教会の敷地内に普通の体育館があるのだ。毎週火曜の夜が練習日だが、ときどき土曜日の午前もやる。そのときには遠くから(車で2時間くらい)何人かが練習しに来ることがある。
あるときスタンという人が来たのだが、その人が奥さんを連れてきた。見れば東洋人である。念のために「Nice to meet you」というと「私、日本人です。郁美と言います」と言われた。この町で私の会社の社員以外の日本人はほとんど見かけないので新鮮であった。スタンは郁美さんから日本語を少しづつ教えてもらっているようで、ところどころ簡単な日本語を話す。帰り際に、スタンが私に手を振りながら「初めました」と言った。どういう間違いなのかと思って考えてみると、これは英語の初対面での別れの挨拶である「It was nice to meet you」の直訳なのであった。
私もよく似たような直訳間違いをする。日本では相手から感謝されたときに「どういたしまして」という。英語ではこれは「You are welcome」だ。ところが日本では相手に謝られたときにも同じく「どいういたしまして」という。わたしはこれをつい直訳して、相手が間違って私にぶつかってきて「I am sorry」と言っているのに対しても「You are welcome」と言ってしまうのである。いくらなんでもぶつかられて「welcome」なはずないのに。「No problem」とでも言えばよいのだろう。
「初めました」といえば思い出すのが、なんでも過去形にしてしまう、日本のファミレスや居酒屋の店員である。「本日、ランチメニューはいかがでしたか?」と過去形で言うのである。「いかがでしたか」も何も、まだ注文すらしてねえっての。もちろんマニュアルどおりなのだろうが、どういう魂胆でこんな言い方を指導するのか本当に不思議である。もっとも、山形の人が「おはようございました」と朝一番から過去形で言うのは、ただの流行ではなくて由緒ある方言なので許す。
なんか止まらなくなってきた。コンビニの店員の「千円からお預かりします」とは何だ。「千円からいただきます」か「千円をお預かりします」ならわかるが、千円から部分的に預かって、いったいいつ返すつもりなのか。私はこれを最大限好意的に解釈し「金は天下の回り物だからいつかは自分のところに返ってくる可能性がある。その意味ですべての金の支払いは『預かっている』と表現しても間違いではないのだ」と自分に言い聞かせて怒りを鎮めるのがやっとである。
本当の理由はわかっている。金をもらうという行為をぼかして表現したいのだ。それが日本人の丁寧ということなのだ。「課長の方から説明します」と、人をよりによって方角で表現するのもそうだ。ものごとの輪郭をぼかすことがなぜ丁寧になるのか、私自身もそう感じるからこそ、不思議である。