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受講生2 カイル

もう一人の受講生はカイルという。ウエスト・フロリダ大学でこちらもIT技術を専攻している20歳。卓球歴はやはり1年半だ。こちらは前日から泊りがけで来て練習していた。とても太っていてかなり動くのが辛そうだが、そのわりにちゃんと打てる。おそらく運動神経はいいものと思われる。攻撃できるときに攻撃しないので「相手が守備選手じゃないかぎり、基本的にすべてのボールを攻撃するつもりで試合をしないと攻撃すべきときに攻撃できないので、常に攻撃の準備をしているように」とアドバイスをした。

こちらも効果はあって、指導後の試合でピータースから初めてゲームを取った。

これだけアドバイスの効果があると面白い。二人とも運動神経も体もあり、技術も蓄積されていて、ただその使い方がわかっていなかったのだ。

カイルはかなりの勉強家で卓球の知識もあり、世界でもっとも好きな選手はなんと水谷隼で、次が朱世赫だという。水谷があれほどボールが遅いのに勝てるのが不思議だし、中でも、ラリー中にやるラケットヘッドを回さないでへろーんと持ち上げるバックハンドが不思議で、「どうしてあれを相手は打てないのか」と言っていた。そういう不思議なところが他の選手と違っていて好きなようだ。水谷のボールが他の一流選手より遅いのは、もともとは右利きなのを卓球だけ左でやっているからだという説を教えたら「知らなかった」と喜んでいた。

女子選手で最も好きなのは福原愛だという。プレースタイルも好きだしもちろん顔も好きだという。プレースタイルなら中国選手の方が強いのにどうして福原なのか聞くと、中国選手は無表情(stone face)なので嫌いだそうだ。愛ちゃんは困ったり喜んだりするので、そういうところがいいのだという。なるほど、そういう見方もあるのかと思った。

インド人に荻村伊智朗と田中利明の話をふっかけられるのもいいが、アメリカ南部の田舎町で水谷と愛ちゃんのファンに出くわすというのも楽しいことだ。

ブログに写真を載せると言うと、ちょっとすました顔をして「20歳で彼女募集中って書いて」と言った。フィリピーナのクォーターだという。ピータースは何かにつけてカイルのことをスモウ・レスラー、スモウ・レスラーとしつこくいじっていた。

受講生1 ショーン

受講生の紹介をしよう。まずはショーンだ。アラバマ州立大学の学生でIT技術を専攻している23歳。私が行く前日も来て練習をしたという。卓球は1年半前から始めたそうだが、ピータースには失礼だが、まともな指導者がいなかったわりにはかなり上手だ。バックハンドが素晴らしく、チキータのコツを教えたらたちどころにできるようになった。恐るべき運動能力だ。

フォアハンドのテイクバックが腕だけで引いてそれゆえに大きすぎて打点が低いので、その点をアドバイスした。これは理解はしてもなかなか変えることはできず、後で自分で努力するように言った。むちゃくちゃ大きい腕のテイクバックで、腕が水平より上に2時くらいまで上がるのだ。つまり、打球をする前に肩の関節を180度近くスイングしているのだ。それで空振りもせずにちゃんとボールに当たり、打点も台と同じかそれより低いぐらいなのに速いボールがバンバン入っているのだから物凄い身体能力である。テイクバックを小さくして打点を早くしたらさぞ強くなるだろう。

また、初心者によくあることだが、いつもフォアドライブを練習しているのだが、試合になるとなかなか使わず、レシーブや3球目を安易につっつくので「レベルが高くなると最初のチャンスボールを逃がしたら勝ち目はない」と教えた。これは技術ではなくて単なる戦術なので、すぐに覚え、自分でもその効果に驚いていた。

黒人だけあって見事なトレッドヘアーであった。顔が音楽評論家の渋谷陽一に似ていると思ったが、こうして並べてみるとあんまり似ていない。

新聞記事

壁に貼ってあるのは卓球用品だけではない。自分が試合に出たときの写真や、新聞に載ったときの記事の切り抜きが貼ってあるのだ。3年前に私が上げた、彼のことを書いた卓球王国のコピーも貼ってあった。

驚いたのはある新聞記事で「アラバマ州のトッププレーヤーのひとりであるJota Itoはドーサンからブリュートンにやってきて、疲れて音をあげるまで、8時間もピータースとプレーした」なんて書いてある。ブリュートンのスポーツ新聞だ。どういう記者だか知らないが、ピータースが自分でそんなことを得意気に記者に話したのだ。まったく、ちゃっかりしたジジイだ。だいたいその時だって私は、「南アラバマ卓球クラブ」という名前に騙され、メンバーが17、8人いるというから来てみたらこの家だったのだ。

私が「俺のこと書いてる~っ!」と驚いていると、彼は別の新聞を取り出してある部分を指し「じゃこれは見たか」と言った。そこには次のように書いてあった。

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土曜日 卓球クリニック開催

南アラバマ卓球クラブは、第一回の年度行事として、日本からの講師を招き、フロリダ州とアラバマ州の選手を対象に卓球クリニックを開催します。

Mr. Itoのクリニックは土曜日で、練習は金曜の午後から日曜の午後までできます。

人数に限りがありますので、興味のある方はあらかじめ867-3198までお電話ください。
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ひぇーっ、新聞に広告出してるーっ!まるで講師を日本から呼んだかのようである。しかも第一回の年度行事とある。これから毎年やるつもりなのだ。

もちろん、電話してくる者などいない。今回の卓球クリニックの受講者は、ピータース本人とスタン、それから普段からピータースが教えている大学生の二人と分かりきっているのだ。そもそも南アラバマ卓球クラブなんてないし、年間行事もなにもない。すべてピータースがひとりで言っているだけなのだ。

誰も来ないのにこんな広告を新聞に出しているピータースを見ていると居たたまれなくなるのだが、そのいじらしさがなんとも愛おしい。ここまでくると、もうこのジイさんが何を言おうと、どんな性格だろうと関係ない。ここまで卓球を愛する人なら問答無用で仲間である。

卓球パラダイス2

壁は使ったラバーのパッケージで埋め尽くされているし、柱にはどうでもいいようなラケットがたくさん飾ってある。ラケットを持っていない初心者に貸すためだと言っていたが、本当は卓球用品で部屋を埋めたいだけだと思う。その気持ちはよくわかる。しかしこうしてみると、卓球用品ってなんてカラフルなんだろう。綺麗だ。私は正常な判断力を失っているのだろうか。

まさに卓球パラダイス

いつもながらこの卓球場の賑やかさには驚かされる。ラケットやラバー、ピンポン球がところ狭しと置いてある。卓球好きなら胸躍らないわけには行くまい。私が感心してみせると、年代物のスポンジラバーの貼ってあるラケットと、革貼りのラケットを得意気に見せられた。10年前にも見せられたやつだ。

今回はちょっとずうずうしく、スポンジラバーで球突きをさせてもらった。荻村伊智朗が言っていたように、スポンジラバーは現代の裏ソフトとは比較にならないくらい弾むのだろうか。見たところ、スポンジの厚みは5mmほどだ。結果は・・・全然弾まない。ラバーが古いのと、ラケットが悪いためかもしれない。

卓球クリニック

ドクター・チョップ(カット博士)ことロナルド・ピータースのことは、このブログや雑誌に何度も書いたことがあるが、先週末、彼の家に泊りがけで行って卓球をしてきた。彼の家に行ったのは、10年前に出張で来たとき以来だが、あまりにインパクトの強い体験のためにときどき思い出さざるを得ず、10年ぶりなのに懐かしいというよりはどちらかというと「また来てしまったか」という、うんざりした気持ちになったのが可笑しかった。

私は卓球をする情熱はもうないのだが、今回、彼から「生徒を集めて1泊2日で卓球クリニックをやるので、コーチとして来てほしい」という申し出を受けたのだ。日当まで払うという。ピータースは72歳で、しかももう10年も癌を患っている。今年の3月頃には「4月から放射線治療を始めるのでもう卓球はできない」と言うので最後のプレーのつもりでスタンの家で卓球をしたぐらいだ。そのピータースがまだ元気で、今なお私から卓球を習いたいというのだ。どうしてこれを断ることができよう。レッスン料などいらないと、喜んでピータースの家に行ったのだった。

とにかく彼の家は凄い。外見は寂れているのだが、家の中は彼の好きなもので溢れていて、彼がいかに好きなことを好きなだけやって生きてきたかがよくわかる。しかもピータースはその「好きなこと」が多いのだ。卓球、鉄道模型、銃、ナイフ、オーディオ、古銭集め、そして家中を埋め尽くす本、本、本。今も現役の歯医者なので、お金には困らず、欲しいものはどんどん買うのだ。それらを少しづつ紹介していこうと思う。再来月の卓球王国の記事もピータースのことを書こうと決めている。

彼の家に入ると、食堂、台所、リビングと一直線に通ることになる。そしてリビングの右側にガラス越しに見えるのが彼の自慢の卓球場だ。写真中央がリビングから卓球場を見た様子だ。

納豆とウニ

同僚のスティーブが、いかにも得意気な顔で私に聞いてきた。「前から一度聞いてみたかったんだけど、日本人は納豆が腐ったのをどうやって判断するんだ?」とのことだ。もちろん、自分が納豆を嫌いなもんだからわざと皮肉でこんなことを言うのだ。私は「腐っても臭いでは分からない。もともと腐ってるといってもいいかもしれない。賞味期限はあるけどそれは美味しく食べられる目安であって、古くなった納豆を捨てた経験はない。」と言った。

また、日本でも地域によっては納豆を食べないところもあるので、好き嫌いは人種ではなくて小さい頃から食べていたかどうかで決まるのであり、スティーブも日本で生まれ育ったらきっと納豆を食っていたはずだと言うと、「俺はそうは思わない」と言った。思い込みが激しいようだ。

次に、ホヤとかウニの話になった。私はホヤは嫌いだが、ウニは好きだ。20歳ぐらいまでは生臭くて嫌いだったのだが、あるとき、高級なウニを食べたらまったく生臭くなくて食べられ、そのコツが分かると安いウニの味も楽しめるようになったのだ。

私が「新鮮じゃないウニは臭いけど、新鮮なウニは臭くないんだ」と言うと、スティーブは「女と同じだな」と言った。同じ部屋の10mぐらいはなれたところに女性もいたのだがいいのだろうか。だいたい、古い男も臭いのは同じだし。

バーベキュー

夕方は、足立さんの家でバーベキューをご馳走になった。

奥さんに加えて、すでに独立している息子さんが同棲中の彼女を連れてやってきて、にぎやかなものとなった(そういえばこの日は7月4日、米国の独立記念日だったのだ)。

足立さんの息子さんはヨシヒトといい、フルネームはヨシヒト・アダチである。半分は日本人であることを忘れないように名前だけでも日本人らしくしたかったのだという。

日本に住んでいる日本人が子供に英語っぽい名前をつけたり、ロックハンドの人たちがこぞって英語っぽい芸名にするのと見事に対照的だ。

ちなみに、足立さんは大阪で今の奥さんと結婚したのだが、アメリカに移住したのは、日本ではハーフが珍しい存在なので、子供がなにかと目立っていじめられたり逆にチヤホヤされたりして普通に育たないことを懸念してのことだという。アメリカならハーフやクォーターは当り前にいるからだ。

翌朝、6:30の飛行機に乗るため、3時に起きて足立さんに空港まで送ってもらい、別れを告げた。足立さんは記念に借りていたオレンジ色の帽子をくれた。

このようにして、私のロサンゼルス2泊3日旅行は終わったのだった。一番面白かったのが卓球、次がレンタルビデオ屋の閉店セール、最後がユニバーサルスタジオの3Dキングコングである。『サイコ』のベイツ・モーテルはどこいった?という感じである

寿司屋「わさび」

ユニバーサルスタジオの外には、楽しげなみやげ物屋やレストランが並んでいて、歩くだけで楽しい気持ちになれる。ここなら入場券を買わなくても来れるので地元の人には良いのではないだろうか。

寿司屋もあったが、その店名は「わさび」だった。えらい寿司屋もあったものだ。

ひととおり通りを往復してユニバーサルスタジオを後にした。

帰路、ロサンゼルスらしい景色が広がった。

ウォーターワールド

この後、3D映画の『シュレック』を見て二人とも寝た。ああいう、ムーミンみたいな「お前らいったい何者よ?」と言いたくなるような登場人物だと物語に入り全然込めず眠くなるのだ。さらに『ホラー館』に入ったら日本にもよくあるお化け屋敷で苦笑(幽霊も化け物もいないことの方がずっと恐ろしい)。さらに『3Dターミネーター』でまた寝た。これは英語が分からないためだと思う。3Dターミネーターは、3D映像とスクリーンの前にあるセットと人がうまく切り替わり、あたかも3D映像が現実世界かのように錯覚させる素晴らしいものだったが、それでも寝てしまった(足立さんなど暗くなったとたんにゴーゴーと息を立てて眠り、クライマックスの爆発音で起きる始末だ)。日本語でもう一度見たいものだ。

あと、動物が芸をやるショー。鳩、鷲、豚、猫、チンパンジーなどを上手く調教し、面白い芸をやっていた。映画には何の関係もないように思われた。

ユニバーサルスタジオの一番人気のアトラクションは『ウォーターワールド』だ。海辺の製鉄所のようなセットの中で、役者たちが爆発や炎の間を縫って水上バイクに乗ったり高いところから飛び降りたりの寸劇をやるのだ。この炎の量が凄くて、観客席で見ていて顔に熱を感じるほどだった。登場人物の海賊たちはやけに悔しがったり啖呵を切ったりしていたがよくわからなかった。これも英語のせいだろう。ただ、仮にストーリーがわかったとしても、アクションはただのアクションに過ぎないので、「疲れるだろうな」と思うだけである。

こうして優待券のおかげですべてのアトラクションを回ったのだが、結局、もっとも面白かったのは最初のスタジオツアーだった。私が期待していたのは、映画づくりの裏側を見たり、映画の中に入ってしまったかのようなファンタジーを体験することだったのだが、ほとんどのアトラクションはちょっと映画にちなんだだけの普通の遊園地だった。そういうのが好きな人にはいいだろう。もともとそういうのは好きではない私が、来て文句を言っているのはお門違いなのだろう。ディズニーランドも「大人が見ても絶対楽しいから行ってみな」と何人もから言われているが、やはりやめておいた方がよさそうだ(隣のフロリダ州のオーランドというところには、わざわざ日本から来る人がいるほど大きなディズニーランドがあるのだ)。