1月の全日本選手権でテレビや卓球王国の誌面で解説していた水谷隼さん(五輪金メダリスト)は「ボールの材質も硬くなり、昔よりも卓球が高速化し、ラリー間の時間も短くなり、ラリー回数も減っている。台上チキータからの打ち合いでの高速ラリーで決まるケースが多い。中陣でのドライブの引き合いやロビングなどもほとんどなくなっている」と分析していた。
それは全日本選手権での話だったが、当然のことながら世界の卓球の最先端を行く、このWTTスマッシュでの選手たちの攻防はまさに「最先端」もしくは「未来の卓球」なのだろうか。
打たれたら止める、しのぐというのはもはや昔の卓球で、打たれたら打ち返す、まさに「倍返し」のような卓球スタイルになっているのだ。唯一、高速化の卓球の波に抗うのは、スウェーデンのモーレゴードのみで、カットブロック、ゆるいブロックを混ぜながら、バックハンドのカウンタースマッシュ、フォアハンドのドライブ、そしてロビングを織り交ぜている。
彼の多彩な技に対応できるのは中国の馬龍と樊振東くらいだろうと思わせるほどの変幻自在なテクニックとパワーが融合されていた。
世界の卓球は5年ごとにそのトレンドの変化と、技術の進化を見せていると言っても過言ではない。
2000年に卓球のボールは直径38mmから40mmになり、空気抵抗により、スピードと回転量が減少していく。同時に、21点制から11点制になり、サービス5本交代で1本ずつを積み重ねていく試合のやり方から、サービス2本交代で、スタートダッシュをかけ先行逃げ切りを計る試合のやり方になっていく。
この頃はスピードグルー(揮発性溶剤を使ったスピード増強接着剤)全盛で、卓球は高速化していく段階だったが、セルロイドボールを使用していて、ボールは(プラスチックよりは)軟らかく継ぎ目があるために回転ボールはサービス、ドライブ、カットなどがイレギュラーバウンドをしていた。
ときに不規則な飛びやバウンドをするボールに対して、簡単にはカウンターできずに、強い攻撃に対してのブロック技術は必須だったし、カウンタードライブと言っても前陣でのカウンターというよりも打球点を落としてボールの回転量が減ったのちのドライブの引き合いが主流だった。
2008年9月にスピードグルーが禁止され、明らかにスピードダウンした卓球は、用具に関しては同年に発売された「テナジー」(バタフライ)に代表されるように、回転志向に入っていく。この頃から、スピンテンションと言われる回転性能の高いラバーが多く発売され、中国ラバーでは違法ではあるがブースター(油性の増強剤)を塗り、回転とスピードを求めていった。
そして、3、4年間の開発準備期間を経て、2014年からプラスチックボールが登場し、当初はセルロイドボールと混在する時期もあったが、15年からは全面的にプラスチックボールに変わっていった。また材料も日本製と中国製で異なることもあったが、ニッタクが当初から使用していたABS樹脂で統一されてきている。それでもメーカーごとの差異はあるが、共通しているのは硬いボールになり、シームレスになったことでイレギュラーすることはない。
同時にプラスチックボールになり、ボールの回転量が減ったことによって、選手たちはラバーに回転性能を求めている。見ている限りは回転量の減少はわからないが、結果としてトップ選手たちはよりカウンタードライブのやりやすい、つまり水平方向に振り出してもボールが落ちない用具を求めている傾向がある。
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