卓球王国 2024年10月21日 発売
バックナンバー 定期購読のお申し込み
トピックス

「30過ぎてもまだまだ強くなれる。ポテンシャルを信じて、ドイツで頑張ってほしい。彼はできますよ」水谷、上田へ贈る言葉

上田は戦術に長けていて、
勝負どころでの戦い方は非常に賢い

水谷隼さん(五輪金メダリスト)が卓球王国WEBの「上田仁インタビュー」を読んで、「上田へ贈るメッセージ」としてインタビューで話してくれた。
上田仁は全日本選手権ではランク入り(ベスト16)が7回で、ベスト8が2回、ベスト4に2回入るなど素晴らしい実績を残している。日本代表としては2018年のチームワールドカップで日本の決勝進出へ大きく貢献した。
Tリーグの創設に合わせ、自らの心の中にくすぶっていた「卓球選手」の火種を「プロ卓球選手」へと大きく燃えさせた上田。安定した大企業での生活を捨て、ラケット一本で勝負を挑んだ。
31歳にして、東京の家も売り、家族ともどもドイツのブンデスリーガ参戦を決めた。チームは今シーズン、現時点で1部リーグ6位の「ケーニヒスホーフェン」。中高時代の恩師、板垣孝司が監督を務めるクラブだ。
全日本の準決勝で2回対戦した青森山田学園の2年先輩の水谷隼さんが上田選手を語ってくれた。単なるメッセージではなく、「もっと強くなれるよ」「もっとこうすれば」という水谷流の「叱咤激励」とも言える贈る言葉だ。
インタビュー=今野昇

・・・・・・・・・・・・・・・

●ー上田仁君は青森山田時代の後輩ですね?
水谷  青森山田では3年(自分)、1年で、正直そんなに絡むことはなかったと思う。上田自身はどこかでぼくをライバル視していたように感じているんですよ。試合をやっても「上田はすごく対策をしているな、研究してるな」「勝ちに来てるな、おれを越えようとしてるな」と強く感じていました。それは入念に準備をしていないとできないような戦術をしてきたからです。
ぼくに向かってくる選手だから仲良くはなれないですよ。勝負の世界、アスリート同士で親しくする必要はない。それがぼくの考え方です。

●ー二人の中でのエピソードはありますか?
水谷  Tリーグや全日本選手権で何度も対戦したけど負けたことなかった気はします。競り合いになることも多かったけど最後勝負所で点数を取ることができた。

2018年12月8日のTリーグ、木下マイスター東京対岡山リベッツ。上田は2-1とリードした4ゲーム目、2回のマッチポイントを奪いながら水谷の前に力尽きた

 

●ー彼の卓球で良い点は?
水谷 戦術に長けていて、勝負どころでの戦い方は非常に賢いです。

●ーそれでも君には勝てなかった。
水谷  賢すぎるんです。彼がぼくの対策をしてくるのをわかっていたから、その上田がやってくる対策を、ぼくがさらに対策すればいいからやりやすい。必ず前回の反省をするし、ぼくの弱点を攻めてくる。たとえば、全日本で1番競り合った時にフォア前の巻き込みサーブを僕が全然レシーブできなかった。それ以降6〜7年間ずっと巻き込みサービスでぼくのフォア前を狙ってきた。確かにぼくが嫌なサービスなんだけど、それを出してくるのが分かっていれば対策は打てる。前回のデータを元に試合を組み立ててくるのでやりやすかった。もっと新しいことをやってくるほうがぼくはやりにくかったと思う。

●ー上田君も1シーズンを高校の時に経験している。でも、その後、ブンデスリーガに行かなかった。岸川、水谷、高木和というドイツでプレーしている姿を彼は日本から見ていた。
水谷  今からでも遅くないですよ。ぼくが東京五輪で金メダルを獲ったのも31歳の時ですよ。上田も今31でしょ。自分の年齢を過剰に意識するのは逆に良くないと思う。オフチャロフも32歳で東京五輪のメダルを獲っています。ぼくは上田に「おまえ、自分が歳(取った)だと思っているの?」と言いたいですね。

●ー彼が日本とは言え、自分の年齢や周りの雰囲気を気にしていた時点で彼の成長を止めていたのだろうか?
水谷  気にしている以上は成長できないと思います。絶対どこかで頭をよぎるし、それが言い訳にもなってしまうから。そういう点では吉田海偉さんはすごいですね。あの年齢(41歳)でも「オレは若いよ」と言いながらプレーしているし、頑張れるし、コンスタントに成績をあげて落ちていかない。落ちていく選手というのはどこかで口に出して、「オレも歳だから」と言ったりするんですよ

●ー水谷君も年齢のことを言ってなかった?
水谷 ぼくは逆に年齢を重ねた方が燃えるタイプです。目の問題がなかったら、40歳までやるつもりだったし、できると思っていたんですよ。ヨーロッパの選手を見ていてもは普通に30過ぎでも強くなるし、やっています。30歳をすぎると落ちると思うのは、日本選手の甘えです。人間の体がそこで急に落ちるものではない。ヨーロッパ選手にできて、日本選手にできないわけないでしょ。

●ー日本選手はもともと企業スポーツでやってきて、30歳前後で仕事を選ぶとか、卓球をする時間を減らして仕事を、という環境が長かったせいなのかな。
水谷 それもあると思います。今までの日本選手は30歳くらいで人生の選択を迫られてきたんですね。ただ上田はこれからも強くなれると思います。それに自分だけならまだしも、家族と一緒に行こうと思うのはすごいですね。ついていこうという奥さんもすごい。板垣さん(孝司・ケーニヒスホーフェン監督)がいるから安心していける部分もあるでしょうね。

●ー今から予測するのも何だけど、ドイツ経験のある君の予測では、上田君はブンデスリーガではどのくらい勝てるだろうか。
水谷 五分五分くらいまでは勝つかな。まだまだ強くなると思うから、まずは体に気をつけてほしい。

●ー30歳を過ぎてもドイツで勝負しようという彼の心境は理解できるのかな。
水谷 それはすごいと思います。これから日本選手でも年令を重ねてから海外のチームで頑張る、吉田さんや(松平)賢二、ジンタク(神巧也)みたいな選手も増えると思う。コーチとしてもそういう(海外で活躍する)人が出てくるかもしれない。

2014年全日本での上田

関連する記事