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【ブンデスリーガ&ECL現地レポート】あえて過酷な場所を選んだ戸上隼輔「オクセンハウゼンは理想の環境」

ドイツ・ブンデスリーガ男子1部の強豪クラブ「オクセンハウゼン」の練習場

 戸上隼輔が練習場に現れたのは午前9時を回った頃だった。

 取材の挨拶もそこそこに手渡したのは、ニンニクチューブに生姜チューブ、焼肉のタレに数種類の袋麺。自炊をしている彼に日本から持参した品々だ。「料理はかなり上手くなりました。得意なのはパスタです。先日、炊飯器も届きました」(戸上)。

 今シーズン、名門卓球クラブのオクセンハウゼン(現在リーグ4位)からブンデスリーガに参戦している戸上はクラブが所有する宿舎で、さまざまな国々から集まったチームメートたちと一つ屋根の下に暮らす。チームメイトにはゴーズィ(フランス)やカナック・ジャー(アメリカ)らがいる。

オクセンハウゼンには世界中から有望な若手が集い、練習に汗を流す

 オクセンハウゼンはスイスやオーストリア国境近くのバーデンヴュルテンベルク州に位置にする、人口8,000人ほどの長閑な田舎町だ。そこで戸上は朝9時半から正午頃までと、休息を挟んだ夕方4時から6時頃まで練習をする日々を送る。オフには現地調達したマウンテンバイクで約20分ほどのサウナに行くのにハマっているという。

 「日本の健康ランドみたいな施設です。他には何もない」。そう言って笑う21歳は、若者にとっては退屈であろうこの場所に自ら望んでやって来た。「昔から理想としていた環境がここです。卓球に集中できるし、周りに日本人がいなくて生活するには必ず英語が必要。そういう過酷な場所で強くなって自信をつけて日本に帰りたいんです」

人口8千人ほどのオクセンハウゼン。牧歌的な街並みが続く

 クラブの練習施設は申し分ない。クラブCEOのクリスチャン・ベジノビッチをはじめスタッフやチームメートも優しく親切で、戸上を手助けしてくれる。

 戸上自身もまたドイツに渡る以前から英会話を勉強し、積極的に周りに関わるよう努め、英語によるコミニュケーションスキルを磨いている。中でも1歳下のクルチツキ(ポーランド)とは気が合う様子で、食事中お互いの皿をつつき合う微笑ましい光景も見られた。

クラブのメンバーとの食事風景。戸上の右隣がクルチツキ(ポーランド)

 そんな和気あいあいの時間がある一方、練習の密度は濃い。通常は実力の近い選手同士で練習するが、デビュー戦のグリューベッターズバッハ戦(124日)を終えたばかりの戸上には、元中国ナショナルチームの選手で1996年にドイツに渡ったコーチのフー・ヤンがマンツーマンで指導をつけていた。初戦の反省を踏まえたレシーブ練習と、バックハンドのタイミングを見直す2人。

 特にバックハンドに関して、「いつもと同じ位置に立っていると思ったら、台から下がってプレーしていた」と言う戸上。日本や中国などアジアの選手に多い直線的な打球に対し、ヨーロッパの選手の打球は弧を描くような軌道のため、知らぬ間に台から下がってしまっていたようだ。

 そこでフーコーチは、戸上が半歩前でプレーできるよう彼の背後にフェンスを置き、必要以上に台から下がると体がフェンスに当たる状況を作った上で、ループ系の球出しをする初歩的な練習を行った。「こういう練習は小学生以来」と苦笑いの戸上。他にも球出しのスピードや回転、高さや長さを極端に変えた多球練習を行い、「ここまで球出しに落差がある練習は日本ではやらない。全然対応できないです」と戸上は目を白黒させていた。

後ろにフェンスを置き、台から下がりすぎないようにして多球練習を行う戸上

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