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インタビュー

ドイツでのコーチ生活5年:板垣孝司

青森山田中・高でコーチおよび監督を14年にわたり務めた板垣孝司は、2016年から新天地・ドイツに渡り、ブンデスリーガ「ケーニヒスホーフェン」での指導を続けている。ドイツ行きの経緯、そして日独の違いなどを語っていただいた。

 かつて、「ジュニアナショナルチーム」と呼んでも過言でないほど、日本代表あるいは代表候補選手がひしめいた青森山田。通算14年、指導に携わった板垣は、国内での指導生活を続けるのが当然の選択肢だった中で、あえてドイツに渡るという決心をした。

 「英語教諭をしており、またヤマダのトップ選手とともに海外遠征に帯同する中で、海外での指導に夢を持っていました。その中で、青森山田学園の木村隆文理事長(当時/故人)、吉田安夫先生(故人)、邱建新さん、平岡義博さんなどとの出会いとサポートがあり、シェークハンズの小谷彰彦さんにも支援していただき、夢を実現することができました。

 最初、妻に話をした時は大反対されましたね。しかし最終的に私の考えを認めてもらい、2016年1月、全日本選手権が終わってそのまま成田からドイツに渡りました。子どもたちにも最初は負担をかけて申し訳なかったですが、子どもたちは順応性が高く、ドイツ語も覚え、生活に馴染んでもらえました。私は未だにドイツ語は片言で、選手たちとは英語のコミュニケーション。子どもたちは、自宅ではもちろん日本語ですが、父親に聞かれたくない話はドイツ語で話していますね(笑)」

ケーニヒスホーフェンは板垣の赴任から2シーズン連続で2部リーグ優勝。胴上げされる板垣

 

 長年のコーチ経験がある板垣にとって、ドイツで選手にアドバイスを送ることは、日本時代と大差はないという。ただし、卓球文化や、プレースタイルに関する考え方の違いはあった。

 「今は日本にもTリーグがありますが、ドイツでは長年、選手は職業として卓球をする土壌がある。ケーニヒスホーフェンで言えば、現在39歳のシュテガー(ドイツ)は、ドイツ代表に選ばれる機会は少なくなったものの、未だにプロ意識が凄く、最近はむしろ強くなっているくらいで、本当に感心します。一方で、日本のジュニアでは顧問の先生が絶対的ですが、ドイツでは個人主義。練習より家族との時間を優先することも多く、コーチに強制力はありません。練習を継続して強くなるという日本流の手法が、当てはめられない場合もある。その中で、どのように練習計画を立てて選手に伝えるかは、今でも課題のひとつです。

シュテガーにアドバイスを送る板垣

 プレースタイルもみな個性が強いですね。日本選手がチームに練習に来てくれることがありますが、改めて感じるのは、皆きれいな打ち方でミスが少なく、気持ちよくラリーが続くという点。一方でブンデスリーガの選手たちの打ち方やスタイルは、良くも悪くも個性的。以前チームに1シーズン在籍していたヨルジッチ(スロベニア)などは、コートの3分の2をバックで打ち抜こうとする。最初はあまり勝てなかったし、『むちゃだな』とも感じました。しかし本人の向上心は高く、私が渡した試合動画を見て研究し、努力していくうちに、グングン強くなっていき、オフチャロフ(ドイツ)にも勝つほどになった。もちろんフォアが要らないというわけではなく、最終的にはバランスが必要にはなると思いますが、ヨルジッチの成長を見て、私も個性を生かす方向に考えが変わりましたね。衝撃的でした」

1部昇格後に初勝利した試合で2勝したダルコ・ヨルジッチ(スロベニア)を抱擁する板垣

ジュニアチームが全ドイツカデット団体選手権で初優勝

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