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5足のワラジ男。卓球という点を線でつなぐ森薗政崇「みんながハッピーになる卓球界を作っていきたい」

「今いろいろやっていることがぼくは楽しいし、自分を充実させたい気持ちが強い」

 

 よく動くのは卓球だけではない。チーム運営、監督として、この28歳は多忙な日々を送っている。「選手に集中しろよ」と言われるかもしれない。しかし、森薗政崇(ボブソン)は自分の衝動を抑えられない。

 Tリーグに新参戦した「静岡ジェード」の中心選手であり、監督も兼任。新チームの静岡ジェード創設に動き、球団運営を行いながら、営業活動として県内のスポンサーを精力的に回った。

 一方、卓球用品販売のショップや卓球場を経営するFPC株式会社の代表取締役社長も務める。最近は公認コーチを取得し、ナショナルコーチアカデミーを受講しながら、指導者の勉強にも時間を割いている。

「それは選手としてどうなの? 選手に集中すべきじゃないか、と言われるのが嫌で、選手として成績を落としたくないし、どういう仕事をしていても、練習の量と質は落としたくない」と森薗は語り、それを実証するかのように静岡ジェードの単複に出場し、龍崎東寅と組んだダブルスでは6戦全勝。圧巻だったのは8月26日の優勝候補の木下マイスター東京戦で、単複2勝をあげて、チームは4-0で勝った。8月の6試合を終えて、チームは6チーム中3位につけている。「選手兼監督の森薗」の成績としては十分な結果と言える。

 超多忙でマルチな活動のように見えても、森薗の行動は「卓球」という「点」でそれぞれがつながり、現在、太い「線」として見えている。「逆に、みんなは退屈じゃないのかなと思います。今いろいろやっていることがぼくは楽しいし、自分を充実させたい気持ちが強い」(森薗)。

 自分が中心にいたいがために森薗が新チームを作ったのではない。「新しく1チームできれば、日本選手の6人程度にはチャンスが生まれて、他チームで出場機会のなかった人たちが舞台に立てる。そのチャンスを作りたかった」という将来の卓球界への熱い想いなのだ。今のTリーグに足りないものは多い。足りないものは補えば良い。しかし、現場にいる人に「卓球愛」がなければリーグは衰退していくし、卓球愛を関係者には注入することはできない。

だからこそ卓球愛にあふれる森薗政崇の行動に地元のファンが共感する。モノ、金は重要。しかし、最後に地元の人々の心を動かすのは「人」であり、「卓球愛」ではないのか。

 卓球では小柄ながらも俊足を生かしたフットワークとドライブ、台上でのチキータが森薗の代名詞。器用ではないが、常に闘志を感じさせる選手だ。 2017年には世界選手権の男子ダブルスで銀メダルを獲得。2018年のTリーグ開幕の時から、岡山リベッツでプレー、リーグでの存在感を放ってきた。

 森薗は小学生時代から全国で活躍し、全日本カブの部では優勝を飾っている。しかし、毎年のように「将来のスター選手候補」が出てくる卓球界において、彼が頭角を現していくのは青森山田中に入学してからだ。1年の時からドイツに練習に行き、2年の時から『フリッケンハウゼン』のサード(3番)チームとしてチウ・ダン(ヨーロッパチャンピオン)と一緒に4部リーグに出ていた。そして、階段を一歩ずつ上がるように3部、2部、そして大学1年の時には念願の1部リーグに参戦。「大学3、4年はブンデス1部の『グリュンヴェッターズバッハ』に在籍したけど、温かくて、家族のようなとても良いクラブで、その経験が自分の中に強く残っています」。森薗は計8シーズン、ドイツリーグを経験した。このキャリアは岸川聖也(T.T彩たま監督)の10シーズンに次ぐものだ。その間、国内でも全日本ジュニア優勝やインターハイ優勝という実績を残している。

 

8月5日のホーム開幕戦、静岡駅に直結するショッピングビルは静岡ジェードのオレンジに染まった

 

8月6日のホーム開幕2戦目の金沢ポート戦。単複で2点取りした森薗政崇

 

「Tのほうがブンデスよりは1シーズン目から大きいんですよ。観客動員もTのほうが多い。でも、手軽感や手作り感がブンデスにはある」

 

その8シーズンのドイツ経験が現在の森薗の考え方や行動に大きな影響を与えているのは言うまでもない。現在のTリーグ関係者、各チームの関係者にドイツをはじめとする海外リーグを経験した人が少ないのは残念だ。プロリーグの歴史を重ねているヨーロッパのクラブチームがどのように運営され、どのように地域に密着しながら活動するのかを知ることはリーグ運営、チーム形成に大いに参考になるだろう。

森薗はブンデスリーガの最後のシーズン(2017~18)でリーグの最多勝選手となっていた。しかし、2018年にTリーグがスタートする時に、迷わずに日本でプレーすることを選択した。「国内でそういうリーグがほしいと思っていたし、(松下)浩二さん(前チェアマン)にも声をかけられた時はうれしかった。でも、日本の若手にはもっとヨーロッパのリーグを経験してほしいと思っています。Tリーグのレベルは高いけど、それとは全く別のもの、得られるものがヨーロッパにはあるから」と語った。

「規模で言っても、Tのほうがブンデスよりは1シーズン目から大きいんですよ。観客動員もTのほうが多い。でも、手軽感や手作り感がブンデスにはある。たとえば土日の2時からの試合がTにはあるけど、土日の2時だと1日を使うじゃないですか。平日の夜、金曜の夜にビール片手に卓球の試合を見る手軽さがほしい。(Tリーグでは)派手な演出をすればするほど恩着せがましくなって、『楽しませなきゃ』、お客さんも『楽しまなきゃ』となる。それもいいけど、狭いところでもいいから手軽に選手のプレーを見せたい」(森薗)。

 彼がドイツのプロリーグを経験したからこそ感じることは多い。それは単にブンデスリーガの礼賛ではなく、Tリーグの将来を見据えて、改善点も踏まえながら、大きな可能性も肌で感じているからだ。「Tリーグを人に見てもらわないと何も集まってこない。多くの人に見てもらっているという前提で企業もお金を出すわけだから、見られていないものにお金は出さない。今からでもその露出の部分は改善してほしい」。

 1シーズン目に千人を越えていた観客数はコロナ感染が終わっても戻っていない。6シーズン目の今年は観客100人程度の試合もある。あのお客さんはどこへ行ったのだろうか。会社の動員だったのか。そういうリーグは持続可能なのだろうか。「Tリーグはすごく良いコンテンツです。クオリティーは非常に高いし、それが生かされないのは卓球界としてもったいない」(森薗)。

 バスケットボールと同じアリーナスポーツの卓球のプロリーグが、持続可能なリーグになっていくためには何をすべきか。大きな企業体を母体としない新規チームの金沢や静岡が、地域に根ざして卓球を広めていくことの意義は大きく、琉球、岡山、彩たまも含めた地域密着のチームが成功していくことが、Tリーグの全国への広がりと卓球の普及の鍵を握っている。

 その中でのキーパーソンは森薗政崇かもしれない。彼は将来の卓球界を見ている。「しっかり協会の内部に入っていき発言できるようになりたいですね。そして、みんながハッピーになるような卓球界を作っていきたい気持ちがあります」。

 大志を抱く森薗政崇。5足のワラジを取っ替え引っ替え履きながら、卓球界を疾走すればいい。「久々に卓球の話をじっくりできて楽しかった!」と充実の笑顔で帰っていく彼の姿は実に頼もしかった。(文中敬称略)

 

ホームでの金沢戦、静岡ジェードのベンチ

 

8月26日の木下マイスター東京戦で単複2点取りした森薗。静岡ジェードは8月の6試合を3位で終えた

 

文・写真=今野昇

試合写真(木下マイスター戦)=中川学

●森薗政崇のインタビューは卓球王国11月号(9月21日発売号)で紹介します

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もりぞの・まさたか

1995年4月5日生まれ、東京都出身。青森山田中高、明治大学卒業。全日本ジュニア、インターハイ優勝。2017年世界卓球デュッセルドルフ大会男子ダブルス銀メダル、2021年全日本卓球選手権男子シングルス準優勝。FPC株式会社の代表取締役社長も務める。Tリーグでは5季岡山リベッツでプレーし、静岡ジェードの立ち上げに関わり、監督兼選手として活躍している

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