9月から10月にかけて行われたヨーロッパ選手権やアジア競技大会が終わり、国際舞台はWTT(ワールド・テーブルテニス/卓球の国際ツアー戦)ツアーへと移っていく。WTTフィーダー/コンテンダー/スターコンテンダーという格付けは日本の卓球愛好者もなんとなく、理解しているだろう。その上のWTTチャンピオンズ、WTTファイナルズが11、12月に続く。
多くの日本選手がこれらの大会に参戦しているのだが、それぞれのエントリー事情が違うことを知っている卓球ファンは少ないだろう。
先にドイツの事情を説明しよう。チウ・ダン、オフチャロフ、フランチスカなどを擁するドイツ男子チーム。オリンピック、世界選手権、ヨーロッパ選手権、そして一部のWTTはドイツ卓球協会がエントリー(大会申込)、交通費、宿泊費などの費用をすべて負担する。
しかし、それ以外のWTTの大会は協会がエントリーを行うが、費用は個人負担になっている。ヨーロッパ選手がアジアのWTTに出る場合、1大会に出るのに選手ひとりにつき50~80万円かかるので、1年で10大会に出るとすれば数百万円の出費となる。これは日本選手も同様だ。
選手によっては、卓球メーカーとの契約の中に2~3大会のWTTの費用負担が含まれるケースもあるが、これはそれなりに世界ランキングの高い選手の場合で、卓球メーカーは選手に100~200万円の契約金を与えているのと同じことになる。多くの選手は自己負担はまぬがれない。
自らもかつてワールドツアーに出ていたトップ選手で、現在は選手のケアをすることもあるTBE(タマス・バタフライ・ヨーロッパ)の梅村礼さんに話を聞いた。
「ドイツでは協会はジュニア選手はある程度サポートするが、シニア(一般)の選手は自分で負担しなさいというスタンス。WTTでも協会はエントリーのみ。大会に出るのに毎回オフィシャルの高いホテルに泊まれないから、アパートを共同で借りたり、試合で負けたら宿泊費がもったいないので、すぐにチケットを変更して帰国し、ひとつでも多く大会に出られるようにプランニングするのは当たり前です。ハングリーなプロ選手としては自立していますね」
ほとんどの日本選手は、日本卓球協会がエントリー、宿泊、飛行機のチケットの手配を行う。主要な大会の費用を協会が負担するのはドイツと同じだが、それ以外のWTTに関しても選手たちのケアをする。ジュニア(ユース)の試合(WTTユースなど)も多く、WTTにも相当な数の選手が参戦するので、協会スタッフの仕事量は膨大なものになる。
最近、WTTに参戦する日本選手や関係者から「WTTに参戦したくても経済的に大きな負担だ」という話を聞く。実際には、日本卓球協会の強化予算の範囲の中で、男女監督が数名の選手を「協会派遣」として、その費用は協会が負担する。JNT(ジュニアナショナルチーム)も同様だ。
ちなみに今年度の日本卓球協会の強化予算は約5億円、昨年度は約4.2億円だったので、減っているわけではない。多いようにも見えるが、この予算で「WTTに参戦した選手の経費をすべてまかなえる」わけではない。
通常WTTには「協会派遣」以外の選手は自己負担で参戦する。卓球部として予算を相当に持っているチームは、会社(スポンサー)が負担できるが、個人で活動している選手にとっては非常に大きな負担となる。
選手によっては専任コーチ、練習相手、マッサーを帯同させると、1大会だけで相当な出費となるので、個人ではもはや不可能で、強力な母体(もしくはスポンサー)に所属していないと出たいと思うWTTには参戦できない。
ヨーロッパの選手が日本の強化体制をうらやむ話をよく聞くし、プロ卓球選手にとって理想的な環境のように考えているが、実際にはごくひと握りのトップ選手だけが可能なのだ。
日本卓球協会の強化予算は無尽蔵にあるわけではなく、過去にもオリンピックが近づけば「世界チームランキング」を上げるために戦略的に選手派遣をしてきた。世界選手権やオリンピックの代表クラスになれば。「協会派遣」の恩恵を受けるかもしれないが、それ以外の中堅の選手は自力で上がっていくしかない。
その「自力」と言う時に、実力だけでなく、サポートしてもらえる環境や金銭的な面が重要になるのは言うまでもない。
かつて日本人として初めて世界最強のドイツ・ブンデスリーガに挑戦した松下浩二氏はこう言った。「目の前のお金をつかもうとすると強くはなれない。強くなれば必然的にお金はついてくるものだ」と。
プロ選手が多くなっている日本の卓球界。目の前のお金をつかもうとするのか、実力を上げることを第一とするのか。選手の将来は、目指す方向によって決まるとも言える。
<写真=WTT>
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