10月18日、日本卓球協会は公式ホームページで「全日本選手権の無観客開催」の情報を明らかにした。
コロナ禍で、協会主催の全国大会は開催半年前に開催の可否を決定することになっている。全国規模の大会では主管団体などが準備のために時間を要し、予選を行うことも多いためだろう。その際、有観客で開催するのか、無観客にするのかを決めるのだが、コロナ禍では今まではすべて無観客としてきた。
来年1月24日から予定されている天皇杯・皇后杯2022年全日本選手権大会(東京体育館)の開催は、すでに7月19日の日本卓球協会の臨時理事会で決定されている。その際に、無観客開催が承認され、選手の帯同するコーチなどの関係者などの人数制限が設けられる。
理事会の時期が新型コロナ感染が拡大している時期だったために、議論の余地もなく無観客開催となった模様だ。現在、東京では感染者数が劇的に減っているが、今後、再び感染者数が増加に転じることも予想されるために、理事会決定での無観客開催を18日に発表したと思われる。(現在、全国各地で全日本予選がすでに行われ、代表が決まっている)
また、昨年同様に全試合をライブネット配信などでカバーするということなので、各地でも「おらが町の選手」をパソコンやスマホで見ながら応援もできる。
日本卓球協会・星野一朗専務理事のコメント
「前回(2021年1月)の全日本卓球はダブルス種目を中止として、種目を減らしましたが、来年の大会ではダブルス種目を戻し、ジュニアを含めた全7種目で開催します。そのための練習やコートの制限などが発生しますが、ダブルス種目の復活を優先しました。今まで開催してきた全国大会などでも、5ゲームスマッチを3ゲームスマッチに変更するなどの制限がありました。準備期間を考え、7月には判断しなければいけなかったので無観客開催となりました」
無観客開催は感染リスクを最小限に抑えるという意味では理解できる。しかし、10月の時点でのこの情報開示、感染状況が最悪だった7月の時点での決定事項をそのまま実行することに疑問の声があがるのは必至だ。
全日本選手権に出場する選手や指導者に無観客開催の話をすると一様に「え? 無観客、本当ですか」と驚きを隠さない。
ほかのスポーツイベントでも、入場制限をしながらも有観客にして、観戦する人、選手側に「スポーツの楽しみ」を提供している。なぜほかのスポーツイベントでできることが「全日本卓球」でできないのだろうか。
ニューノーマルな生活、「ウィズコロナ」で暮らしていくことに世間が動いているこの時期での「無観客開催」に失望する卓球ファンや選手が数多くいるだろう。
試合がライブ配信されるとしても、無観客だったために大会が盛り上がりに欠けたことは、前回の全日本で経験している。選手にとっては観客がいる中で試合をすることの喜びは何ものにも代えがたいものだろう。
主催者には卓球ファン、愛好者に試合を見てもらう方法も考えてほしかった。有観客にするべくもう少し柔軟性のある対応ができなかったのだろうか。
深刻なコロナ禍の9月まで全国各地で数多くの大会が中止や延期に追い込まれた。中学、高校での部活動の停止や制限、公共スポーツ施設の使用制限などで、卓球界は冷え込み、卓球市場も大打撃を受けた。
来年1月とは言え、「卓球界は感染対策をゆるめるな」という意見も多いだろう。万全の感染対策のもとで行うのは当然としても、「全日本」は特別な大会なのだ。
先日、ドイツ卓球協会の事務局の人たちとオンラインでミーティングをした。彼らは「2023年を目標にドイツ選手権を新しいコンセプトで開催したい。ドイツではトップ選手が大会に参戦しないなどの問題点が多い。日本の国内選手権(全日本)、『全日本はすごいらしい』という話は聞いている。参加する選手の実態を教えてほしい」というテーマだった。
この歴史と伝統のある「全日本」が、いかに卓球選手の憧れのステージであり、重要な大会なのかを説明すると同時に、この大会が1億円前後の運営費とほぼ同額の事業収入(スポンサー収入、チケット収入等)があることを説明すると、「それはレベルが違いすぎる、そんな規模の国内選手権があるのか」と驚いていた。
世界中が注目し、日本が世界に誇れる「全日本卓球」を感染リスクを抑えたいという理由で半年前に無観客開催にしたのは理解できる。しかし、その半年前の決定について、なぜ再び議論をしないのか。
東京五輪で卓球が盛り上がりを見せ、注目されている状況の中で、その熱気をしっかりと受け止める姿勢が協会には必要ではないだろうか。
今からでも遅くない。協会関係者が卓球ファンや選手の声に耳を傾け、全日本の意味を考えていただくことを願うばかりだ。
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