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水谷隼の逆襲「誰も知らないところで挑戦して、そこを絶対乗り越えて いこうと思いました」

<卓球王国2014年2月号より>

 

水谷隼の逆襲

[真実のインタビュー]

誰も知らないところで挑戦して、

そこを絶対乗り越えて

いこうと思いました

水谷隼

(当時DIOジャパン)

 

 

チャンピオンにとっての最大の屈辱は敗戦という

事実を受け入れることかもしれない。

水谷隼は国内最高のステージ、全日本選手権で

2年連続、決勝の最終ゲームで敗れた。

それは5年連続王座に輝いた男にとって

試練という名の苛酷な時間だった。

そして、2012年ロンドン五輪では

シングルス第3シードながらあえなく敗れ、

団体でもメダルを逃した。

何がこの男を狂わせたのか。

このまま「元王者」と呼ばれるのか。

今、水谷隼が「真実」を語る。

 

聞き手=今野昇(本誌編集長)

 

 

悔しいし、戻れるならあの時に

戻りたいという思いが常にあります

 

11月の中旬。ヨーロッパから戻ったばかりの水谷隼は、冬の足音が聞こえてきそうな東京にいた。12月に入ったらまたロシアに旅発つ。

取材当日、ジーンズ、Tシャツの上に、ブラックレザーのブルゾンを纏い、現れた。いつものように、ちょっぴり気恥ずかしそうにあいさつを交わし、表紙の撮影、技術撮影を済ませて、久しぶりのインタビューが始まった。今まではいつもチャンピオンインタビューだったが、今回は違う。彼の中の「真実」を探るためのインタビューなのだ。

今シーズンはロシアのUMMCに所属し、ロシアリーグとヨーロッパチャンピオンズリーグ(ECL)で戦っている。今まさに、王者が眠りから覚めようとしている。

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水谷 王国のインタビュー、ずいぶん久しぶりですね。

●ー(水谷)隼、最近勝ってなかったから(笑)。そこでまず聞きたいのは、全日本選手権で2年連続、決勝で最終ゲームで負けたこと。2回の敗戦によって屈辱を味わい、プライドを傷つけられたのではないか。

水谷 すごい悔しかったのは当然です。悔しいし、戻れるならあの時に戻りたいという思いが常にあります。

 

●ーまだ引きずっている?

水谷 引きずりますね。今でも引きずってますよ。負け方が良くなかったです。0ー4とか1ー4と負けているのであれば引きずらなかった。9割9分勝てていた試合だし、2回ともあの点差で100回やって1回負けるかどうかというような試合だったから。試合内容というよりも、あの点数でリードしていて2回とも負けたことを引きずっているし、悔しい。

 

●ー今振り返ると、その敗戦の最大の理由は何だろう。9割9分勝てる試合をなぜ落としたのか。今まで君は競り合いに強いと言われていた選手なのに。

水谷 それは「時と運」もあります。逆に考えれば、ぼくが5連覇していた時も、9割9分負けていた試合を逆転したこともあるわけだから、あんまり他人には、悔しいとか、本当は7連覇できたというのは言いたくないし、心にずっと閉じ込めておきたい。

(敗戦は)悔しいし、ずっと後悔はしてるけど、それは今まで他の選手がぼくに負けた時に持った感情だから、負けたからぼくがぐちぐち言うのはフェアじゃないと思う。自分が負けたことによって、今までぼくに負けた選手の気持ちを理解できるようになりました。ぼくがいろいろ言ってしまえば、今までぼくに負けた選手にも申し訳ない気持ちにもなるので、あまり思い出したくないことでもあります。

ただ納得はしてます。悔しいけれども負けたことには納得しなければいけないと思います。

 

●ー2年前の全日本決勝で吉村に負けた時には、史上タイ記録の6連覇がかかっていて、しかも年下で、実績としても格下の吉村の勢いに負けた感じだった。特にあの年はロンドン五輪を控えていて、全日本で優勝して五輪を迎えるのか、それとも負けて迎えるのか。あそこで歯車が狂ったのかなと思うけど。

水谷 あそこで勝っていたら、少なからず今のぼくとは違ったと思います。良い方向に転んだか、悪い方向に転んだかはわからないけど、何かが大きく変わったんじゃないですか。(全日本で負けた後に)オリンピックもそうだし、世界選手権もそうだし、負けたために精神的にも落ちていった部分はあると思います。もし勝っていたら、もっともっと上に行ったと思います。

 

●ーそして1年前の全日本選手権では再び決勝で丹羽に負けた。2011年に彼に勝った時には「完膚無きまで叩く」とか「今だったら何回やろうが彼には負けない」と、特別な感情をむき出しにして丹羽と戦っていた。ところが1年前の全日本決勝では素晴らしい試合だったけど、その丹羽に負けた。これは吉村に負けるのとは違った意味で悔しかったと思う。

水谷 丹羽と吉村、どっちに負けたのが悔しいかと言えば、吉村に負けたほうが悔しいですね。丹羽に関しては、ふだんの練習とか、オリンピックを通して、あいつを認めたくなかったんです。あいつの実力とかを。

 

●ー認めたくなかった相手に負けたほうが悔しいんじゃないの?

水谷 全日本で負けた時は認めたくなかったんですよ。でも、その後ビッグトーナメントで試合をして、勝ったんだけど、やっていてこれは本物だなと認めました。全日本で負けた時には、「丹羽はこれが最初で最後の優勝かな」と思ったけど、ビッグトーナメントで試合をやって、「あっ、これはまだ強くなるだろうし、全日本も何回か優勝できるだろう」と思いました。

オリンピックの時には覇気もないし、勝つ気があるのかどうかわからないし、全日本でやった時にもそこまでの気迫は感じられなくて、丹羽のほうが「なんか勝っちゃったよ」という感じだった。ところが、ビッグトーナメントの時には彼は本気で勝ちに来ているのがわかって、このままだとやられるなというか、簡単に負けるかもと思った。

 

●ーそこで危機感を持った?

水谷 いや、うれしさもありました。丹羽がここまでできるんだということが。今は認めています。みんなよく丹羽は試合の時にあっけなく負けると言うけど、本人は本人なりに一生懸命やっているんだなと感じました。

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