昨日の女子団体の表彰後、プレスセンター隣の会見場に移動して行われた日本女子チームの会見。選手たちが登壇した時には、すでに12時45分になっていた。選手団が乗り込んだ最終のシャトルバスは1時20分発。卓球王国取材班も降りしきる雨の中、2時頃にようやくホテルに戻ることができた。
「応援で声が枯れてるんです」と言いながら、会見ではしっかりと自分の思いを語った早田ひな。2番の陳夢戦の勝利には興奮した。4ゲーム目は早田が4回マッチポイントを握りながら決められず、昨年の世界選手権個人戦・準々決勝の王芸迪戦のようにずっと相手にマッチポイントを握られるパターンとは違っていたが、5回目で決めた。ジュースになった時の早田はとにかく負ける気がしない。
その会見で早田が語った、陳夢戦の勝利のひとつの理由。「ベンチから見た(伊藤)美誠とかならわかるかもしれないけど、本当に気持ち悪い試合というか、とにかく気持ち悪くして、相手に強打させない。そして粘り続けるのが、今日の勝つ卓球だった」。「気持ち悪い試合?」。深夜で少し頭がグラグラしていたが、「お、また『ひな語録』が出てきたぞ」と背筋が伸びた。
「今日の試合の立ち上がりは、いつもの陳夢選手より3倍くらい強い感じで、今までと同じように卓球をしても全くノーチャンスだと思った」と早田は語っている。確かに陳夢は1番で孫穎莎が勝利した流れに乗り、出足からフォアの強打を連発。優勝した東京2020オリンピック時のプレーを彷彿とさせた。それをどうやって崩していったのか?
「中国選手は好きなようにやっていても勝てる相手ではないですし、自分が気持ち良くプレーして、相手にもっと気持ち良くプレーさせてしまったら全然意味がない。綺麗なプレーをしても点数が取れなかったらダメだし、逆にどんなヘンテコな点の取り方でも、1点取れれば1点です」
上回転のラリーに抜群に強く、相手の上回転のボールをうまく利用しながら、さらに強い回転をかけ返してくる陳夢。その陳夢に対して、正直に綺麗なボールを打ち返そうそうとするのではなく、時にこちらも回転を利用しながら、速いボールを混ぜることでタイミングと緩急の差を出していく。さらに3ゲーム目の10−9で得点したラリーのように、ロングサービスを多く使うことで相手のレシーブを限定させていった。
「今日の陳夢選手には、王道の卓球をやっていても全く抜けなかった。でも、(大会の序盤で)インドの選手が中国に勝つのなら、そういう気持ち悪い卓球、変化のある卓球が中国に通用する部分はあるのかなと思った。それが完全にハマったと思います。
もちろん、自分のやりたいプレーを貫いたほうが良い時もあるし、それは試合の状況によって変わります。陳夢選手との試合については、自分もやりにくいけど相手もやりにくいプレーにして、それで耐えようという試合になった」
王道だけではなく、時に邪道も行く。そうして戦った陳夢戦で大きな収穫を得た一方で、ストレートで敗れた4番の孫穎莎戦については課題も口にしている。
「陳夢選手と孫穎莎選手ではプレーのクセも全く違う。孫穎莎選手の今日のプレーの感覚に慣れることなく終わってしまったのは悔しい部分です。今まで、団体戦で中国選手相手に1勝した経験がなかったので、勝った後のエース対決への切り替えが十分にできていなかった。今後、本気で中国チームに勝つためには、2試合を考えてやらないと最後の壁は越えられない」
「今日のこのコンディションで孫穎莎選手に0−3でやられた。今の感覚だと自分は陳夢選手や王芸迪選手とは勝ったり負けたりくらいのレベルになってきていると思うんですけど、孫穎莎選手はもう3つくらい上にいるなと感じた。そこに到達するためには、まだまだやらなければいけないことがたくさんある」
その肩にかかった手を振り払うように、今日の孫穎莎が張本戦と早田戦で見せたプレーは強烈だった。特に早田戦のプレーは、来るべきパリ五輪に向けて、女王が全力でマウントを取りに来た、という感じがした。しかし、早田ひなが目指すのはその女王のレベルだ。
今大会での通算成績は8勝1敗。エースとして大車輪の活躍を見せながら、最後の中国とのエース対決では課題も見つかった。「相手が中国だからしょうがない、とはならないように、自分のことを真のエースだと自信を持って言えるように、もっと頑張っていかなきゃいけないなと思います」(早田)。
来月にはWTTグランドスマッシュやWTTチャンピオンズなど、パリ五輪につながるビッグゲームが控えている。帰国して練習場に戻った早田ひなは、きっとすぐに「あれもしてみたい」「これもしてみたい」とラケットを握ることだろう。
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