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今野の眼

中国に勝ち、世界卓球で全勝。10日間で変貌した中国戦での平野美宇は何者だったのか

イラン戦のあと、ミックスゾーンに現れた平野はうつろな表情で、目の焦点も定まっていないような状態だった

 あの孫穎莎(中国)でさえ、インド選手に負け、女子決勝に進んだ6人のうち唯一全勝で終えたのは日本の平野美宇(木下グループ)だけだった。

 しかし、決して圧倒的な力で、8試合をすべて勝ち切ったわけではない。特に、第2戦のイラン戦、粒高を駆使し、フォアを果敢に打ち込むアシュタリには、2ゲーム先取され、45ゲーム目では2回のマッチポイントをしのいだ。負けていてもおかしくない試合だった。

女子第1ステージ2戦目)
    〈日本 3−0 イラン〉
◯伊藤 5114 シャフサバリ
◯平野 −6−961111 アシュタリ
◯早田 834 セラジ

 メディア席の横で見ていた水谷隼(五輪金メダリスト)さんは、「もっとフォアに攻めなきゃ、ボールがバックに集まりすぎ」と心配そうに声をあげていた。

 テレビで女子を解説した平野早矢香(五輪メダリスト)さんは、後日、「世界卓球は内容も大切ですが、勝つことの方が重要、負けないことが大事で、平野美宇選手は競り合いをものにしたことが大きい」と語った。

 4ゲーム目の10115ゲーム目の9102回のマッチポイントを握られながら、最後は勝ち切った平野だったが、試合後のミックスゾーンでは、放心状態で、目もうつろで、笑顔はなかった。

 しかし、その後、一戦ごとに調子を上げていく平野。渡辺監督も、世界ランキングのポイントを考慮して、五輪シングルス枠を確定させている平野をオーダーからは外さなかった。

 決勝トーナメントに入り、準々決勝ルーマニア、準決勝香港、決勝中国の平野は、素晴らしいプレーを連発した。

決勝の3番で王芸迪を完封した平野美宇。得意のバックハンドで相手を上回った

 

中国との決勝。世界ランク3位の王芸迪に完勝。平野美宇の新境地が見えたが「こんなに悔しいのは今回初めてだと思う」

女子決勝(224日)
  〈中国 3−2 日本〉
◯孫穎莎 584 張本美和
 陳夢 6−8−9−12 早田ひな◯
 王芸迪 −8−11−10 平野美宇◯
◯孫穎莎 276 早田ひな
◯陳夢 −4787 張本美和

 224日の中国との決戦は午後8時にスタートした。トップで張本美和(木下アカデミー)が孫穎莎に敗れ、早田ひな(日本生命)は東京五輪金メダリストの陳夢に勝ち、1−1で回ってきた3番。世界ランキング3位の王芸迪との試合では、平野はバック対バックで優位に立ち、フォアの打ち合いでも負けなかった。中国の大応援を沈黙させ、圧巻のストレート勝ちで、1971年以来の優勝に王手をかける勝利を平野はあげた。

 その後、エース対決で早田が孫に、ラストで張本が陳に敗れ、悲願の優勝とはならなかったが、王者中国を敗戦の淵に追い込んだ。

 試合後に平野はテレビの前でコメントした。「最終的には負けてしまったけど本当にこのチームで戦えてよかったし、5人みんなで頑張った結果だと思う。今までは『負けても仕方ない』とどこかで思ってしまった部分があったけど、こんなに悔しいのは今回初めてだと思うので、次の大会や五輪で借りを返せるようにこれから頑張っていきたい。決勝の舞台で、大きな大会で勝てるというのは、すごく自信になった」。

 さらに表彰式があり、メディアセンターでの正式会見のとき、時計は夜中の1時を回っていた。会見場に座った平野は悔しさはあるものの、確かな手応えを感じ取っているような表情で語った。

「相手も私もバックが得意で、右対右ではそこの展開が重要、そこで負けなかったので相手に圧力をかけられたのかと思う。だんだん調子が上がってきて、最後で一番良い試合ができた。今回、客観的に見ても、最初は自分が何をやっているのかわからなくて、コントロールするのかつなぐのかがわかりにくい試合だった。最後の決勝は何を自分がしたいのか、わかりやすい試合ができたので、もっとそれを極めていきたいし、もっと完璧にしたいですね。

 大会の最初のほうは、(五輪代表の最終選考試合となった)全日本が熾烈すぎて、切り替えられていなかったところも少しあったけど、毎日試合に出させてもらい、反省して、毎日コーチと話し合ったり、選手からアドバイスをもらったり、試合で吸収して、成長することができた。試合に出させてくれた渡辺監督、張コーチ、アドバイスをくれた伊藤美誠選手にも感謝したい」

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