本来の「全日本卓球」は日本の中での真のチャンピオンを決める大会だ。その歴史の重みと、選手個々の成績は彼らの勲章とも言える。
ところが、今回の「全日本卓球」で大きく注目されているのがパリ五輪女子代表争いの行方だ。
昨年11月に開催された全農CUP大阪大会(パリ五輪最終選考会)を終えた時点で、男子の張本智和(智和企画)と戸上隼輔(明治大)、女子の早田ひな(日本生命)の3人はパリ五輪代表候補予定選手にほぼ確定。
女子の残り1枠をポイントランキング2位の平野美宇(木下グループ)と同3位の伊藤美誠(スターツ)が争っており、全日本の結果によってパリ五輪代表が決定する。現時点では486ポイントの平野が451.5ポイントの伊藤を34.5ポイント差でリードしている。
1988年ソウル五輪以降で、全日本選手権が五輪代表の選考対象となったことは一度もない。その一度もなかったことが今回の「全日本」に起きてしまった。
〈全日本シングルス獲得選考ポイント〉
1位:120ポイント
2位:100ポイント
ベスト4:80ポイント
ベスト8:50ポイント
ベスト16:20ポイント
ベスト32:10ポイント
五輪代表で思い出すのが、東京五輪2020の時のシングルス枠を巡って石川佳純と平野美宇による熾烈な世界ランキング争いだ。2020年1月の世界ランキングの上位者2名ががシングルス代表に内定という状況で、2019年の11月、ITTFワールドツアーの北米オープンまでずれこみ、決勝で石川と平野が直接対決となり、勝ったほうがシングルスに内定という状況で、石川が勝ち、五輪のシングルス代表をほぼ決めた。
男子の水谷隼と丹羽孝希も同様に12月まで争った。
今回も結局、選考ポイント対象の最後の大会となる全日本までもつれこむことになった。
ただし仮に僅差で3番手になったとしても団体戦用の代表に選ばれるという約束はない。選考ポイントはあくまでもシングルスと団体に出場する2名を選ぶもので、団体戦での3番手は「団体戦でのシングルスとダブルスにて活躍が期待できる選手1名を強化本部が決定する」と選考基準に明記されている。
もちろん強化本部にとって五輪代表選考は「五輪でメダルを獲るためのメンバー選び」に尽きる。
今回、マスコミの注目は平野、伊藤が勝ち続けている限り、五輪代表争いに絞られていくだろう。
一方で、1936年から続く「全日本卓球選手権」という伝統と威厳を持つ大会の興味がそこだけに注がれるのは、「全日本ファン」にとっては辛い。「全日本のランク入り」を巡る争い、そして天皇杯と皇后杯を争う世界レベルの試合をお忘れなく。
去年の春以降、張本美和(木下アカデミー)が急成長を示しているのは周知の事実。急激な成長曲線に驚くばかりだ。11月の全農CUP大阪大会で早田ひなを破り、優勝しているし、世界ランキング15位で日本選手の3番手につけている。選考ポイントでは330.5で5番手。全日本で優勝したとしても3番以内には入らないが、そもそも選考ポイントと3人目の選考は別物として、最近、卓球関係者の間で「張本美和の五輪代表待望論」が囁やかれているのもうなづける。
張本美和は卓球王国3月号(1月22日発売)のインタビュー(インタビューアー中川学)でこう語っている。
「やっぱり前半戦で結果を残せなかったというのは今になってみればダメージはあるのですが、そこから少しずつですが強くなって、成長できたと自分では感じています。代表の可能性はほぼないのですが、全日本選手権は頑張りたいと思っています」
全農CUP大阪大会や12月のWTT女子ファイナルズでの強さを見ると、張本美和の優勝の可能性は小さくはない。全日本の大会期間中、五輪代表争いの決着後、どこかのタイミングでマスコミの注目が「張本美和のプレー」にシフトするかもしれない。
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