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今野の眼

1割以上の棄権者。121人の無念。されど81回目の「全日本」は続く

大会4日目までに121人の棄権者。

異常事態の中でも熱戦は続く

 

大会4日目の時点でのべ155名が棄権となっている2022年全日本卓球選手権大会。大会にエントリーした選手数は972名、種目の重複もあるので棄権した実数は121名だ。つまり、12.4%の人が棄権したことになる。前年の同大会の棄権者51名とは比べられないほどの数にのぼっている。

男子シングルスでは男子の田中祐汰、曽根翔、高見真己、横谷晟(すべて愛知工業大)、吉村和弘(岡山リベッツ)、龍崎東寅(三井住友海上火災保険)、女子の横井咲桜(四天王寺高)、岡田琴菜(愛知工業大)というスーパーシード、もしくは上位に進んだであろう選手たちが棄権となった。

コロナ禍での開催、しかもオミクロン株が猛威をふるい、東京での感染者は27日時点で14000人を超える中での「全日本卓球」は、まさに異常事態の中での開催となった。感染対策を十分に施した運営だが、その選手としての戦線に行く前に、卓球の戦士たちは感染、もしくは濃厚接触者として次々に棄権の白旗をあげた。

戦いの場に向かえなかった人たちは悔しいだろう。卓球選手にとって「全日本」は重いものだ。全国の地区大会、県大会を通過して出場する大会。トップ選手としてキャリアを積めば積むほどにこの大会の重みを感じ、1年間の集大成のゲームとしてピーキングを合わせていく国内最大イベントなのだから。

卓球では小学生はクラブチーム、中学生・高校生・大学生という学校スポーツ、そして社会人の企業スポーツとクラブスポーツ、最近ではTリーグでプレーするプロ選手にとって、カテゴリーを超えて戦えるのがこの「全日本」だ。

しかも、卓球の世界ではある一定の練習時間を積めば、中学生がプロ選手を破ることも珍しくはない。単に、戦術的な経験を積み、体力、筋力が絶対的に有利になるわけでもない。つまり、選手の反応の速さやピッチの速さ(早い打球点での返球スピード)がラリーを支配する卓球ならではの現象だろう。

一方、卓球では中学1年、2年で勝っていた有望選手がそのまま勝ち続けることは難しく、筋力がつき、動きも速くなって、戦術経験を積んだにもかかわらず、大人になって勝てなくなることも少なくない。練習量、経験量、筋力の積算された数値が、全日本での勝利の確率とイコールにはならない。

また、今大会の一般シングルスの最年少は11歳、最年長は40歳と幅広いのも「全日本卓球」の特徴だ。加えて、大会運営費に1億円以上の予算をかけて行われる国内選手権は、世界の卓球界には存在しない。

ヨーロッパの卓球の盟主、ドイツでさえもオフチャロフやボルという現役のメダリストはドイツ選手権を回避し、出場料を提示しても首を縦に振らないと言われている。かりにその大会で優勝しても高額の賞金や、スポンサーからインセンティブ(ボーナス)が出るわけでもなく、プロ選手が真剣になる理由がないと言う。マスコミもほとんど注目しない。

ドイツ卓球協会の関係者の人に、通常であれば大勢の観客が集まること、連日テレビのニュースで報道されたり、会場に200名を超すマスコミが駆けつけること、協会から優勝者に100万円の激励金が出るが、その数倍のインセンティブが卓球メーカーと選手との契約の中に書きこまれていることなどを説明すると一様に驚く。つまり、この大会での選手の成績が愛好者100万人を越す日本の卓球市場に影響を与える。

この81回目を迎える大会の重い伝統と、そこに出場すること、またはランク入り(ベスト16)、優勝タイトルが選手にかけがえのない「全日本の名誉」を与える。

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