全日本チャンピオン戸上隼輔(明治大・世界ランキング48位)がドイツ・ブンデスリーガ1部リーグの「オクセンハウゼン」と契約した。
2021〜22年シーズンはTリーグの「琉球アスティーダ」でプレーしていた戸上だが、2022〜23年シーズンはドイツを拠点にして活動する。
「オクセンハウゼン」は南ドイツの人口8千人の町にあるクラブで、メインスポンサーは「リープヘル」。レギュラーシーズンは5位に終わり、プレーオフ進出を逃している。
来季はゴーズィ(フランス・世界ランキング23位)、ジャー(アメリカ・30位)、ロブレス(スペイン・同66位)、アックズ(フランス・同92位)、クルチェツキ(ポーランド・同145位)がプレーすることが決まっている。かつてはパーソン、馬文革、荘智淵、クレアンガなどが在籍し、最近ではカルデラノ(ブラジル・同4位)もプレーしていた名門クラブだ。
また「オクセンハウゼン」には「リープヘル・マスターカレッジ」という選手育成機関があり、ヨーロッパやアジアの有望な若手が練習拠点にしている。オフチャロフ、宇田幸矢などが練習する「ボルシア・デュッセルドルフ」に匹敵する環境とも言える。
ブンデスリーガ1部リーグではアジアやアメリカの選手は外人枠に該当し、1試合で1人しか出場することができない。もし、ジャーと戸上が併用しての起用となると、まずはチーム内での競争を勝ち抜かなければいけない。
また、今年秋から始まるTリーグの勝利数が獲得ポイントとしてパリ五輪の選考基準の中に含まれており、同じ明治大の宇田幸矢同様に、戸上は今シーズンのTリーグでの獲得ポイントを失っても自分が強くなる環境を求めてドイツに向かう。
「高校のときからドイツに行ってプレーしたかった。不安もあるけど、自分の世界での立ち位置を知るために行きます。どこまで自分ができるのか。ひとりで考える力を身につけたい。たくさん学ぶことはあると思うし、吸収するのは今しかないと思っています。
ぼくが今やるべきことは目先のことではない。ドイツという遠い海外に行き、苦しいことを選ぶことが自分が強くなる道だし、カッコいいことだと思っていました」と戸上は語った。
戸上は優勝する全日本選手権の前からドイツ行きを考えていた。そして、優勝した後は、まわりの人に相談しても「日本でやるべき」という意見と、「ドイツに行くべき」という意見が半々で、最後に、背中を押したのは中学・高校時代の恩師、橋津文彦監督(野田学園高)だった。
「全日本が終わって、しばらくしてから夜11時に電話がかかってきて、夜中まで話をしました。ドイツに行くことのメリット、デメリットを話しました。『自分はどうしたいんだ?』と聞くと、『ドイツに行きたいです』と言ったので、『それなら行けばいい』と言いました。
ぼく個人としては彼はドイツに行ったほうが良いと思っています。海外に出て、卓球だけでなく、生活、言葉、文化とかいろいろと苦労したほうがプラスになる。水谷隼にしても人間として半端ない強さがあり、その強くなった理由のひとつとして海外でプレーしたことが大きいと思っています。
日本にいたら甘えも出るし、楽だし、楽しいことがあります。彼のまわりは日本に残れと言った方が多かったと思います。でも、本人がドイツに行きたいと言ってきた。彼も背中を押す人を探していたのかもしれない」(橋津)。
現役の全日本チャンピオンがTリーグでなく、ブンデスリーガを選んだことにリーグ関係者はショックを受けるかもしれない。しかし、それも現実だ。チーム数が増えずに、男子4チームによって同じ選手同士の対戦が多くなっているTリーグ。
かたやドイツのブンデスリーガは、12チームによるホーム&アウェイのリーグ戦方式で、リーグにはボル、フランチスカ、チウ・ダン(以上ドイツ)、ヨルジッチ(スロベニア)、シェルベリ、ファルク(スウェーデン)、アルナ(ナイジェリア)などの強者がいる。世界や五輪を見据えた時に、様々なタイプの選手と試合ができる環境、卓球に集中できる練習環境を戸上は選んだ。
これで明治大学の同期で、ライバルでもある宇田幸矢に続き、戸上もドイツに向かう。二人はTリーグに残れば、金銭的な面ではドイツよりも優遇されるのにも関わらず、あえて厳しい戦いの地、ドイツを選んだ。二人が見ているのは2024年のパリ五輪だ。
(戸上隼輔の全インタビューは5月20日発売の卓球王国にて掲載)
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