8月12日の石川県金沢市。今まで取材したTリーグとは違った空気感だった。
その1週間前に静岡を訪れ、Tリーグ男子の新規参入チーム同士の対戦、静岡ジェードと金沢ポートの対戦を取材。静岡の新規参入の意気込みは会場からも感じ取ることができた。その際に金沢ポートの関係者からこんな話を聞いた。「金沢のホーム開幕戦では、多くの観客が来てくれます。しかもチケットは手売りが多いんです」と。そこにアンテナが動いた。動員ではなく、チケットを購入し、自分たちのチームを応援するという熱をその言葉から感じたのだ。
今までのTリーグの試合では観客の「動員」が多かった。入場チケットがチームを通して配布され、会場に足を向ける人たちだ。もちろん、その中で卓球を好きになり、新たな卓球ファンになった人も少なくないだろう。観客動員が悪い訳ではない。
8月12日、お盆の帰省ラッシュを避けるように、早朝に東京を車で出て、金沢に向かった。
6時間後に会場に着き、事前にお願いしていた元石川県卓球連盟理事長の清水潔さんのお話を聞いた。市内にある1977年創業の老舗の卓球専門店「清水スポーツ」の創業者はこう語った。「チケットは店頭で手売りしたよ。地元でTリーグをやるから観戦するために久しぶりに会う人も多くいたし、このチケットはこの席ですよと説明しながらね。チームは舞台を作り、選手は一生懸命プレーして、観客が感動する。三位一体で盛り上がってほしい」。
アナログだが、温かく心が通うチケットがファンの手に渡った。
TリーグのチケットはまずはTリーグの会員登録をして、そこからローチケ(ローソンチケット)で購入する。インターネットでの購入は慣れればスピーディで簡単なのだが、シニアの人たちはこの操作だけで嫌になる人もいる。卓球王国にも「どうやってTリーグのチケットが買えるのか」と電話で聞いてくる人もいる。
他の競技ではこの購入の方法は当たり前とリーグ関係者は言うだろう。売れているならば問題ないのだが、現実的にチケットの販売が伸び悩んでいるのであれば、Tリーグならではの売り方があってもいいし、全国に数多くある卓球ショップ、卓球場などでもチケットが購入できる方法を考えるべきだろう。
ドイツのブンデスリーガのように「今日はちょっと卓球でも見に行こうか」と近所の人が会場に足を向け、当日券を入り口で簡単に購入できるようなアナログのやり方も悪くはない。
お店でチケットを買う際には、そこで人間関係としての会話も成立する。「金沢の開幕戦は勝てるかね・・・健太が石川に戻ってきたね・・・」と卓球が話題になる。
12日の金沢ポート対岡山リベッツの試合は素晴らしい内容だった。ホームの金沢は敗れたものの、試合はラストまで突入し、会場は大盛り上がり。試合後、勝者となった岡山の白神宏佑監督も「とにかくびっくりしました。こんなにお客さんが集まって、これだけにぎやかになるのは素晴らしいですね」と称賛した。
金沢の西東輝監督は興奮気味に語った。「これだけのたくさんのお客さんの前で試合ができて胸がいっぱいです。石川県のみなさんに『これが金沢ポートの試合だ』というのは見せることができた。このチームは熱いチームだし、石川県ゆかりの選手を中心に戦ってきた。卓球で町を盛り上げていきたいですね」。
金沢では初の試合となった田中佑汰、元世界ベスト8の閻安(ヤン・アン/中国)を破ったが、ヴィクトリマッチで惜しくも敗れた。「想像よりも観客が多く、緊張もしたけれど楽しかった。応援を力に変えた。ヴィクトリーで負けたが良い経験になった」。
8月12日の観客数は1197人。招待客は100人程度で、小学生は無料だが、ほとんどの観客はチケットを購入した人だ。地元の人たちが「金沢ポートを応援」するために35度を超える猛暑の中、金沢市総合体育館にファンが集まった。チケットは県内の松平スポーツ、清水スポーツでも販売され、お店には多くの人がチケットを買い求めるために訪れたと聞く。
「おらが町のTリーグ初のチーム」を応援する拍手にも力がこもっていた。試合が始まり、大激戦となり、ラストのヴィクトリーマッチに入ると、会場のボルテージが最高潮に達した。
Doスポーツの典型で、見るスポーツではないと言われている卓球にも、実は集客のポテンシャルがあることを金沢のファンは示してくれた。
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