<卓球王国2014年4月号より>
チャンピオンインタビュー
全農
負けない強さがある。
準決勝の前田戦で
窮地に追い込まれながらも乗り越えた。
女子では54年ぶりの三冠を達成した石川佳純は
苦しみながらも世界ランキング4位の
意地と強さを見せつけた。
「全日本卓球」を制した女王の涙と
笑顔の向こう側には何があったのか。
聞き手=今野昇(本誌編集長)
写真=江藤義典&奈良武
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一度も負けないで「全日本卓球」(全日本選手権)を終えた石川佳純は、苦しかった全日本を振り返った。試合中の張り詰めたアスリートの顔と違う素顔の彼女は、22歳を目前に控えた大人の女性の佇まいの中にいた。
石川は混合ダブルス、女子ダブルスと優勝を重ね、1月18日の最終日、東京・千駄ヶ谷の東京体育館のセンターコートに立った。
準決勝の前田戦では1ー3とゲームをリードされ、絶体絶命のピンチを迎えながらも冷静にプレーする。最終ゲームでも8ー9まで追い込まれ、観客が固唾を呑む中での冷静、かつ思い切ったプレー。そこで見せたのは世界トップランカーとしての強靱なメンタルと卓越したテクニックだった。
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●−−2年連続優勝。改めておめでとうございます。
石川 ありがとうございます。
●−−5年連続の決勝でした。
石川 あっという間ですね。うれしいです。
●−−今回はそれに三冠王も加わりました。大会前から狙ってましたか?
石川 もちろん、3種目出るからには3つ獲りたかったし、去年は二冠で悔しい思いをしたので、今年は獲りたかった。
●−−三冠への挑戦、こだわりというのはなぜでしょう。
石川 違う種目で3つ獲るのは難しい。去年改めて難しさを感じました。私はパートナーにも恵まれているし、良いパートナーじゃないと狙えないわけだし、絶対勝ちたいと思わないとダブルスやミックス(混合)は難しい。大事なところで踏ん張れたからこそ勝てたと思います。
●−−強いと言われる選手でも、シングルスが本番でダブルスでは調子を出していくために戦う人もいます。
石川 ダブルスで準備するという考えは全くないです。出るからには絶対負けたくない。3種目出るなら全力で3つ獲りにいくという気持ちでした。
●−−女子では54年ぶりというのは知っていたんですか。
石川 全然知りませんでした。
●−−大会前の仕上がりとしてはどうでした?
石川 すごく良くもないし、悪くもないという感じでした。去年と同じくらいですかね。
●−−まず混合ダブルス、そして女子ダブルスで優勝しました。
石川 厳しい試合がたくさんあったんですけど、お互いが助け合ってプレーできて、勝ち取った優勝でした。
●−−女子ダブルスは特に苦しい試合がありました。平野美宇・伊藤美誠組との試合や、決勝も苦しかった。
石川 苦しいところでペアの強さがわかると思います。平野(早矢香)さんとは8年くらい、12歳の頃から組ませてもらっているので、お互いわかり合えているところは他のペアには絶対負けていないし、粘り強い気持ちでできました。
●−−苦しい局面を乗り越えられたのは、メンタルですか、技術ですか。
石川 やっぱりメンタルのほうが大きいと思います。最後は気持ちが勝負を決めます。大事なところで平野さんに声をかけてもらったりとか、何とか1本を入れてつなぐ、何とか得点するというプレーが何度もあったので、最後勝てたのが良かったと思いますね。
●−−優勝した瞬間の二人の喜ぶ姿が何とも良い雰囲気でしたね。
石川 「うれしい~! わあ!」という感じでした。去年はゲームも落とさずに優勝したけど、今年は競った試合、苦しい試合が多かった分、去年よりもうれしかったし、2連覇できたのもうれしかったです。
●−−シングルスでは4回戦で宋恵佳選手を4ー1、加藤美優選手には4ー2、次の準々決勝の伊藤美誠戦は4ー0で勝ちました。
石川 (1ゲームを落としただけで優勝した)去年とは全く違って、思っていた以上に相手がぶつかってきたし、自分も最初から最後まで自分の思うようなプレーができなかった。12月のグランドファイナルのような試合とは全く違っていましたね。
それはやはり気持ちの面もあるし、相手も向かってきて、今までと違う感じ方でした。守りに入ってしまった面もあったと思います。
●−−そして今大会の最大のヤマ場となった前田美優選手との準決勝を迎えます。すごい試合になりました。
石川 彼女と試合をするのは何年ぶり……記憶にないくらいです。練習もほとんどする機会もない。最初相手のボールに合わせることができなかったし、前田さんも当たっていて、今日は調子いいんだろうなと感じました。
●−−1ゲーム目は取ったものの、2、3ゲーム目を落としています。 しかも、6本、7本くらいまではタイスコアで行きながら、最後に離されてゲームを落とすという、今までにないパターンでした。
石川 2ゲーム目、3ゲーム目が良くなかったですね。気持ちの部分ですね。4ゲーム目はジュースになってから前田さんが思い切って何回も打ってきて、落として1ー3になって、そこで逆に落ち着きました。開き直りではなく、冷静になれました。ここからが勝負だと思いました。4ゲームを取られない限りは負けではないから、絶対3ー3にしてやろうと思いました。精神的にも2、3ゲーム目が良くなかったですね。
●−−でも、1ー3とゲームをリードされた時に焦りとかはなかったですか。
石川 気持ちも切り替えたし、1ー3になった時の最初の1本目のボールを打った時に「あ、大丈夫だ」「ここからが勝負」と自分で思えたんです。思ったよりは焦りはなかったですね。
●−−5ゲーム目を11ー3で取り、ゲームを2ー3にした6ゲーム目はどうでした?
石川 だんだんボールにも慣れてきて、タイミングも合ってきました。
●−−前田さんのバックハンドもミスがなく、フォアのドライブ強打やスマッシュもミスなく入ってきている状態でした。石川さんは最終ゲームの最後の2本に象徴されるようにバックへ深く切れたサービスを出し、持ち上げてきたボールをミドルへ狙う、というような戦術を使っていましたね。
石川 もちろん(戦術は)考えてますけど、相手が最後の最後まで入るとは正直思わなかった。もし最後まで入ってきたら相手が強かったということです。6ゲーム目、ここからは実力勝負です。(相手が)4ゲームを取るのは簡単じゃない。
左対左だからバック対バックの勝負に絶対なる。途中から相手のミスも出てきたけど、前田さんは全体的に好調で良いプレーをたくさんしてきたので、こっちも攻めていかなければ勝てないと思っていました。
●−−それにしても、最終ゲームの展開もスリリングでした。3ー3、5ー5、6ー6、8ー8と点数が離れない。そして、8ー9と1本リードされる。相当にタフな展開です。実際にやっている本人としてはどういう気持ちだったのでしょう。相手はイケイケで向かっていけばいいけど、石川さんの精神状態はどうでした?
石川 何が何でも負けられないですよね。どんなことがあっても負けないぞと。競ることはわかっていた。厳しい試合になることはわかっていた。相手も強かった。でも、「とにかく負けることは許さないぞ」と自分自身に言い聞かせ、勝つことだけを考えて、集中するだけでしたね。勝つしかない。競った場面でも、これは相手との勝負でもあるし、自分との勝負でもある。だから攻めるしかないと思ってました。最後、負けることは考えずに、攻めること、勝つことだけを考えてました。
ここでボールを入れにいっても絶対打たれるし、前田さんも調子が良くて強気だったので、こっちも強気で攻めるしかなかった。
●−−勝った瞬間はウルッと来ましたね。
石川 ウルじゃないですよ。メッチャ泣いてました、号泣してたじゃないですか(笑)。負けなくて良かった。勝てて良かったと思いました。思った以上にプレッシャーがかかっていたんですね。
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