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今野の眼

同じようで何かが違う。『エボリューションMX-D』が新たな黒船になった

 

 

同じようで何かが違う。

『MX-D』が新たな黒船になった

 

この春、卓球市場を騒がせたラバーが静かに売れている。

卓球王国の「用具ランキング」は、全国のメジャー9ショップの総合評価で順位が決まる。その中で、2つのショップのトップ10の中に、ティバーの『エボリューションMX-D』が入った。これがいわゆる主要メーカーのバタフライ、ニッタク、VICTASが出したモノなら理解できる。

ところが、ティバーはヨーロッパの老舗ブランドで、最近、卓球台の三英が代理店となったものの、地味なブランドである。全国を駆け回るような営業マンもいない。

宣伝の中心となったのはドイツから来たGC・フォースターだ。本来、全国に行って彼自身がプレーをしながらラバーの宣伝をするのだが、コロナ禍でそれもできなかった。

にもかかわらず、『エボリューションMX-D』は売れた。図らずもそれを使った選手やショップの人たちがネットでコメントを書き、その称賛の声が広がっていった。

『エボリューション』シリーズにはほかにも『MX-P』『MX-S』があるが、これらは大ヒットしたラバーではないのに、そのシリーズの3番目としての『MX-D』が売れていくのも異例だ。

キーを握っているのはGC・フォースターだ。元ブンデスリーガ2部リーグでプレーしていた選手で、その後、ドイツのESN(世界最大のラバー工場)のテストプレーヤーとして採用され、いろいろなメーカーに関わってきた。

 

ドイツのラバー製造会社「ESN」のテストプレイヤーとして長年、ラバー開発に携わってきたティバーのGC・フォースター

 

その時に彼が感じていたのは、「メーカーはもっとトップシートとスポンジのコンビネーションに神経を使うべきだ」と。ただESNから出されるサンプルを選ぶだけでなく、自らラバーのコンビネーションを知るべきだと考えていた。そして、彼自身は、新しいステップとしてESNを辞めて、卓球メーカーのティバーと契約した。

そこでクライアント側に回った彼は長年温め、実行したかったことをESNに突きつけた。ESNの技術は相当に高いことを知っている。ただ、いくつかの盲点があり、そこを正せば『テナジー』に匹敵するラバーが作り出せると。当然、企業秘密としてフォースターはその部分は多くを語らない。しかし、キーワードは「コンビネーション(組み合わせ)」。

正直日本でのティバーはマイノリティー(少数派)であり、他社は三英が代理店をやると聞いた時点でも高(たか)をくくっていただろう。

しかし、他社がラバーのブラインドテストをすると『MX-D』の評価は驚くほど高かった。すぐに「『MX-D』と同じラバーを作ってくれ」と連絡してきたメーカーもあったと言う。しかし、『MX-D』の開発の時に、フォースターはいくつかの点をプロテクション(保護)している。全く同じラバーはESNから出てこないと自信を持っている。

バタフライの最高機種の『ディグニクス』は、使う人を選ぶラバーだ。やはり今でも主流は『テナジー』。その『テナジー』に肩を並べるラバーが現れ、もし安く売られるのなら、その時が卓球市場の潮目が変わる時だろう。

6月の時点で国際卓球での販売価格を見ると、『テナジー』は7920円(税込)で、『エボリューションMX-D』は5720円(税込・定価7150円)なので2000円以上も安い。つまり、このクラスでのラバーとしては相当に競争力が高いラバーと言えるだろう。

120万人と言われる日本の卓球愛好者ピラミッドの0.5%にも満たないトップ層。いわゆるプロ選手であったり、メーカーから用具提供を受けている選手。それ以外の中・上級者の人たちが「この『MX-D』が使える」となれば、ラバーシェアの潮目を変え、市場の台風になるかもしれない。

営業マンのいないティバーのラバーがどこまで浸透するのかわからない。ただ、ネット社会で、高評価の口コミが蔓延していくと、ひょっとするとひょっとするかもしれない。  <卓球王国発行人 今野昇>

 

 

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