卓球王国 2021年7月20日 発売 vol.292
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水谷隼・王者帰還「勝つと嫌われるんですよ。 嫌われたくないけどしょうがない」

<卓球王国2014年4月号より>

 

[王者帰還・チャンピオンインタビュー] 

水谷隼 

当時DIOジャパン

6度目の優勝を決めた水谷隼

 

聞き手=今野昇

写真=奈良武・江藤義典・渡辺友

 

王者は戻ってきた。しかも圧倒的な勝利とともに。

2年連続決勝で敗れるという

受け入れがたい屈辱に耐え、

水谷隼は実力の違いを見せつけるかのように

全日本選手権大会で3年ぶりの優勝を飾った。

優勝という課せられた十字架。

平坦ではなかった道のりを振り返り、

「進化した水谷隼」を語ってくれた。

 

 

「丹羽と健太がいて、なぜぼくが

全日本で5連覇できて、

彼らがそれをできないのかを

考えてほしいですね。

理由は絶対ある」

 

上田戦は一気に戦況が変わって、

もう負けたと思いました

 

優勝直後のインタビューで、「優勝することでしか周りは喜んでくれない」と語った水谷隼。17歳の時から5連覇を含め、7回連続決勝に進んでいた彼に求められるのは、優勝という結果であることは自分が一番感じていたはずだ。

(2013年)11月21日以来のインタビュー。全日本選手権終了直後にロシアに旅立ち、日本に戻った水谷と会ったのは2月4日の夜。全日本から2週間以上経ち、冷静に語るチャンピオン。11月の時とはどこかが違う。安堵の表情を見せながら、すでにその視線は高い山へ向かっていた。

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●ー(2013年)11月に『水谷隼の逆襲』としてインタビューした時には、まだ自信と不安が相半ばという感じだった。 

水谷 特に自信があったわけではないです。あの時はまだ結果を出していなかったけど、あの後、ロシアリーグでも勝って、年明けのタイペイでの大会でも優勝して、自分の意識も変わってきていると思っていた。11月の時にも手応えはあったけど、勝負だから100%ではなかった。ただ、他の選手よりはプロ意識は高いと思っています。

 

●ー(2013年)12月に日本とロシアを往復した後、タイペイに行ったけど、もっと全日本に向けて調整したいと思わなかった?

水谷 いや普通に調整してましたよ。みんな元旦とか休むけど、元旦も練習してました。友樹(平野・明治大)をつかまえて。それに、シューズとラバーに満足してなくて、11月くらいに変えて、自分としてはそれがしっくりきて、プレーに専念できるようになった。タイペイから帰ってきて5日くらいで全日本を迎えて、全日本で優勝するぞという感じではなかった。11月くらいからずっと練習と試合を積み重ねてきたので、その流れの中で大会に入るという感じでした。

今大会は、強い選手がみんな負けて、格下の相手ばかりだった。会場もやりやすかった。ロシアでは会場によって台の弾みがバラバラだし、全日本の卓球台はこれまでいつもボールが止まって、これってどうやって慣れるんだろと思うけど、今回はそれがなかった。ロシアでやってきて自分のプレーには自信があったし、とにかく早く試合をしたかった。

 

●ー組み合わせを見た時に勝ち上がってくる相手を予想したと思う。優勝会見では岸川選手とやりたくなかったと言っていた。

水谷 岸川君はぼくのボールに慣れているし、会場でもいつも練習を一緒にするし、サービスも効かないから苦手です。優勝候補が負けたのは、正直言えば、ラッキーだと思いました。簡単に上に行きたいわけだから。ナショナルチームの選手は一緒に練習をやったり、海外にも一緒に行っているからなるべくやりたくない。

 

●ー決勝の前日、岸川選手が夢に出てきて2回負けたと言っていたけど。

水谷 期間中はあまりないけど、全日本前には夢を見ます。負けた夢のほうがいいです。夢の中で負けて落ち込むから、目が覚めた時に「ああ、夢で良かった」と思って、現実はそうしたくないと思う。勝った夢は、「ああ、夢かよ」と落胆する。

 

●ー今までの優勝でも、必ず1、2試合危ない試合がある。今回圧勝だったのは自分のレベルが上がったということだろうか。

水谷 レベルは上がっています。その中で、「あの時にバックハンドを振れたから勝った」という試合があります。4ー0で勝った試合でも、2ゲームくらいはゲームポイントを取られていたのに、そこでバックハンドを振れたからゲームを取られなかった。

 

●ー唯一、苦戦したのは準決勝の上田仁戦だった。3ゲーム連取してから2ゲーム取られた。

水谷 本当にあの時は負けたと思いました。3ゲームを全部4本で取った時に、この上田に勝てば今回はオール4ー0でいけるなと思った。

 

●ー勝ったと思った瞬間にスキができたのかな。

水谷 そうかもしれない。基本的に上田はやりづらい。リードしている時も危ないなとは感じていました。嫌だと思ったサービスを途中から徹底して出してきた。レシーブができなかったのでどうすることもできなかった。一気に戦況が変わって、もう負けたと思いました。

2ゲーム取られて、3ー2の6ゲーム目で1ー4とリードされて、全然点を取れる気がしなかった。ただ投げやりにはならなくて、1本1本取ろうと思ってやっていたら状況が変わってきた。もし上田が凡ミスをしなかったら、ぼくが負けたと思う。「これはミスんないでしょ」というボール、上田より下の選手でもミスしないボールをミスしていた。彼が自信持ってやって、調子が良かったら負けていた。ホント、ラッキーでした。

 

●ーそれで決勝は町飛鳥選手(明治大)。

水谷 それは想定していなかった。絶対ないと思っていた相手。大会前に一緒に練習していたし、いくら相手の調子が良かったとしても対応できると思っていました。5ゲーム目の9ー3くらいの時、優勝を確信しました。

 

●ーこの2年間、タイトルを獲り戻すまでは長かった?

水谷 あっという間でした。

 

●ー今までの5回の優勝と違うのかな。

水谷 負けた時の2回のほうが頭に残っています。勝った時のことは記憶に残っていないです。今回、自分の力を完全には出し切っていないです。

 

●ーそれは君の力を引き出す選手と対戦しなかったとも言える。

水谷 そうかもしれないですね。ただ、誰に勝って優勝したかったというのは全然ない。優勝できればいい。