卓球王国 2024年11月21日 発売
バックナンバー 定期購読のお申し込み
アーカイブ

水谷隼・王者帰還「勝つと嫌われるんですよ。 嫌われたくないけどしょうがない」

「ナショナルチームの

他の選手はぼくが勝つことが

一番悔しいんですよ。

勝つと嫌われるんですよ。

嫌われたくないけどしょうがない」

決勝で町に完勝し、優勝を決めた水谷

 

プレースタイルはスキがなくなった。

可能性をまだ秘めているから、

一つひとつを伸ばしていけばいい

 

「前の時より4㎏やせたんですよ」と食事をしながら水谷は言った。ストイックなチャンピオンの体が変化している。取材が終わり、駐車場で別れる時に離れて見たら、確かに顔が小さくなっている。

翌日、ナショナルトレーニングセンターで行われていた全日本合宿で彼のプレーを見た。やはり体つきが変わっているのがわかった。「練習を休んでいたから体が重い」と言いながら、動きの切れは悪くなかった。

● ● ● ● ● ● ● ● ●

●ーなんか締まった顔になっているね。

水谷 去年(2013年)の11月の時(前回インタビュー)より4㎏やせました。体重を増やさないように食事をコントロールしています。今まで体が重くて、あと5㎏は落としたいです。体重はないほうがいい。筋肉(をつけるの)ももういい。もちろん体力はつけなくちゃいけないけど、まずは速さが大事ですから。2、3年前は69㎏、とか70㎏くらいあったから、その時よりは7㎏くらい落ちている。脂肪も落ちたし、 体も軽いですし、このまま落としていきたい。

 

●ー去年、邱建新さん(ドイツ『フリッケンハウゼン』コーチ)とコーチ契約したけど、それも良かったのかな。

水谷 常に試合の後にメールや電話が来るし、自分とは違う発想の話が聞けるのがいい。ぼくの良い部分は残してくれていますね。最初は後ろに下がりすぎだとかもっと速く攻めろとか言われたけど、それもぼくの持ち味だから、今は後ろに下がってもあまり言われなくなった。

プリモラッツ(ロシア『UMMC』コーチ)も最初は「攻めろ攻めろ」と言っていたけど、最近言わなくなって、「攻めと守りのバランスでうまく戦え」と言いますね。

 

●ーバックハンドは相当良くなっている感じだけど。

水谷 3、4年前からバックハンドの強化をやってきました。ただ、変えていくには時間がかかるんです。邱さんがついたことも大きいし、ロシアに行ったことも大きい。ただ自分としては長い間ずっと強化してきた。

 

●ー今回は、プレー領域と攻守のバランスが良かった印象がある。

水谷 それは思います。前・中・後陣で戦えるし、フォアとバックのバランスもいいし、プレースタイルはスキがなくなったと思う。可能性をまだ秘めているから、一つひとつを伸ばしていけばいい。まだまだ「ここを強くしたい」という部分はたくさんあるから、そこを伸ばしていきたい。良い流れだし、日々成長している感じです。

「まず自分がやるんだ」という気持ちは強いです。手本を示したいという気持ちです。ロシアリーグや邱さんとのコーチ契約も、自分が道を示して他の選手も目指してくれればいい。今のままだと日本で強くなるのは難しいと思うから、それを変えるきっかけになればいい。

 

●ー大会前、史上最高レベルの戦いになると予想したものの、優勝候補に名前を挙げられた選手は早めに負けていった。

水谷 他の選手が全日本にどういう意識で臨むのか、結果をどう考えるかは全く気にしない。ただ、丹羽と(松平)健太がいて、なぜぼくが全日本で5連覇できて、彼らがそれをできないのかは考えてほしいですね。理由は絶対ある。

なぜぼくが世界ランキングの一番トップで全日本で勝ってきたのか。今までのワールドツアーで何回勝ってきたのかという実績もそうだし、過去の世界選手権での実績を見てほしい。確かに今は彼らとの差は縮まっているけれども。

 

●ー全日本はある意味、公平な舞台かもしれない。みんながそこで勝ちたくて勝ちたくて激しい練習をして、臨む。それがこの全日本。そこでの成績は正直な結果かもしれないし、その選手の評価になる。運不運だけでないものがある。

水谷 みんな苦しんでいると思いますよ。他の優勝候補と言われた選手も、みんなぼくとは試合をやりたくないと思っている。そういう苦しい中で勝つことは大変だと思う。ぼく自身、毎回苦しいです。試合前の緊張感とか、決勝前の2時間の待ち時間とか苦しい瞬間があって、勝つためには過酷な状況に耐えないといけない。ただ今回は今までと比べても特別に何か言うことはない。勝ち負けではなく、自分のプレーに自信があったし、節制して体重を落として、体も調子が良かった。

 

●ーあのレベルの卓球を見せられたら他の選手は勝てる気がしないかもしれない。

水谷 まだまだですよ。まだ発展途上です。どこまで自分が強くなっていっても、他の日本選手に負けるかもという危機感は心のどこかにあります。負けるのは自分のプレーができていない時で、自分のプレーができて負けることはないんですよ。相手は自分にプレーをさせないようにしてくるから、普段からどんな時でも対応できるような練習をする必要がある。

 

●ー次に向かうのは世界の舞台だね。

水谷 最近あんまり世界の舞台というのは意識しないですね。自分のプレーに集中しているし、自分のイメージするプレーができるように練習している。試合で勝とうと思って練習していない。前は、「次はこの試合だからそこで勝てるようにやろう」と思っていたけど、今は「ここがだめだから、もっと良くなるような練習しよう」と考えている。そうやりながら自然に試合を迎えている感じです。

気持ちが結構前向きですね。負けることよりも自分のプレーができないことのほうが怖い。前は結果を大事にして、スポーツ選手は勝たなきゃ意味がないと思っていたけど、今は違う。練習して自分が求めているプレーをすることが大事ですね。特に結果とかは気にしていない。

 

●ーそこに大きな心境の変化があるね。

水谷 ロシアに行ってからですね。

 

●ーそれがターニングポイントになっているのかな。

水谷 なっていると思います。ロシアでやっていると、自分のためというよりチームのために勝ちたいと思う。チームから頼られているから余計にチームのために頑張ろうとする。来シーズン(8月末~)もクラブとの契約が決まっています。

 

●ー今年はロシアにも行きながらワールドツアーにもしっかり出て、五輪のシングルス枠を狙っていくんだろうね。

水谷 もちろんオリンピックのシングルスの出場権は絶対逃したくないけど、ワールドツアーで勝ちたいという気持ちはなくて、自分の実力を上げていきたい。

世界ランキングが15位でも20位でもオリンピックに出られるんだったら構わない。前は、世界選手権やオリンピックのシード権も考えていたからランキングを気にしたけれど、自分が実力をつければ、どこに入ろうが関係ないと思っています。

関連する記事