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今野の眼

【卓球】宇田幸矢がドイツ行きを決意。「国内でやるほうが楽です。お金も考えなかった。ただ強くなりたいから」

日本の男子はまだ正式に公表できていないが、来シーズン、20人近くの選手が海を渡り、ドイツ、ポーランド、オーストリア、スウェーデンに向かう。
ある者は日本で戦いの場を失い、プロ選手としてお金を稼ぐために向かい、ある者は強くなるために、環境を変えるために向かう。

2年前の全日本チャンピオン、宇田幸矢(明治大)は後者だ。
ドイツ・ブンデスリーガ1部リーグの「ケーニヒスホーフェン」と契約を終えた。おそらくチームの一番手として登録されるが、ボル(デュッセルドルフ)、ヨルジッチ、フランチスカ(ザールブリュッケン)、ゴーズィ(オクセンハウゼン)、ファルク(ブレーメン)などの世界のトップ級選手との対戦が予想される。

あるTリーグのチーム関係者がこう言った。
「日本の若い選手、その選手のまわりの人が勘違いして、大学生でも高いお金を要求してくる。強くなればお金はついてくるのに、強くなることよりも先にお金を考えている」
同感だ。
長年、ヨーロッパや日本のプロ選手を見てきて、強くなるために挑戦をせずに強くなった選手は存在しない。プロ選手といえども、強ければお金は入ってくるが、強くなることよりも目先のお金に目がくらんで、その後強くなった選手などいない。

宇田幸矢のブンデスリーガ入りが驚きを持って受け止められたのは、来季のTリーグから勝利数がパリ五輪選考基準に組み込まれているのに、その獲得ポイントを気にせずに強くなることを優先してドイツ行きを決めたことだ。
3月の世界選手権代表選考会(ライオンカップ)が終わってから、親と相談して決めたと言う宇田。

2年前に全日本チャンピオンになった後、コロナ禍で海外での試合も減り、突き抜けるような勢いを出せなかった宇田幸矢が選んだのは「ブンデスリーガ」

 

◇◇◇

●ーーなぜあえて、ブンデスリーガだったのだろう。
宇田 環境を変えたいこともあるし、海外の選手と練習、試合をやることで、今後の自分にとって大きな経験になると思いました。コロナ前は海外で試合をやることのほうが多かったけど、今はTリーグを含めて国内の試合が多い状況になっている。海外でやるほうが強くなると思ったので決めました。
●ーー当然、パリ五輪に向かっていく中で、今何をすべきかと考えたうえでの決断かな。
宇田 もちろん(パリ五輪を)考えています。もしオリンピックに出るにしても試合をするのは海外の選手なので、そこで勝てないと何も始まらない。そこを見据えて決断しました。
お金を考えれば、Tリーグのほうが良いかもしれないし、国内でやるほうが楽です。移動も難しくはないし、時差もないし、日本選手がいれば楽しい。でもぼくはまだ20歳だし、成長することだけを考えたら海外での経験も少ないから、今行くべきだと思っていました。お金は全く考えなかったですね。どんな条件でも行くつもりでした。向こうでやることが実力アップにつながると強く思っています。

◇◇◇
Tリーグではチームに登録できる選手数がブンデスリーガの2倍以上のため、試合機会がないと嘆く選手も多い。プロ選手ならそれは死活問題になる。
すでに「ザールブリュッケン」と契約を終えた神巧也も戦う場を求め、そして自分が強くなることを信じて、日本を飛び出した。

かつて、1997年に日本初のプロ選手として海を渡り、やはり日本人初のブンデスリーガーになった松下浩二は、日本での高額な契約を捨て、年収が半分以下に減るブンデスリーガ2部に挑み、翌シーズンに1部リーグの「ボルシア・デュッセルドルフ」に引き抜かれた。お金ではなく、強くなる可能性に賭けたのだ。
2002、2003年には岸川聖也、水谷隼がドイツで挑んだ。プロ選手になれるかどうかもわからず、将来世界的な選手になるという保証もないまま、彼らも孤独に絶えながら歯を食いしばった。

彼らは目先のお金に飛びつかなかった。宇田もそうだろう。日本にいればTリーグである程度のお金はもらえたはずだ。
あえてドイツに向かう宇田幸矢に拍手を贈ろう。
彼が練習の場として選んだのは、かつて松下浩二が汗を流し、岸川聖也、水谷隼という世界・五輪メダリストたちがボールを打ち続けた「ボルシア・デュッセルドルフ」の練習場だ。
ドイツ卓球の聖地で宇田幸矢がひと回り強くなることを信じている。

<宇田幸矢のインタビュー全文は4月21日発売の卓球王国に掲載>

 

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