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伝説の男・楊玉華、パリ五輪代表選考を語る。「選手は監督が選ぶべきだと思います」

 

1983年世界選手権の男子ダブルスで銅メダルを獲得した時の楊玉華(右)。パートナーは王会元

 

留学のために来日し、全日本学生選手権で4連勝の記録を作った楊玉華

 

東北福祉大学准教授・大倉峰雄。中国名に楊玉華を持つ元中国ナショナルチームの卓球選手だ。1983年世界選手権で男子ダブルス銅メダルを獲得後、25歳で東北福祉大学に入学して全日本学生選手権男子シングルスを4連覇した。戦後日本で唯一の大記録だ。
この伝説的な男の目に、パリ五輪代表選考はどう写っているのか。男は静かに口を開いた。

(インタビュー=伊藤条太/卓球コラムニスト)

 

世界で勝とうと思ったらより勝ちやすい選手を

選ぶしかありません。出たいなら

圧倒的に強くなるしかないのです

 

●−現在、日本卓球協会は、国内選考会を中心にしてパリ五輪の選手を決めようとしています。これについてご意見をお聞かせください。

楊玉華(日本名大倉・以下楊) 選手は監督が選ぶべきです。勝ちに行くんだったら最低2人は強い選手が必要です。それを監督が選ぶのは当たり前じゃないですか。3人目は選考会で決めてもいいですが、2人は絶対に監督が決めないといけないです。たとえば、サッカーのワールドカップの選手は監督が選ぶと思います。選考会はしないでしょう。それと同じです。

●−監督が決めるのはいわば独断で決めるということですから、不公平だという考え方もあります。

 それは仕方のないことです。世界で勝とうと思ったらより勝ちやすい選手を選ぶしかありません。出たいなら圧倒的に強くなるしかないのです。日本のよいところは団結力があるところだと思っています。監督の決定に従うことも団結力だと思います。

●−選考会をやって、多くの選手にチャンスを与えないと不公平だという声もあります。

 そう言う人がどれくらいいるんですか?100人の中の1人だったらそれは100分の1の意見です。日本は民主主義の国ですから、必ず意見はあります。しかし、全体的に見ないといけません。

●−たしかに「多くの選手にチャンスを与えてほしい」とは思っているのは、代表になる可能性があるトップ選手たちだけの気がします。

 指導者たちは誰でも自分の選手を世界選手権や五輪に出したいでしょう。その気持ちはわかります。でも、ナショナルチームの監督は世界で勝つことを考えないといけない。それは分けて考える必要があります。それを一緒にすると話は永遠に終わりません。

●−厳しいですね。

 厳しいのは当たり前じゃないですか。卓球の試合も戦場ですから。戦場でピストルを向けあってどちらの指が先に動くかという場面と同じですから。

●−中国でも選考会をやることがありますか?

 今の中国はわかりませんが、私の時代は選考会はありませんでした。いくら国内の試合で勝っても国外で負けたらダメですから。あくまでも国の代表選手ですから。

●−国内の強さと国外の強さは違いますか?

 違います。例えばですが、世界選手権で2回優勝(85、87年)した江加良は、中国国内大会では1回もシングルスで優勝していません。また、やはり世界で2回優勝(81、83年)した郭躍華は、裏ソフトラバーとアンチラバーを見分けられなくて(※当時はラケットの両面に同じ色のラバーを貼ることが認められていた)蔡振華を苦手にしていましたが、他の選手にはとても強かったから優勝できました。本番ではその蔡振華にも決勝で勝ちましたけど。卓球はこういう得意と不得意があるスポーツなので、単純には選手を決められないのです。

 

今まで中国選手に勝てた選手が

選考会で落選したら、

それは中国としてはラッキーですよ

 

●−日本で選考会をやっていることは中国から見たらどうでしょう?

 想像ですけど、ラッキーでしょう(笑)。例えば、今まで中国選手に勝てた選手が選考会で落選したら、それは中国としてはラッキーですよ。落ちなくても中国対策する時間が減りますから。

●−もし楊さんが監督ならパリ五輪に向けてどういう選考をしますか?

 まず、この2、3年の国際大会の成績を参考にして2人の選手を決めてしまって、その選手をパリまで強化しますね。3人目は選考会をやってもいいかもしれませんし、試合の様子を見て、ぎりぎり半年前くらいまでに決めるかもしれません。自分が選んだ選手でも負けるかもしれませんが、それは人間がやることですから誰にもわからない。でも、使いたい選手を使えなくて負けたら責任持てないじゃないですか。

●−パリまで選手を強化するというお話ですが、楊さんなら中国に勝つために具体的にどういう強化をしますか?

 中国対策というと、中国の1、2番の選手の対策をしがちですが、私なら3番目の選手や中国以外の国の選手の対策に力を入れます。その選手たちに確実に勝つこと、できればあまり体力を使わず楽に勝つようにすると、体力的、精神的にも余裕が出ますので、結果的に中国の1、2番に勝つ可能性が上がると考えます。もう少し下に目を向けさせたいですね。

●−そういう発想は初めて伺いました。深いですね。選考会にお話しを戻しますが、もし楊さんが「選考会だけで選手を決めるけど監督をやってほしい」と言われたらどうしますか?

 そんなことは絶対にないと思いますが(笑)、あったとしてもやりません。使いたい選手を使いたいですし、ぎりぎりまで選手が決まらなかったら強化のしようがないですから。

●−今から選考方法を変えるとしたら、どうしたらいいと思いますか?

 とにかく監督の推薦枠を設けた方が良いと思います。また、Tリーグでポイントを加算するのは違うと思います。Tリーグは、各チームの戦略によって選手の使い方が違います。パリ五輪の選考とは別にするべきだと思います。

●−楊さんは中国出身で今は日本人なわけですが、正直なところ、日本と中国のどちらに勝ってほしいですか?

 それは日本に勝ってほしいですよ。今は私は日本人だということもありますが、何よりも中国は勝ちすぎです。それは見て面白くありませんし、卓球というスポーツの発展のためにもよくないことです。日本選手が中国選手に勝つことによって、世界の卓球は変わると考えています。私は本当に日本に勝ってほしいのです。

●−ありがとうございました。

 

日本の五輪代表の選考方法に疑問を感じた東北福祉大学准教授・大倉峰雄(中国名・楊玉華)氏

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