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水谷隼、五輪日本代表の選考方式を語る。「国内の最強ではなく、世界で最強の日本選手を選ぶべきです」

東京五輪金メダリストの水谷隼さんが「パリ五輪日本代表の選考方式」に関して、ついに口を開いた。
五輪に4度出場し、2016年リオ五輪と2021年東京五輪では合計4個のメダルを獲ったトップアスリート。
現役を離れても、選手たちとは今でも連絡を取り合い、
距離を置きながらも、しっかりと今の卓球界を見ている水谷さんにとって
「パリ五輪日本代表の選考方式」はどう映るのだろう。
聞き手=今野昇(卓球王国発行人)
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<パリ五輪日本代表選考基準の考え方>
シングルス2名枠(パリ五輪選考ポイント上位 2 名)
選考対象大会
・世界選手権
・アジア競技大会
・アジア選手権
・パリ五輪選考会(6大会あり、うち3大会は終了)
・T リーグ個人戦
・T リーグレギュラーシーズン大会(セミファイナル・ファイナル含む)
・Tリーグ団体戦中のシングルスおよびビクトリーマッチ
・国際大会のシングルス種目において中国のトップ3選手に勝利した場合(2023 年1月30 日〜2024 年1月21日までの国際大会/アジア競技大会のシングルス種目は対象外)
・2023、24年全日本選手権
*2024 年全日本卓球選手権大会終了後数日内に発表予定
日本卓球協会が21年9月に発表し、22年6月に追記
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Tリーグや選考会などの勝利で一喜一憂するのではなく、さらに世界のトップを目指してほしい張本智和 Photo:Remy Gros

 

国内選考会の比重が高いために、
国内で勝つための練習を意識してしまっている。
それは中国や海外の選手に
勝つためのものとイコールではない

●ー現在、卓球界ではパリ五輪の選考方法が大きな話題になっています。
水谷 五輪代表の選考方式は前にSNSでも書きましたが、今の選考ポイントに加え、世界ランキングの上位選手にポイントを付与して、選考会のポイントと合計するハイブリット(混合)方式が良いと思っています。Tリーグの勝ちを選考基準に入れるのはどう考えてもおかしい。Tリーグというのは特殊なルールで試合が行われるし、団体戦なので、相手チームによってオーダーが変わったり、オーダーから外された場合、試合に出れないこともあるので、Tリーグの勝ちを選考ポイントに入れるのは不公平だと思う。

●ー卓球ファンの人たちもあの選考方法はおかしいと言い始めています。
水谷 当時(昨年秋)と国際大会の状況も違ってきているし、そもそもオリンピックは出場することが目的ではなくて、勝つことが目的で、なおかつ今の日本は金メダルを求められています。

●ーつまり五輪には「最強の選手」を出すべきという意味ですね?
水谷 それも「国内の最強」ではなく、「世界で最強の日本選手」を選ぶべきです。つまり、オリンピックで日本選手が試合をするのは海外の選手なんです。いくら日本の選手に勝って、国内で成績を残していても、それは参考にはならない。
でも国外で強い選手は国内でも強い。だけど、国内で強い選手は国外で強いと言えない。プレースタイルも関係しているし、卓球では初対戦の場合、海外の選手に対して勝つのがより難しいからです。
またTリーグに出ながら、国際大会に出るのは大変だと思うし、さらに今年は選考会も多くありました。ぼくも2017、18年の頃は13週連続でワールドツアーやロシアリーグ、マレーシアでのT2の試合に出ていた。自分自身、経験したけれども、タフなスケジュールをこなしながら調整することは選手にとっては大変なことです。
今良くないのは、国内選考会の比重が高いために、国内で勝つための練習を意識していることです。それは中国や海外の選手に勝つための練習とイコールではない。でも、中国に勝つための練習、世界に目を向けた練習をやっておけば日本でも勝てます。日本選手に勝つための練習をしている人は世界で勝てない可能性がある。
張本もTリーグや選考会で自分より格下の選手に勝って喜んでいるけど、今それはどうなのか。本来は自分がやってきた練習を試すとか、あえて自分の苦手なところに打たせてからの展開とか、YGサービスだけを使って試合をするとか、そうやって自分の能力を高める場にしてほしい。Tリーグで勝ってポイント稼いで喜んで、自分がやっている練習が正しいと勘違いしてしまう可能性がある。勝つことは当然なのだから、Tリーグで勝つことよりも、1試合1試合、目的を持って試合をしてほしい。

●ー伊藤美誠選手は先日の選考会でも、世界選手権、その後のWTT、そして日本に戻っての選考会で勝てない自分や、思うに任せない練習や、強化できないことに涙してました。
水谷 美誠はまず現実を受け入れることが大事です。心のどこかで、試合が多いこと、なぜこんな状態で選考会をやるんだろうという苛立ちを抱えた状態で試合をしている。それに結果が残らないからもっと辛くなるんでしょうね。パリのオリンピックで日本が金メダルを獲るためには美誠の力が絶対必要なのだから、全日本でも優勝して、日本最強の選手がこの選考基準で苦しんでいる状況っておかしくないですか。
選手と話をしていても、「私は国内の選考会を頑張ります」「私は海外で世界ランキングを稼ぎます」と、みんな目指す方向がバラバラになっているのが現状です。

●ー世界選手権に出ている間のTリーグも選考ポイントに加わり、日本代表の選手たちも複雑な思いがあったと思う。
水谷 ぼくもリオ五輪の前のシードを取れるか取れないというときに、ロシアリーグとワールドツアーが重なり、ツアーに出られないこともありました。あの時の悔しさは今でも覚えています。

●ーTリーグの勝利ポイントを選考基準からはずすこと、世界ランキングを選考基準に組み込むことを強化本部には望みたいですね
水谷 ぼくはとにかく(五輪代表は)最強のメンバーになってほしいと思っています。選考会も8人くらいでやればいいと思っている。だって、国内で競うとしても9番目、10番目の選手が「最強メンバー」の中に入ってくるんですか? そういう選手でメダルを獲れるんですか? 男子なら、張本智和・戸上隼輔・宇田幸矢・篠塚大登の4人に、吉村真晴と及川瑞基くらいでしょう。その選手たちで選考会やればいいと思っています。ところが、現状はこれだけ試合数が多いにもかかわらず、選考会を32人でやったり、Tリーグまで(選考ポイント対象に)入っている。それって「アスリートファースト」なんですかね。
ぼくが言ったから選考方法が変わるとは思わないけど、今一度、強化本部や理事会でもしっかり考えてほしいと思います。

 

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