世界を驚かせる、独創的なスタイルはどのようにして生まれたのか。
丹羽本人が語る、これまでのプレースタイルと練習の変遷、独自の卓球観からそのルーツを探っていく。
守備的から攻撃的に。プレースタイルの変遷
小学生の頃はブロックやカウンターなど相手のボールを利用して戦う、どちらかと言えば守備的なスタイルでした。当時はスピードグルーが使えましたが、ぼくは塗らずに弾まない用具を使っていて、パワーもなかったので自然と前陣でのプレーになりました。それが今のプレースタイルにもつながっています。
青森山田中に進学してから、プレーが攻撃的になりました。技術ではバックドライブを覚えましたが、先輩たちがバックドライブを振っているのを見て、単純に「カッコいい」と思って練習していましたね。中学2年で全日本の一般でベスト16に入った頃には、バックはブンブン振れるようになっていたと思います。高校2年でチキータを覚えたことも大きなターニングポイントになりました。中学・高校の頃が、自分の中で一番攻撃的にプレーしていた時期でしょう。
今は緩急やコース、サービス・レシーブなど、相手のやりにくさを意識しています。経験も積んできて、若い頃のようにガンガン攻めるだけではなく、あえて引くなど相手によって戦い方も使い分けられるようになりました。ただ、格上の選手と対戦する時は積極的に仕掛けていく意識は持っています。
「プレーをこうしたい」という今後のビジョンは、あまりないですね。その時々で世界の卓球を見ながら、そこで勝てるスタイルを目指していくつもりです。
練習の土台は青森山田時代のメニュー
正直、小学生の頃にどんな練習をやっていたかは覚えていないです。練習メニューは父が決めていましたが、基本練習が中心だったと思います。ただ、休みなく毎日練習していたので練習量は多かった。平日は学校から帰ってきてから4時間くらい、土日は5時間くらい練習していたはずです。1週間毎日練習していたのは小学生の時が最後ですね。
青森山田ではフォア2本・バック2本の切り替えや3点フットワークなどの練習が中心でした。この時期にやっていた練習が現在までの練習のベースになっており、ランダム要素を加えたり、負荷を大きくしたりして、よりレベルの高い内容にしています。高校から大学にかけてドイツに行った時期もありますが、ブンデスリーガで試合経験を積むことが目的だったので、練習内容は日本にいる時と変わりませんでした。
また、調子が落ちていると感じた時や試合前は、規則的な練習を多くするなど、時期や状態によって内容は変えるようにしています。
良い意味での「省エネ卓球」
ぼくの卓球について「トリッキーなプレー」や「大胆なプレー」と言われたりもしますが、自分ではあまり特別なことをしているつもりはないですね。
プレーで言えば、ぼくはガムシャラにプレーする選手より、力が抜けた感じでクールにプレーする選手に憧れていましたし、実際そうなっていると思います。ガムシャラにプレーするのが悪いことではありませんが、そのぶん故障のリスクも大きくなります。ぼく自身、これまで一度も大きな故障をしていないのは、自分のプレーが良い意味で無理をしない「省エネ卓球」であることも大きいと思います。
「手打ち」だけど合理的なスイング
ぼくは自分のスイングを「棒立ち」で「手打ち」のスイングだと思っています。ただ、「手打ち」なのには理由があります。
「下半身を使ったほうが良いボールが打てる」とよく言われますが、ぼくのように前陣でプレーする場合、しっかり下半身を使って打つだけの時間的な余裕がありません。加えて、ぼくが中国選手のような大きなスイングで打っても、体格差もあるので彼らと同じような威力のボールを打つのは難しいでしょう。
そのため、前陣でのスピードを重視するのであれば、下半身をしっかり使って打つよりも、上半身を意識して前腕中心のスイングでいかにパワーを出すかを考えたほうが合理的。前陣で相手のボールの勢いを利用すれば、「手打ち」でも威力のあるボールは打てると考えています。
プロになって意識したフィジカル強化
フィジカル(身体)トレーニングはナショナルチーム(NT)の田中礼人さん(ストレングス&コンディショニングコーチ)にメニューを組んでもらって、継続的に取り組んでいます。特にウエイトトレーニングが好きで、NTの中でもかなり熱心に、力を入れてやっているほうだと思います。
大学まではあまり気にしなかったのですが、プロになってから意識してフィジカル強化に取り組むようになりました。パフォーマンスの維持と向上、故障の予防が目的ですが、体脂肪が増えた時期に成績が落ちたことがあり、それからは食事の面も含めて、体重や体脂肪をしっかり管理しています。フィジカルトレーニングは持ち上げるウエイトの重さや体脂肪率など、やったぶんだけ数値での成果が現れるので、達成感があって好きですね。
―卓球王国2020年11月号掲載から引用―
後編へ続く
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