卓球王国 2022年8月22日 発売 vol.305
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韓国卓球界のカリスマ、千栄石「選手には良いものを食べさせて、地獄の練習をやらせる」

選手には良いものを食べさせて、

良い所(ホテル)で休ませて、

そして地獄の練習をやらせて、

徹底的に訓練する」

 

またひとり、巨星が消えた。1931年生まれの千栄石氏は、日本卓球界の偉人、荻村伊智朗(故人・元世界チャンピオン・元国際卓球連盟会長)の1歳上で、ほぼ同時代を生きてきた。1956年世界選手権東京大会には選手として出場している。

1960年代からは指導者として韓国卓球界を引っ張り、「地獄の練習」と「緻密な戦術訓練」で1973年には李エリサ、鄭賢淑を中心に女子団体で優勝し、初の世界タイトルを韓国卓球界にもたらした。

協会の中では常に強化の後ろ盾となり、1988年のソウル五輪では2個の金メダルと1個の銀メダルを獲得。韓国の黄金時代を築いた功労者でもある。

堪能な日本語で、日本の多くのチームを訪れ指導もされた人だった。

2004年から4年間は競技選手初の韓国卓球協会の会長に就任したが、時に強権的なやり方で、ナショナルチームの指導陣が試合をボイコット、辞職した事件も発生した。

中国とも日本とも違う、独自の韓国卓球を作り上げた指導者、千栄石。会長に就任した直後の2005年3月号の、17年前のインタビューをアーカイブとして紹介しよう。

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<2005年8月号より>

 

韓国のカリスマ指導者

千栄石、韓国卓球の強化を語る

現役として韓国代表で活躍し、監督としては73年に中国を破り、女子団体で世界選手権優勝を果たした。

その後、韓国の強化の中枢、知恵袋として独自な韓国卓球を築き上げてきたカリスマ指導者。

それが千栄石という人物だ。70歳を越えても今なお、消えることのない情熱。

その熱くたぎる指導理念に触れてみる。

聞き手=今野昇

 

私は本当に

好きだからそれをやっている。

私はよく言うんですよ、

私は卓球協会の

会長じゃない、

ヘッドコーチだと

 

●――アテネ五輪では柳承敏のシングルス優勝をはじめ、韓国は全部で3個のメダルを獲得しました。韓国卓球協会として、過去から現在まで一貫した強化策を講じてきたのでしょうか。

千栄石 私には私のやり方があります。それは今までも結果を出してきたし、それをやれば世界で通じるという見方もあります。この間も、初めてジュニアの合宿を1カ月間行いました。練習プログラムも私のやり方で作りました。私がやれば、強化はいい方向に行くと信じてくれるからやれるのです。

私は本当に好きだからそれをやっている。私はよく言うんですよ、私は卓球協会の会長じゃない、ヘッドコーチだと。

 

●――韓国卓球の中で、「千栄石流」の指導のポイントは何ですか。

千栄石 私のやり方の基本は、相手を知ったうえでの練習プログラムです。相手の卓球スタイル、個性、技術の内容を知ったうえでの、個人に合わせた練習プログラムを作り上げていきながら鍛える練習です。全体練習として行うのではなく、その選手が戦術的によく使っている技術を徹底的に伸ばすやり方です。

合宿に入れば、世界選手権というのは朝の9時から夜の11時までやる。それを10日間行う。体力がなければ、中盤以後に優れた技術を持っていても、体力がないために負けるという選手を多く見てきました。そのため、大会の3カ月前なら最初の1カ月間は毎日、男子の場合は5kmから7kmを走らせる。長距離ランニングの目的は、筋肉を養う目的もあるけど、一番は心肺機能を高める目的があるし、それがなければ優れた技術も発揮できないし、体力が強化できれば精神的にも強くなる。あとは応用練習を1カ月間行う。この場合、きょうの練習の目的は何なのかということを、個人別に一人ひとり作り、はっきりと伝達して、認知させる。

例えば、世界のトップ10人のメンバーを挙げて、その選手一人ひとりに対する練習を意識する。練習を漠然とやっていてはいけない。相手を一人ひとりイメージさせながら練習する。相手が馬琳であれば、馬琳の技術的特徴に合わせた練習を、個人別に行っていく。相手が王励勤だったら王励勤用の練習、相手が王皓だったら王皓用の練習プログラムを作り、実行していく。それを一人ひとりの課題として与えて、練習をさせる。

総合的な全体練習では、相手ががらっと変わった時に通じないことが多い。だからイメージトレーニングはとても重要です。感性的な卓球ではダメです、理性的な卓球をするということが大事です。練習を多くしたから価値があるのではなくて、練習を少なくしても今、何の目的で練習をやっているのかを認知したうえでやらなくては効果も価値もない。

上海の世界選手権に向けて、12月24日から韓国選手権があって、そこで世界選手権に向けての予備軍を選んで、すぐに合宿に入ります。合宿に入ったら、世界で勝つための技術を個人別に徹底してやっていきます。

 

●――3カ月間というのは合宿として行う、ということですか。

千栄石 そうです。毎日一緒です。ナショナルトレーニングセンターへ行ったり、新しく地方に良い練習場も見つけました。

競馬でも、馬に良いものを食べさせ、よく休ませて、訓練させますが、卓球でも同じです。選手には良いものを食べさせて、良い所(ホテル)で休ませて、そして地獄の練習をやらせて、徹底的に訓練する。休ませる時には、歌ってもいいし、踊ってもいい。今の若者はそういう傾向があるから、それに合わせればいい。ただ練習に入る時には、そこに集中して緊張した雰囲気で練習をしなければいけない。

 

2004年アテネ五輪で中国選手を破って優勝した柳承敏(現韓国卓球協会会長)

 

●――アテネ五輪前もそういう激しい訓練をしたということですね。

千栄石 はい、3カ月間行いました。

 

●――それが3個のメダルに結びついたということですね。世界選手権前もそういう訓練を行うのですか。

千栄石 オリンピックの場合は64人の中からターゲットを絞り込んで訓練できますが、世界選手権の場合は、中国選手は多く出てくるし、山から山を越えなければいけない。目的を絞るのは難しいけれど、頂上の、トップクラスに対した練習を徹底的に行います。練習したからといって、すぐに効果は出ないかもしれないけど、私がやっている間は選手の数は少なくても、少数精鋭で世界の舞台で活躍できる選手を育てたい。

これからは、ホープス・カデット・ジュニア、そして一般という4体制でやっていき、常時1軍と2軍を作って、そこにお金を投資したい。来年すぐに力を発揮できなくても、2、3年後に韓国卓球が世界で勝てるような教育内容になるように今計画をしています。その一環として、私は世界ジュニア選手権を見たほうがいいと思ったし、とても勉強になりました。

 

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