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女性向け卓球WEBサイト[卓球レディース]を作った主婦、西村友紀子

西村 友紀子

[卓球レディース運営]

「どうして卓球メディアは男性目線のものばかりなの?」。高校以来25年ぶりに卓球を再開した主婦、西村友紀子が抱いたのはそんな疑問である。それならばと作ったのが卓球WEBサイト「卓球レディース」だった。

文=伊藤条太

 今年の3月8日、大阪・コングレコンベンションセンターで、ある女性のプレゼンが会場を爆笑の渦に巻き込んだ。大阪産業局などが共催する、女性起業家を対象とした発表会「LED関西」でのことだった。過去最多274人の応募者から勝ち残った10人のファイナリストが、100社を超える企業・自治体にアピールする一大イベントだ。

 女性の名は西村友紀子。他の発表者たちが、女性の人材活用、育児支援などシリアスな社会課題の解決を事業に結びつけ、時に感動的に訴えたのに対して、西村のプレゼンは自虐的ユーモアを交えて卓球女子の窮状を訴え、最後に「チョレイ!」と叫んでピンポン球を投げる異色のものだった。ビジネスプランに笑いが必要かという疑問をよそに、閉会後には40社以上が西村のもとを訪れ、16社と繋がりができた。 

 西村と卓球の出合いは幼少期に遡る。ある時、西村は押し入れの奥から菓子箱に入った卓球のラケットとゼッケンを見つけた。銀行勤め時代に国体にまで出た母のものだった。「世の中に卓球ほどつらいスポーツはない。卓球だけはやったらアカン」。そう母は語った。卓球を禁じた理由は他にもあった。西村の両親は詩吟の指導者で、娘を日本一にすべく英才教育を施していたのだ。例えば、「リ」をきれいに発音できないとリンゴを食べさせないなど、日常の全てが詩吟の指導だった。西村は、今も英語の歌でさえもコブシが回って詩吟調になる。

 そんな幼少時代だったが、限界を感じた西村は中学に入ると詩吟をやめ、高校では卓球部に入る。指導者はいなかったが、強豪校の1学年上のエースとゲームオールを演じて会場をわかせたのがささやかな自慢だ。

 その後は卓球から離れ、短大卒業後は計測器メーカーで6年間営業した後、映画監督を目指して上京。テレビ、ラジオ、雑誌などのメディア関係を渡り歩き、息つく間もない20・30代を送った。

 やがて結婚、出産し、専業主婦となっていたある時、「起業したい」という友人の付き合いで起業セミナーに行く羽目に。ビジネスプランなどあるはずもなかったが、思いつきで書いたのが、女性向け卓球WEBサイトの企画だった。西村は、息子の小学校のPTAがきっかけで25年ぶりに卓球を本格的に再開していたが、以前と変わらない男性目線が中心の卓球界が気になっていたのだった。

 こうして、まったく経験のなかったWEBサイト制作をゼロから勉強して、2021年4月に開設にこぎつけ「卓球女子の前髪問題」、「掟破りの夫婦ダブルス」など、斬新なコンテンツで卓球女子の心をがっちりとつかんでいる。

 ビジネスの幅を広げるべく挑戦した「LED関西」では、「テーマが珍しいだけ」と言われながらも勝ち抜き、ファイナリストの舞台に立った。よく通る声と明瞭な発音は、まぎれもなく詩吟で培ったものだった。両親が娘に託した夢は、別の形で確かに花開いたのである。

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にしむら・ゆきこ

1974年、京都府出身。京都女子大学短期大学部文学部卒。幼少期より両親から詩吟の英才教育を受けるも、中学で詩吟をやめて高校では卓球部に入る。卒業後は卓球と離れていたが、息子が小学校に入るタイミングで再開。友人の付き合いで行った起業セミナーで、思いつきで書いたのが女性向け卓球WEBサイトの企画書だった。2021年に「卓球レディース」を開設

https://takkyuu-ladies.com/

卓球レディース

 

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