11月の世界ユース選手権でアジア以外から初のチャンピオンとなったのが、ドイツのアネット・カウフマンである。2024年8月のパリ五輪では、団体戦で当時世界ランク7位の張本美和(木下グループ)を破り、日本でも注目を集めた。
彼女のバックグラウンドが徐々に明らかになってきた。両親はカザフスタン出身で、父アンドレイはプロのアイスホッケー選手、母アンナはプロのアルペンスキー選手というスポーツ一家である。
ウィンタースポーツのエキスパートである両親であったが、南ドイツに移住したため、娘二人(姉アレクサンドラと妹アネット)はスキーをする機会がほとんどなかった。
代わりに姉妹は卓球に興味を持ち、アネットが卓球を始めたのは4歳のときである。4歳年上の姉アレクサンドラは元ドイツジュニアチームの選手であり、現在は教員養成課程で歴史とスポーツを専攻している学生である。昨年には、Aライセンス・コーチ養成コースを最年少で修了した。
アネットは姉の影響で卓球を始めたが、卓球だけでなく学業でも優秀であった。ドイツでは、小学校が4年間で、その後の進路として5年制の「ハウプシューレ」、7年制の「レアルシューレ」、9年制の「ギムナジウム」を選択する必要がある。大学進学を目指す生徒は「ギムナジウム」に進むが、日本のような受験制度はなく、学校の成績が進学先を決定する仕組みである。
「アネットは何事も上達したがり、学校でもA(優)を取りたがる」と母親が語るように、卓球の遠征で学校を欠席することが多い中でも、成績はAレベルを維持していた。彼女は「卓球が第一の目標(Aプラン)であり、第二の目標(Bプラン)として警察の犯罪学分野や法医学に興味があり、刑事捜査官を目指していた」と、バーデン=ヴュルテンベルク州スポーツ協会のウェブサイトで説明している。大学での勉強も視野に入れていたようである。
しかし、ドイツでは大学での学業とプロスポーツ選手の両立が非常に困難とされており、現在のアネットは卓球選手としてのAプランを実現する道を選んでいる。同年代で聡明な張本美和とは、こういった点で共通点があるのかもしれない。
長らくヨーロッパからアジア、特に中国の選手に対抗できる存在は現れていなかったが、ドイツから現れた新星が、その輝きを放っている。
<Photo TIBHAR提供>
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