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[伊藤条太]パリ五輪代表選考における公平性とは何か。再考を強く願う

 

選手選考における公平とは、

私情を入れず、勝てそうな選手を

実力だけで正確に選ぶことである

「選手選考は公平に行われなければならない」という考えには誰もが同意するだろう。しかし選考における公平性とは何だろう。もしもすべての選手について完全に平等に選考するなら、日本卓球協会に登録しているすべての選手、男子なら19万人、女子なら11万人から抽選で選べばよい。実力や年齢で差別しない完全に公平な選考である。もちろん、そうするべきだと言う人はいない。

選手選考とは、より勝てそうな選手を選ぶためのものであり、本質的に公平なものではないからだ。にもかかわらず、「公平な選考」という概念があるのは、選手選考においては公平の意味が一般的なものとは異なるためだ。

選手選考における公平とは、私情を入れず、勝てそうな選手を実力だけで正確に選ぶことである。本当はAの方が勝てそうなのに親しいという理由でBを選んだり、AとBが同等の実力のときに、個人的にBを嫌いだからAを選んだりすれば、それは公平ではない。逆に、明らかにAが強い場合なら、Bにチャンスも与えずにAに決めるのは公平である。

より勝てそうな選手を選ぶことが公平なのであり、他の選手にまぐれ当たりのチャンスを与えることが公平ではない。「公平な選考」と言うときに、この点が誤解されていることがよくあるので指摘しておきたい。

日本の卓球界を統括するJTTA(日本卓球協会)には、その意味での「公平な選考」つまり、もっとも勝てそうな選手を選考する義務がある(これが「そうでもない」となると、本稿は無意味となるが、さすがにそんなことはあるまい)。

2020年東京五輪では、JTTAは世界ランキングの上位2名を選出するという極めてシンプルな方法を採用した。卓球は相性の要素を無視できないため、外国選手に強い選手を選ぶためには外国選手との対戦成績をもとにするのが妥当だし、五輪では世界ランキングをもとにシードが決められるから、世界ランキングの高い選手を選んだ方が勝ち進む可能性が高い。最も勝つ可能性が高い選手を選んだのだから、すなわち公平な選考だった。

しかし、2024 年パリ五輪の選考方法は、世界ランキングを使わないものとなっている。強化本部が指定する大会「世界選手権」「アジア競技大会」「アジア選手権」「パリオリンピック選考会」「Tリーグ」「全日本選手権」での戦績にポイントをつけ、その合計ポイントの上位2名を代表にするのだ。対象大会に国際大会が3つ含まれているものの、6回行われる「選考会」を含め、そのほとんどが国内の大会である。

その結果、何が起きているか。本気でパリ五輪で打倒中国を目指している選手たちが、消耗を強いられているのだ。

五輪で勝とうと思えば、中国選手と対戦して腕を磨く必要があるし、五輪で良いシードを得るためには世界ランキングを上げておかなければならない。だから選考ポイントに関係のない国際大会(WTT)に出なければならない。

しかし五輪に出られないのでは元も子もないので、選考ポイントを稼ぐために選考会やTリーグに出なければならないし、プレーも国内対策に時間を割かなければならない。

こうしたことが選手たちの過密スケジュールを招いており、当然それは不調や故障のリスクを上げることになる。

また、現状の選考方法だと、WTTなどには出ないで体力を温存し、国内対策に絞って選考ポイントを稼いだ方が良いことになる。当然、その選手の世界ランキングは下がるから、日本代表になっても五輪で良いシードは得られず、勝ち進むことは難しくなる。しかし、五輪に出ることが目標ならこれがもっとも効率が良い方法であり、そういう選手が出てこないとも限らない。

これらの状況を考えたとき、果たして現在の選考方法は、公平、つまりパリ五輪で最良の結果を得るための方法だと言えるのだろうか。東京五輪と同じように世界ランキングで決めるよう変更する必要はないのだろうか。

日本のエース、張本智和。世界団体でも中国から2点奪い、世界ランキングでも2位となったが、まだ五輪代表選考会の壁を乗り越えていかなければならない

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