3月7日、バタフライの新作展示会である卓球ショップの人がこう語っていた。「売れている4千円台の『ロゼナ』があって、ショップでの販売価格が5千円前後の『グレイザー』を今回出した。これは市場の独占だな。すごい値段のラバーで、ドイツラバーを潰しに来てるな」。
8千円前後の『テナジー』の入門ラバーとも言われた『ロゼナ』。価格9千円を超える『ディグニクス』と同じスプリング スポンジXを搭載し、中級者では「吹っ飛びすぎる」と言われた『ディグニクス』の回転性能とスピードをやや落としつつ、使いやすさを求めた『グレイザー』は4月1日から発売。試打の評判もすこぶるよく、間違いなく売れるだろう。
とは言え、バタフライのラバーが市場を独占するとは思えない。バタフライマニアと呼ばれる熱烈なファンがいる一方で、あえてドイツラバーを渡り歩くドイツラバー好きの人も存在するのだ。コロナ前、日本のラバー市場では年間210万枚前後が販売され、そのうち80万枚前後がドイツラバーと卓球王国編集部では推量している。
誰もが「バタフライのマーケティングの鋭さ」と称賛したが、その質問をタマスの大澤卓子社長に「当然といえば当然かも知れないけど、ここしかないところに新ラバーを投入しましたね」と尋ねると、一瞬驚いた表情を見せた。それはとても演技をしているようには見えない。
「今そういう質問を受けて、そうなのかと思いました。2020年秋に『グレイザー』の開発がスタートして、その時には値段有りきではなく、まずは『ディグニクス』と同じスプリング スポンジXを使いながら、さらに使いやすいラバーを作りたかった。値段はその後の問題です」という答えが返ってきた。
まさに「プロダクトアウト」と言われる自社製品の自社製造ができるバタフライならではの発想と開発プロセスがあった。
逆にドイツラバーには膨大な「マーケットイン」という市場調査結果をもとに顧客ニーズを把握し、「顧客が求めるもの」を優先して製品を開発しようとする強みがある。
昨年、卓球王国では二度にわたって、ラバーの「ブラインド試打」を行った。試打する人がどのラバーで打っているのかをわからないようにしながら、セッションを行う。そこではもはや試打する人が、どのラバーがテナジーで、ディグニクスで、どのラバーがドイツラバーなのかはなかなか当てることはできない結果だった。
それでも試打者にラバー名を教えると「これがバタフライか、だから入ると思った」という返答があった。もはや中級者レベルでは打球感覚ではバタフライとドイツラバーを見分けるのが難しいのだが、一方で「バタフライなら」という絶対的なブランドイメージが刷り込まれている。
ドイツラバーの主戦場の5千円台前後に『グレイザー』が投下される。現在、『テナジー』や『ロゼナ』を使用している愛好者はもちろん、同価格帯のドイツラバーを使っている人も一度は試してみることだろう。
『グレイザー』投入で、バタフライが市場を独占するのではなく、バタフライ対ドイツラバーの真の戦いはこれから始まるのだ。
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