パリ五輪・日本男子代表の張本智和、篠塚大登を連破して表彰台の頂点に立った松島輝空。表彰台でもほとんど笑顔を見せることはなく、「何回目の優勝?」と尋ねたくなるような雰囲気を漂わせた。
優勝会見では「良い意味で17歳っぽさがなく、大人の対応ですが、普段から冷静な感じですか?」という質問に対し、「そうですね(笑)。あんまり感情は出ないと思います。でも心の中ではうれしいです」と笑いながら答えるひと幕も。少しだけ17歳らしい表情がのぞいた。
しかし、パリ五輪でのリザーブの経験は、このクールな青年にとっても相当に悔しい記憶となったようだ。「正直、全部悔しかった。まずは空港ですかね。行きの空港でも代表選手とリザーブでは、立場も違うし、飛行機の席も違うし、そういうのを見ていて悔しい気持ちが一番沸いてきた」。
パリ五輪の試合中でも「自分だったら勝てるのに、というのはありました」と率直な思いを語っている。決して生意気な発言だとは思わない。むしろ、トッププレーヤーとしては当然の心境だろう。
2016年のリオ五輪にリザーブとして帯同し、そこで味わった悔しさをバネに翌年大ブレイクした平野美宇のように、松島輝空の快進撃がこの全日本選手権から始まるのかもしれない。残念ながら、今年5月に行われる世界卓球個人戦では、すでにシングルスの代表5名が決まっているためにシングルスには出られないが、張本智和との男子ダブルス、張本美和との混合ダブルスに出場。「まずメダル、そして金メダルを目指して頑張りたい」と意気込む。
チキータと超高速ロングサービスが武器の松島だが、パリ五輪後は「フォアハンドもミスせずに強いボールを打てるよう、きつい練習もやってきた」という。「みんなと違う練習をやっているわけではないけど、1本1本だったり、3点だったり、フットワークを使って自分のボールにして打つ練習をしていました」(松島)。
準決勝の張本戦、決勝の篠塚戦では、そのフットワーク練習を生かしたフォアハンド攻撃が実を結んだ形だが、彼の場合は動きの速さよりも予測と「読み」、そして自分の読みに対して迷わずにプレーできるメンタルが際立っている。張本戦で見せたバッククロスの回り込みパワードライブは、張本が打つ前に動き出している、というくらいの打球点の早さ。一切の迷いがなく、逆を突かれる場面も一本もなかった。
準々決勝の曽根(愛知工業大)戦の1ゲーム目や、決勝の篠塚戦の4ゲーム目で見せたように、試合中に集中力が落ちる場面はある。しかし、そこから次のゲームはパッと切り替えて、また集中力を高めてくるので、対戦相手としては非常にやりにくいだろう。
昨年2月の世界卓球団体戦・釜山大会で「対戦してみたい選手は馬龍選手」と語っていた松島。今回の優勝会見でも選手としての理想像を尋ねられ、「馬龍選手の技術の安定感や精神力は一流だと思いますし、将来は馬龍選手のような安定感を目指したい」。日本が誇る若き「重戦車」は、絶対王者と言われた馬龍を目標に、国際大会でさらなる飛躍を期す。
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