日本の混合ダブルス、水谷隼・伊藤美誠組が見事な金メダルで日本中を興奮させ、世界の卓球界に衝撃が走った。
海外の卓球関係者からも「おめでとう!」の祝福メッセージが卓球王国にも数多く寄せられている。
強すぎる中国に対して、長年、中国以外の国の卓球関係者は眉をひそめてきた。あまりに完璧な強化の環境と、才能あふれる選手たちの多さとハイレベルな国内での競争原理のもと、中国と他国の距離は離れるばかりだった。
1950年代、建国間もない中国で、時の毛沢東主席は卓球を国威発揚の道具として奨励し、力を注いできた。それは隣国・日本が世界選手権で優勝し、卓球ニッポンの黄金期を迎えていたのを見ていたからだと言われている。体格も中国と変わらない同じアジアの日本人が世界で勝てる卓球を国威発揚のため、自信が持てない中国人が自信を取り戻すための道具として活用としたのは理にかなっている。
毛主席自身も空いた時間に卓球に親しみ、1971年の名古屋でのピンポン外交から中国とアメリカの国交樹立につながったことから、卓球は政治的なスポーツと言われてきた。中国で卓球が「国技」を言われる所以がここにある。
1950年代からフットワークとフォアハンドにこだわり、世界で勝ち続ける日本に対抗するために、中国は台のそばの前陣で日本選手を振り回す前陣速攻スタイルを身につけた。1960年代の「日中対決」から「中国優勢」に移行した矢先に文化大革命のために世界の舞台から消えた中国は、1971年に再び世界の舞台に返り咲き、前陣速攻スタイルから、合理的かつ現代的なシェーク両ハンドのドライブ型にプレースタイルを変革させ、絶対的な強さを誇示するようになる。
1988年ソウル五輪からリオ五輪まで全32個の金メダルで、中国は28個の金メダルを独占してきた。時には「強すぎる中国」のために、「一国が金メダルを独占する卓球は五輪競技から外れる」というまことしやかな噂が流れたほどだ。
卓球ホビー人口(愛好者)は8000万人、競技人口は1000万人とも2000万人とも言われる中国。その巨大なピラミッドの頂点にいる代表選手。対する日本も卓球レジャー人口は約800万人、競技人口120万人(日本卓球協会登録は26万人)で、世界で2番目の競技人口を持つ。世界で見れば、3億人とも言われる競技者のピラミッドの頂点に中国や日本がいる。
昨日の東京体育館の卓球会場に陣取った中国応援団はひんしゅくものだったが、中国卓球協会関係者とオフィシャルサプライヤー(おそらく卓球関係以外の競技の人も)の関係者だろう。しかし、それが選手たちに大きな影響を及ぼすわけではない。気にならないほどに水谷と伊藤は試合に集中していた。
日本ペアの優勝から一夜明けて、中国の人々が中国卓球の敗戦に衝撃を受けた映像やコメントをテレビやネットメディアでも流している。しかし、今まで87%の金メダルを獲得してきた中国が本当に落胆するのだろうか。彼らは男女シングルスと男女団体での金メダル獲得を信じているだろう。混合ダブルスの敗北で重圧がわずかにかかるだろうが、中国の強さはその重圧で崩れるほどもろくはない。
いくら金メダルを独占できなかったとしても、今回の日本の優勝は中国にとって悪いことばかりではない。
実は、近年、中国国内での卓球人気に陰りが見えていた。国技と言われた卓球だが、あまりに強すぎる中国卓球はテレビでも視聴率が上がらず、試合をやっても動員以外では観客が集まらないのが常だった。
1980年代後半から2000年にかけて、世界の卓球界では男子のスウェーデンが全盛期を迎えていた。当時のテレビ放映では中国対スウェーデンの試合が人民の最大の興味となっていた。
ところが、2000年以降の20年間、中国の独走体勢となり、人民の興味も国技の卓球から、サッカーやバスケットボールに移っていった。
中国卓球が悩んでいたのは実は「強すぎる中国」だった。国技として強化すればするほど、自らの人気を落としていくというジレンマに陥っていた。
今回の敗北で人民が失望し、中国卓球協会の威信にわずかな傷がついたとしても、それはかれらにとって「喜ぶべき敗戦」だったかもしれない。図らずも負けたことで人民の興味と関心を卓球に引きつけることになったのだから。
中国が一番欲しているのは強力なライバル。正直、今の日本は真のライバルまで到達していないが、今回の混合ダブルスや伊藤美誠、張本智和という選手が彼らを脅かす存在になればなるほど、中国卓球は盛り上がるという現象が起こってくるのだ。
国技としての卓球の人気を前にして、「日本には負けられない」という意識と、「中国が負けるほどのライバルがほしい」という背反した思いが中国卓球協会の首脳部にはあるはずだ。
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