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今野の眼

協会幹部の失言。誰を選んでも批判される強化本部は、2月5日に何を語るのか

「強い日本チーム」を作るために強化本部は何を基準にするのか。世界ランキングを考慮しない選考方式と代表選考の矛盾 

1月28日の全日本選手権閉幕後、日本卓球協会の強化本部はパリ五輪の代表、世界選手権釜山大会の日本代表を選出するための会議を行った。

ところがそれに先立ち1月27日深夜の日本テレビの『Going! Sports&News』というスポーツ・ニュース番組で、日本卓球協会の宮﨑義仁専務理事のコメントが波紋を呼んでいる。番組の中で、パリ五輪についての話題を振られ、「早田、平野とともに団体メンバーに入る3人目は誰が有力なのか?」というナレーションに続けて、宮崎氏が「誰を選んだら中国に勝てるのか」と前置きしながら、張本美和選手の名前をあげたのだ。

その後の通信社の取材で、「他の選手の名前もあげたが、編集された」という趣旨の発言をしているが、もし恣意的に編集したとすればテレビ局側の問題になるだろう。ただ、専務理事が代表を決める立場になくても、協会の実務の最高責任者が、選手の人生が懸かっている大事なことを選考会議の前にテレビで発言すること自体、軽率だった。

現在、パリ五輪選考ポイントの順位により、男子の張本智和(智和企画)、戸上隼輔(明治大学)、女子の早田ひな(日本生命)、平野美宇(木下グループ)の4人が五輪代表の内定を確定させ、3人目の候補として男子が篠塚大登(愛知工業大学)と松島輝空(木下アカデミー)、女子は伊藤美誠(スターツ)と張本美和(木下アカデミー)の名前が挙がり、すでに理事会の承認を受け、2月5日の記者発表を待つだけの状態だ。

篠塚と松島は全日本選手権で直接対決をして、篠塚が競り勝った。しかし、全日本はパリ五輪の選考ポイントの対象であっても、「選考試合」ではないので、直接対決がどれだけの意味を持つのかは不明だ。

また現時点で、世界ランキングは篠塚が78位で、松島は33位(日本人3番手)で松島のほうがかなり高い。五輪代表3番手の世界ランキングはチームランキングとチームのシード権にも直結する。

過去1年間での国際大会でも松島は張本智和(世界ランキング9位)、アルナ(同13位・ナイジェリア)、オフチャロフ(世界ランキング14位・ドイツ)、フレイタス(同19位・ポルトガル)、戸上隼輔(同23位)、李尚洙(同27位・韓国)という格上選手に勝っている。

一方、篠塚はフランチスカ(同26位・ドイツ)、A.ルブラン(同22位・フランス)に勝っている。対外成績と世界ランキングでは松島が篠塚を上回っている。強化本部として、世界ランキングと対外成績、そしてチームランキングといういわゆる国際競争力を重視するのか、パリ五輪選考ポイントで3位につけるなど、国内で安定した力を発揮している篠塚を選ぶのか、注目される。

 

男子シングルス6回戦では、五輪3番手候補の篠塚と松島(向こう側)が「直接対決」。篠塚が競り勝った

 

男女のジュニアで優勝した際の、松島輝空と張本美和

 

女子の3番手を巡る争いと、国内重視の選考会で失ったものを考えてほしい

女子の3番手候補は伊藤美誠か張本美和だが、全日本選手権では伊藤が敗戦後の会見で涙を流しながら、微妙な発言をしている。

「ずっと(五輪の)シングルス優勝を目指していたし、(団体戦に)選出されても出るかどうかはハッキリ決まっていない」「私は昔からの目標として、卓球は『良いところで終わる』というのが一番なんです。『これで終われない』という気持ちもすごくあるけれど、『終わりたい』という気持ちもあります。でも良いところで終わりたいから、もうちょっと欲張って、もう少し頑張ります」。

世界ランキングでは伊藤が10位、張本が16位で、対外的にも二人の間に大差はない。ただ張本が中国選手に善戦している印象はある(そのせいで協会幹部が張本の名前をあげたのかもしれない)。しかし、伊藤には五輪で合計4個のメダルを獲得している大きな経験がある。一方、張本のこの半年間での急成長は目を見張るばかりで、この成長曲線はパリ五輪までの半年間でも上昇していくだろうという期待もある。判断は非常に難しい。

25日に発表される会見の中でも協会は「世界ランキングによる」という言葉は使えないだろう。なぜなら強化本部は世界ランキングを無視する形で、パリ五輪の選考方法と選考基準を決めたのだから。

もしも3人目の代表が張本になった場合、すでに世界選手権釜山大会(2月16日〜)の代表になっている伊藤の「もうちょっと欲張って、もう少し頑張ります」というコメントは何を意味するのだろうか。 

10年近く、日本代表として世界選手権や五輪で活躍した伊藤美誠は、小さい頃から卓球に打ち込み、日本を牽引してきた。2016年のリオ五輪での活躍はもちろんだが、何より2021年の東京五輪で水谷隼とともに混合ダブルスで金メダルを引き寄せ、日本に卓球ブームを巻き起こした貢献者である。

全日本選手権最終日に日本代表の渡辺武弘監督は記者に囲まれ、「(3人目の代表は)強化本部で会議を重ねながら決定する。悩ましい」「今日はオリンピックの話は控えさせてください」と慎重な発言をしている。当然だろう。

また、2年間の選考レースを振り返ってどうだったのかという質問に対して、「当初、過密スケジュールで選手も大変だったと思うけれども、終わってみれば選手が歯を食いしばって、選考会も頑張る、国際大会も頑張る、全日本も頑張ると、(選考会を)振り返って良かったと思う選手もいるのかなと思っている。この選考会が間違っていなかったとオリンピックの結果でみなさんに納得してもらえるように頑張りたいと思っています」とコメントを残した。

本当にこの選考会が間違っていなかったと選手は思っているのだろうか。世界の中で日本卓球協会だけが貫いた五輪選考方式。得たものもあるかもしれないが、それよりも失ったものが大きいことを現場の人たちは気づいているはずだ。

そして、25日に強化本部長、男女両監督は何を語るのだろうか。

 

日本卓球界に大きな貢献をしている伊藤美誠。会見では苦しい胸の内を語った

 

 

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