卓球王国 2021年7月20日 発売 vol.292
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水谷隼「ぼくを脅かすやつが出てきてくれたほうがうれしい。こいつに勝ちたいという新たなモチベーションになるから」

<卓球王国2016年4月号より>

[チャンピオンインタビュー]

水谷隼

2016年1月の全日本選手権大会で8度目の優勝を飾った水谷隼

 

「ぼくを脅かすやつが出てきてくれたほうがうれしい。

こいつに勝ちたいという新たなモチベーションになるから」

 

 

終わってみれば今年も「水谷劇場」だった。

2ゲーム以上失った試合はない。

(2016年1月の全日本選手権)最終日前日の会見で

「明日は世界6位の試合を見せますよ」と豪語した。

準決勝、決勝は完勝と言える内容だった。

齋藤清、小山ちれに並ぶ史上最多タイ8度目の優勝。

「負けると思っていた」「怖いんですよ」

圧倒的な強さを誇る王者が本誌だけに漏らす本音。

強さと本音のギャップはどこにあるのか。水谷隼はなぜ強いのか。

 

聞き手=今野昇

写真=江藤義典&奈良武  

 

 

今回は本当に

やばいと思いました。

内心、不安でした

 

1年前(2015年)に苦戦した笠原弘光(協和発酵キリン)を準決勝で完封し、決勝では張一博(東京アート)の心理を完全に読み切り、完勝。優勝を決めた直後に床に倒れ込み、喜びを表現した水谷隼。その時点で、彼の本心と周りの見る眼とのギャップがまずあった。

優勝して当たり前と思われているチャンピオンは、何かの重みに耐えていたのか、それともあれは喜びのパフォーマンスだったのか。

優勝した時には彼と必ず行く新宿の高層ビルの19階のカフェ。優勝を決めた2日後にインタビューを行った。

◇◇◇

●――優勝おめでとうございます。10年連続決勝進出で、8度目の優勝達成です。

水谷 8回という数字は初優勝した時から意識してました。

 

●――プレッシャーはあったのかな。

水谷 ありますよ、もちろん。今回が一番難しいと思ってました。

 

●――毎回そういうことを言っているような気がするね。

水谷 そういう気分、素直な気持ちがそこなんですよ。今回は本当にやばいと思いました。内心、不安でした。ひとつは用具。最終的に試合で使うラバーの硬さが決まっていなかった。年末年始はタマスも休みだから、大会前に調整するラバーがなかったんです。『テナジー80』を貼ってますけど、その中での硬さが決まっていなかった。ずっと硬めのやつでやっていたけど、硬すぎてしっくりいってなくて、軟らかいものにしたかった。でも手元に軟らかいのは1枚しかなくて、ずっとそれを使っていたけど、それも軟らかすぎて、本当はその中間のものが良かったんですよね。

1月7日にタマスの工場に行って、ラバーを硬めのやつと軟らかめのやつを選んで、ロシアリーグでラケットが破損したので、その修理をお願いしました。

それに1月4日の練習で腰を傷めたんです。腰が痛くて、9日の午後から12日午後まで練習ができなかった。

ラバーは12日の午後には軟らかいものを使っていたけど、13日夜に硬めのものに替えた。そのラバー1枚で14日からの大会を乗り切ろうとした。本当はある程度、使いこなしたものがいいけど、15日の試合が終わった時点で表面が擦れていた。それでも、このラバーで残りの2日間を乗り切ろうとしたけど、無理でした。16日の時にはラバーが消耗しすぎてこれではだめだと思った。過去の全日本で最終日にラバーを替えたことは1回もなかったのに、今回は替えた。

 

●――腰のほうはどうだったんだろう。

水谷 痛みはずっとありました。最後のほうは痛み止めの薬を飲んでました。やっぱり年取ってくるんですよ。いろんなところが痛くなる(笑)。

 

●――大会前には組み合わせを見て、いろいろ考えるのかな? 正直誰が来ると思っていたんだろう。

水谷 もちろん考えますよ。こいつと当たりたくないから負けてほしいなと思いますから。反対側は、案外、森薗(政崇・明治大)が来るかなと思ってました。それに来ないかもしれないけど、丹羽(孝希・明治大)がダークホースかなと。反対側は誰が来てもあまり変わらないけど、自分のブロックで嫌だったのは𠮷田(雅己・愛知工業大)と大島(祐哉・早稲田大)ですね。今の自分だと厳しいかなと思ってました。その二人が負けてくれたので、これは優勝できるかなと思いました。

 

●――大会全体を振り返ると、どうですか?

水谷 15日(金曜日)が試合が多くてしんどかった。ダブルスとシングルスが交互にあったから身体がメチャクチャきつかった。点数を見れば、ほとんど4ー0か4ー1ですけど、感覚としては相当しんどいし、自分のプレーの出来は悪かった。決勝(張戦)はまあまあ良かったけど、それ以外は何でこれで勝てるんだろうという試合ばかりだった。ゲームの中で8ー4とかでリードしていても、そこから10ー10になって、負けそうになったゲームが4回か5回あった。

準々決勝の酒井(明日翔・明治大)との試合でも1ゲーム目、8ー2から10ー11になったりとか、次のゲームも8ー4からジュースになっている。準決勝の笠原の時にも10ー7からジュースになったりする。自信がなかったですね。

 

●――準決勝で笠原選手と対戦。1年前、1ー3とゲームをリードされ、追い込まれた相手との対戦だった。

水谷 去年は笠原がどうこうじゃなくて、ボールが合わないとぼくも相当言った。今回は彼もタマスのボールを選んだから、これは負けられない。去年は競った理由がボールだったけど、自分は正しいことを言ったんだということを証明したかった。

 

●――今回はチキータを多用して、彼も戸惑っていたし、自分がサービスの時には相手にチキータをさせない縦回転系のサービスも効いていた。

水谷 彼はサービスがうまいので、フォアハンドでレシーブをしていくと甘いところに飛んでいって攻められてしまうと思ったので、打たれてもいいからチキータで行こうと思った。それで1ゲーム目にそれを使ったら案外効いた。自分がやりたいチキータでなくても、入れていくチキータでも効いていたので、徹底してやっていこうと思いました。

 

●――笠原選手は試合後に、水谷選手のチキータが他の選手と違って返しにくかったとコメントしてました。

水谷 2ゲーム目からは意識していろいろな種類のチキータを出しました。他の選手なら狙われるようなチキータでも彼は嫌がっていたので、チキータするようなボールでないのに無理矢理チキータしたりとか、ミスしてもいいから見せ球のようなチキータをして、徹底的に相手の嫌がることをしました。あのチキータに対応されたら苦しかったかもしれないですね。

●――笠原戦が終わって、ひとつヤマを越えた感じはあったでしょ。

水谷 思ったよりは簡単にいきすぎた。もっと競ってもおかしくなかった。