卓球王国 2021年6月21日 発売 vol.291
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水谷隼「ジュン、その言葉のすべて」 2007年全日本初優勝。全インタビューvol.1

前人未到の全日本選手権10度の優勝を誇る、五輪メダリストの水谷隼の軌跡を、彼のインタビューを通して振り返ってみる。

卓球王国は今まで20数回、彼のインタビューを行ってきたが、その時の空気感を伝えるために当時の原文をそのまま掲載する。

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卓球王国2007年4月号より<2007年1月全日本選手権史上最年少の初優勝>

水谷隼《青森山田高校2年》

 

高校2年生、17歳7カ月での快挙。

全日本選手権で衝撃的な優勝を果たし、

天皇杯を手にした水谷隼。

ドイツ仕込みの類まれなテクニック、

大舞台での強さは、この選手が

特別なアスリートであることを証明した。

あふれる才能におぼれることなく、

見事に開花させた2007年1月21日。

この大記録さえ、

水谷隼にとってはひとつの

通過点かもしれない。

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インタビュー=今野昇    

写真=高橋和幸・渡辺塁・今野昇

 

 

 

「センターコート、1台のところで試合ができてワクワクしてました。

喜びと楽しみだけでした」

 

なんか卓球がすごく好きになってきた。

好きなことをやっているだけなんです。

卓球が楽しくて楽しくて……。

 

水谷隼という選手を語る時にひとつのシーンが浮かび上がる。

2005年12月17日、オーストリアのリンツで行われた世界ジュニア選手権大会の男子シングルス決勝。リードを奪いながらもドイツのバウムに逆転負けを喫し、2位に終わった。タイトルが目の前にあっただけに彼のショックは大きかった。試合後、彼は床にへたり込み、動こうとしなかった。涙を見せまいと、誰が声をかけ、背中を叩いても振り向こうとしなかった。表彰式が始まろうとするのに、彼は床を見つめていた。たぶん彼が経験した中でも比べようもない屈辱と悔恨だった。彼はこの敗戦から大きなものを得たのだろう。

1年前の敗戦の意味が、今回の全日本優勝の裏側に刻まれてはいないだろうか。稀代の才能を持った卓球少年にとって、最大の勉強は負けるという苦い経験だったのかもしれない。

その後、足の疲労骨折、世界選手権ブレーメン大会での敗戦、インターハイの敗戦と、大会での苦い勉強の日々は続く。世界ランクも思うように上がらなかった。そんな中で彼の自信を回復させたのはドイツのプロリーグ『ブンデスリーガ』での勝利だ。1部の名門チーム『デュッセルドルフ』の3番手で12勝2敗と大活躍。そして全日本選手権という国内最大の舞台に上がるため、12月に青森へ戻った。

 

●——大会前の調子は?

水谷 今回はいつもより早く日本に帰ってこれて、大会まで1カ月あったのでいい感じで調整できました。年末の(世界選手権)選考会に出たあとに実家に帰って正月をそこで過ごして体を休めました。選考会では社会人の人たちと全力でプレーして、やっているうちに自分がどこでミスしているのかわかってきて、全日本(選手権)ではそのミスしたところを狙ってくるだろうというのがわかったので、対策を立てやすかった。正月が明けて、いつもと同じような練習ですけど、少し練習(量)を落としました。

 

●——全日本の一般に出るのは何回目だろう。

水谷 5回目です。今年は卓球に対する考え方も変わってきていた。「今年は(自分は)違うよ」といろんな人に言っていた。板垣先生(孝司・青森山田高男子卓球部監督)も「今年の隼は違う。本気で優勝を狙っているみたいだ」といろんな人に言っていたみたいです。

 

●——そう言ったのは自分を追い込むためだろうか。

水谷 というよりも、ブンデスリーガ(ドイツ)でもすごく勝っていて、アジア競技大会でも香港の選手に勝てて、卓球がすごく好きになっていて、午後、練習休みとなっても、自分で自主練習をやるようになっていた。

 

●——なんでそんなに変わってきたんだろう。

水谷 なんか卓球がすごく好きになってきた。好きなことをやっているだけなんです。今までもそうだったけど、練習相手をしていても、ボールを打っているだけで、卓球が楽しくて楽しくて……。今までは試合は楽しいと思っていたけど、練習はきついと思っていた。でも今は練習できついことさえも楽しい。

ブンデスリーガでやっていて、たくさん観客がいる前で試合をして、そこでまたいろんなことを教わっているのも楽しい。ただ、日頃のドイツでの生活はストレスがたまります。毎日同じことをしていて、なんでこんなことを自分はしているんだろうというストレスですね。食べ物とか言葉とか、自分の思ったことを言えないのもストレスです。高校時代は青春と言うけど、自分にとって卓球をやっていることが青春なんだと感じます。

 

●——今シーズンで、ドイツは4シーズン目だけれど、それでも食べ物とか言葉はストレス?

水谷 ストレスですね。前よりも楽になっているけど。前はチームメイトとも交流できなかったし、マリオ(・アミズィッチ)とも1、2年目はギクシャクしていたけど、今はいろんな人とも交流できるようになった。