卓球王国 2024年9月20日 発売
バックナンバー 定期購読のお申し込み
アーカイブ

水谷隼「いつもやっている自分と思ってもダメなんです。普段と違う戦いになるのが オリンピックです」

<卓球王国2016年8月号  「隼!リオ五輪を思い出せ>

獲るぞ! リオ五輪

五輪代表インタビュー

リオに選ばれし者たち

水谷隼

 

 

4年前(2012年)の苦い記憶が水谷隼の心の中から消えていない。

当時、世界ランキング5位でシード権を得ていた水谷は

メダルを期待されたシングルスで敗れ、団体でもメダルを逃した。

あれから4年経った。

自己改革を進めた水谷は、メンタルも技術も、

すべてに強くなってリオの舞台に立つ。期待していいだろう。

その期待は逆風ではなく、追い風として彼の背中を押すはずだ。

 

 

 

いつもやっている相手と

思ったらダメだし、

いつもやっている自分と

思ってもダメなんです

普段と違う戦いになるのが

オリンピックです

 

2012年ロンドン五輪で水谷隼は「いつもの水谷」ではなかったと言う。

自分自身も周りもメダルを期待していただけに、過度なプレッシャーが「いつもの水谷」を狂わせていたのかもしれない。少しでも思うようにいかないと、その原因を自分の中に見つけるのではなく、自分以外のものに言い訳を探していた。シングルスでの完敗。そして全勝したものの団体でもメダルを逃し、勝利への歯車はかみ合わなかった。

全日本チャンピオンとして絶対的な強さを見せつける「水谷隼」は、豪放な性格ではない。繊細で折れやすい性格でありながら、強烈に負けることを嫌う男なのだ。時にそのナイーブさが彼を狂わすことがある。

ロンドンでの屈辱の傷が癒えない中で、彼はロシアリーグに挑み、闘争本能を自ら掻き立てた。それはコートで対峙する相手との闘いではなく、弱い自分との闘いだった。

◇◇◇

●――いよいよオリンピックが近づいてきました。

水谷 オリンピックが選手にとって特別な舞台であることは間違いない。今まで何百試合しているけれども、北京とロンドンでプレーした何試合かはとても記憶に残っています。プレーしていても普段と違うのはものすごく感じました。だからこそ、そこで勝つのは難しい。普段どおりのプレーもなかなかできないのに、その特別な舞台で勝つのはものすごく難しいことだとロンドンが終わってから感じました。

北京は初出場で、アジア予選を通過することも難しくて、通過できたけど、当時は世界ランキングも10位台の後半か、20位台くらいだったので、正直メダルはピンと来てなかった。出場できた喜びとオリンピックってどういうものだろうというワクワク感がありました。実際に北京ではあまり緊張しなかった。普段の試合と変わらずにできました。

ところが、ロンドンの時は周りからの期待も大きくて、それがプレッシャーにもなっていたし、世界ランキングも5位なのでメダルが現実味を帯びていた。

結局シングルスはメイス(デンマーク)に負けた。そのメイスには2カ月前のジャパンオープンで4ー0で勝っていたので余計悔しかった。オリンピックで緊張して良いプレーができなかったし、相手もオリンピックに懸ける思いが強くて、いつもやっている相手と思ったらダメだし、いつもやっている自分と思ってもダメなんです。

 

●――普段の水谷隼でないし、普段のメイスでもなかった。自分の中でのギャップがあったのかな。

水谷 普段と違う戦いになるのがオリンピックです。プレッシャーは大きいですね。4年に1回のビッグゲームだし、周りからの期待も背負って戦わなければいけない。自分の立場としても、ただ頑張って一生懸命やるだけでは周りも満足しない。メダルを期待されている分、勝たなきゃいけない。世界選手権でメダルを獲るよりも、オリンピックでメダルを獲るのはとても難しい中、結果を求められるので、余計にそれがプレッシャーになってしまった。本来は、それさえも力に変えていかなければいけない。

 

●――戦い終わった時に、シングルスでも団体でも後悔が残った。これからまた4年という時間の感覚。この4年という絶妙な時間がそこにありますね。

水谷 終わってみればあっという間ですね。だって、オリンピックが終わって3年後には代表が決まってますから。つまり2年経てば、翌年の世界ランキングで出場選手が決まるので、2年後にはオリンピックの戦いが始まるわけであっという間にオリンピックを意識するようになります。

 

●――君のように、百戦錬磨の選手でも、世界選手権でもなく、全日本選手権でもなく、オリンピックで緊張する。4年という時間以外の特別なものは何だろう。その特別なものが時に君自身の何かを狂わせてしまう。

水谷 ロンドンの団体戦はそこまでではなかった。全勝でしたから。ただ過剰に神経質になっていたと思います。あの時は、卓球台にも慣れていないとか、ボールが軟らかいとか、ラバーのこととか、すべてに神経質になってしまった。絶対負けたくない戦いなので、どこかに言い訳を探してしまう。ロンドンの時は試合しながら、思うようにいかないと補助剤のこととかを考えてしまった。

普段からツアーで回っていれば、環境や用具のことで思うようにいかないことは多いんですよ。でも、「まあしょうがないか」と割り切れるんだけど、オリンピックは4年に1回の大会で、自分に合わない卓球台で、何でフェアな状況じゃないんだとロンドンの時にはすごく思ってしまった。

 

●――今回リオでも何か言い訳を用意するのかな。

水谷 卓球台は三英なので自分のホームだと思っていますよ。トレセン(味の素ナショナルトレーニングセンター)にオリンピックの台がある。ぼくはまだ打っていないけど、これから準備はできます。自分が良いプレーができないのは卓球台の問題か、照明の問題がある。その卓球台の問題はないから、あとは照明です。もし照明も問題なければ、間違いなく良いプレーはできる。むしろそこが良ければぼくは崩れない。台と照明の部分でナーバスになり、もうダメだなと思うことが多いから、そこが大丈夫なら問題ない。

関連する記事