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今野の眼

卓球の「ワビサビ」はどこへ行ったのか。それは初中級者の卓球にこそ残っているのかも<後編>

イレギュラーしないプラボールと、

ラバーの高性能化によって

ショートスイングで水平方向に

振り出すことが可能になった

 

最近の卓球の傾向(高速化とカウンター攻撃の多さ)には2つの理由を感じる。

プラスチックボールはイレギュラーしないために、トップ選手は相手のボールの回転量や軌道を察知した瞬間に、少しでも早めにスイングを始動させ、ブロックではなく、カウンターで返すことを心がけている。「ブロックしていては攻め切られる、少しでも回転をかけ返すカウンターブロック、もしくはカウンター攻撃」がトップ選手の共通認識になった。

ボールのスピードに間に合わなくてしのぐことはあっても、ボールの軌道を見極められなくてブロックする、フィッシュをする、ロビングをするという場面が極端に減っているのだ。

水谷隼さんはさらにボールのことに触れてくれた。「ボールが硬くなったので全力で振っても球が潰れないのと、ボールの質がよくなってバウンドの変化が少ないので打ちやすくなったと思います。あとは球離れが早いので打ってからすぐにボールが自分のコートに戻ってきます」(水谷)。

 

馬龍は止めるだけのブロックはほとんどせずに、カウンターで攻め返すプレーになっている

 

もう一つの理由は用具の進化ではないか。

それはラバーの進化だ。2008年の「テナジー」がスピードグルー禁止以降のスピンテンションラバー。ボールが強いラバーとの引きつれ効果によって上方向に跳ね返り、打球は弧を描き、この頃から「弧線」という言葉が盛んに使われるようになった。ボールが上に跳ね上がっていくということは、ラケットを水平方向に振ってもボールはネットミスをしない。

さらに2019年の「ディグニクス」(バタフライ)の登場によって、さらにボールは上方向へ飛び、弧線も強くなったが、トップ選手たちは弧線に頼ることなく、「ボールが落ちない」ために、より水平方向へ振り出すことになった。

技術的には2011年の世界選手権ロッテルダム大会で張継科(中国)がチキータを多用して優勝。しかし、これは本来の横回転系のチキータというよりも下回転、横下回転サービスに対する台上のバックドライブだった(のちにチキータそのものが台上バックドライブの呼称にもなっていく)。翌年の12年ロンドン五輪で張継科が優勝すると男子の卓球のトレンドは完全にチキータが軸になっていく。

この張継科のプレーがロールモデルとなり、チキータ(台上ドライブ)は男女ともに使う必須技術となり、そのチキータをカウンタードライブで狙うことが日常的なプレーになっていき、卓球の高速化に拍車をかけることになる。

 

すでに10年以上前の技術改革だが、近年の世界卓球の分岐点とも言えるだろう。張継科の卓球スタイルが中国卓球の起点になり、それが世界に伝播していった。

用具でも、粘着ラバーに違法ブースターを塗る後加工(あとかこう)を経て、「ディグニクス」のように水平に振れる用具や、「ディグニクス09C」のような粘着テンションも出現し、ドイツラバーもそれに匹敵するラバーを開発して、中国ラバーでなくても中国選手が使っている技術を同様にできるようになってきている。

またラバーの高性能化は大きなスイングでボールを打たなくても、ショートスイングで同様のパワーボールを生み出すことにもなり、前中陣でのスピードドライブの応酬を可能にしている。

 

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