卓球王国 2024年12月20日 発売
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今野の眼

卓球の「ワビサビ」はどこへ行ったのか。それは初中級者の卓球にこそ残っているのかも<後編>

 

単純化、高速化の卓球が見ていて

楽しいとは限らない。

卓球の面白さは町の大会に

あるのかもしれない

 

以上が2つの理由(前編と後編)だ。予測できるボールの軌道と水平方向へのスイングによって、ドライブの応酬は打球点を落としてのゆったりしたものから前中陣での速いカウンターの応酬へと変わり、多少打球点を落としてもそこから猛烈なスイングスピードで相手コートを抜き去るような威力あるボールが放たれるのだ。

2021年の東京五輪前後から、もしくは五輪後からこのラリーの傾向は強くなっている。

 

しかし、卓球スタイルの進化が卓球というスポーツを見るうえで楽しくエキサイティングなものであるかどうかは別だろう。

まず卓球スタイルが画一化されてきていて、昔の百花斉放のような卓球独自の多様性が減っている。

ノスタルジアに浸るわけでもなく、かつてはカットマン、ブロック主戦、ロビングを上げまくる人、ペンホルダーの速攻、オールフォアで動き回る人もいるかと思えば、バックハンド主戦のような人も世界のトップ50くらいにはたくさんいたものだ。

誰でも情報が手に入り、共通化された卓球の知識をもとに世界で勝つためにエベレストの登り方は、以前は無限のルートがあったのだが、今は数通りのルートに絞られているのかもしれない。

しかし、卓球のプレースタイルの多様性、もしくは個性というものは実は町のビギナー、中級者の大会で見ることができるのかもしれない。アスリートとして極めたフィジカル(身体能力)を持たない彼らは異質な用具の特徴を最大化し、巧妙なプレースタイルで試合を行うからだ。

ある事象の中で先鋭化され、強大化していくグループがいるとすれば、そのアンチグループや技術、スタイルが生まれてもおかしくない。「速い卓球」主流の時代に、あえて「ゆるい卓球」の技術を入れたらどうなるのだろう。

 

樊振東戦で見せたモーレゴードが、カットブロック、ナックルドライブ、ストップレシーブ(チキータではなく)、またはドライブではなく、バックのカウンター強打(スマッシュ)というような、他の選手が使わないテクニックをあえて取り入れていることにも今後注目したい。

一方、今の卓球には「ワビサビ」(侘び寂び)がないという人もいる。時に強烈な打ち合いもあるのだが、全体としてはラリー回数も少なく、戦術、技術のバリエーションが少なく、単純化されているからだ。

だからこそ、そういう中で光を放っているのはモーレゴードであり、チウ・ダン(ドイツ)、F.ルブラン(フランス)という異質な臭いを強烈に放つ選手たちなのだ。

心の中で彼らのプレーに拍手を送っている自分がいる。

水谷隼さん、あなたの指摘は正しいことをシンガポールスマッシュを見ながら感じています。同時に、あなたの卓球には深遠なる卓球の奥深さや、巧妙な駆け引きや「ワビサビ」がありました。それをこのシンガポールの地で思い出しています。

 

モーレゴードはカットブロックや弾き打つバックミートなど独創的なプレーを作り上げている

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