卓球王国 2021年9月21日 発売 vol.294
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パリ五輪に向かう卓球NT監督に、男子は田㔟邦史、女子は渡辺武弘が就任

倉嶋、馬場両監督は勇退。卓球ナショナルチーム新体制がスタート

9月11日に日本卓球協会の理事会が開かれ、9月末に任期が切れる男子ナショナルチーム(NT)監督の倉嶋洋介氏(男子)、馬場美香氏(女子)に代わって、男子監督に田勢邦史氏(たせいくにひと・日本卓球協会)、女子監督に渡辺武弘氏(中部大学教授)が10月1日から就任することが承認された。

田勢氏は、山形県長井市出身。青森山田高でインターハイ団体3連覇の中心メンバーとなり、青森大卒業後に協和発酵キリン(現協和キリン)に入社。その後、全日本選手権では男子ダブルスで2回、混合ダブルスで2回優勝し、2009年世界選手権の日本代表となり、2013年4月にプロコーチとして男子NTのコーチに就任した。JNT(ジュニアナショナルチーム)の男子監督を務めながら、NTのコーチも務めており、東京五輪の混合ダブルスではベンチコーチに入っていた。1981年9月20日生まれ、39歳。

渡辺氏は、福岡県出身。熊谷商高時代にインターハイ三冠王、その後、明治大学を経て協和発酵に入社し、1983年世界選手権に初出場し、1988・1992年五輪に日本代表で出場。1991年度の全日本チャンピオン。2016年に馬場氏が監督に就任すると同時に、女子のヘッドコーチに就いた。現在、中部大学人間力創成総合教育センター教授。1961年12月16日生まれ、59歳。

二人の新監督に共通しているのは人柄の良さと、高校の時から闘将・吉田安夫監督(故人)のもとで鍛え抜かれた選手だったことだ。

 

男子新監督の田勢邦史氏(現NTコーチ)

 

女子新監督の渡辺武弘氏(現女子ヘッドコーチ)

 

 

「吉田学校」で鍛えられ、人柄の良さも共通する田㔟、渡辺新監督。

2019年7月に亡くなった吉田安夫氏は熊谷商高、埼工大深谷高(現・正智深谷高)、青森山田高で卓球部監督を歴任。これらの「吉田学校」からは数多くのチャンピオンが輩出され、この10年間ほどの日本代表のほとんどが吉田学校の卒業生。東京五輪の日本男子チームでも、水谷隼と丹羽孝希、倉嶋洋介・前男子NT監督は吉田氏の薫陶を受けた。常に選手たちの集中力を高め、競争心をあおる指導だった。
奇しくも今回、二人の男女監督は「吉田学校」も卒業生だ。

男子監督の田勢氏は前任の倉嶋氏とは協和発酵キリンでダブルスを組んだ間柄。倉嶋氏は2010年3月に会社を辞め、4月からナショナルチームのコーチとなった。倉嶋氏は、現役選手が引退し、そのままNTのコーチに就いた初めてのケースだった。
その3年後に田勢氏も同様に会社を辞め、NTに入っている。その時にすでに倉嶋氏は男子監督に就任していた。ある意味、田勢氏にとってのロールモデルが倉嶋氏だった。

倉嶋氏がそうだったように、ジュニアを担当した田勢氏は年間200日以上の合宿や遠征を繰り返し、指導者としての経験を積んできた。
東京五輪では混合ダブルスのベンチに入り、水谷隼、伊藤美誠にアドバイスを送り、あきらめそうになった時には檄を飛ばし、水谷・伊藤ペアを金メダルに導いた。
卓球の男子NTでは水谷が離れると張本智和(木下グループ)を中心に、世代交代する可能性もある。若いチームをどうまとめていくのか、その手腕に期待が集まる。NT監督としては9月28日からのアジア選手権(ドーハ)が初陣となる。

一方、渡辺武弘氏は現役時代は、明治大の後輩の斎藤清と組んで、1982年度から全日本選手権の男子ダブルスで4連覇を達成し、シングルスでは1991年度のチャンピオンとなった。現役引退後は協和発酵卓球部の監督を務めた経験を持つが、その後、監督を退いてから協和発酵とアサヒビールの営業畑を歩き、2011年から中部大学の教員となった。
現役時代から温厚な人柄で、選手時代には一時期「人に優しい性格ではチャンピオンになれないのか」と悩んだ時期もあった。
馬場氏が女子監督に就任すると、監督直々にヘッドコーチを要請され、ストレスの多い監督の「聞き役」になっていた。

日本の女子が男子と違うのは、トップ選手はそれぞれのチームを持っているということだ。伊藤美誠がスターツ、石川佳純が全農、平野美宇と早田ひなは日本生命という所属スポンサーが付きながら、それぞれが個人のチームを作り、専任の技術・戦術コーチ、フィジカルコーチ、マネージャー(スケジュール管理、取材対応)がつき、遠征でも帯同することが多い。

中国であれば、国家チームとして選手同士が練習したり、共通のマッサー、共通の監督とコーチがいる程度だが、日本女子はそれぞれがチームで行動する。遠征先で日本代表選手同士が練習するのは実はまれなことだ。
そういうトップ選手がそれぞれ自立して、各自の環境を持っているために、監督というのは団体戦でのベンチを除けば、ある種の調整役でもある。チームを持たない選手にとっては監督であっても、トップ選手に対しては彼女たちの要望と日本チーム(もしくは協会)の間で折り合いをつけ、選手の力を発揮させる役目とも言える。
今後、渡辺氏の人柄で、個性の強いチームをまとめていくことになるだろう。

東京五輪で史上初の4個のメダルを獲得した卓球ニッポンは、新体制でパリ五輪に向かう。

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宮崎義仁強化本部長のコメント

「監督推薦プロジェクト会議で、男女10名ずつの候補者があがった。公認コーチの有資格者、年間240日以上NTの仕事に従事できる人、監督の経験年数や経験を有する人などを基準として推薦順位がもっとも高く、倉嶋・馬場監督を継承できるうえ、人柄や選手への対応の仕方も含めてこの二人は大変素晴らしい評価であり、文句なしの推薦となった」

 

男子新監督・田勢邦史氏のコメント

「緊張して、身が引き締まる思いです。倉嶋監督のやってきたことを継承していきたい。
最大の目標は打倒中国、オリンピックでの金メダル獲得です。パリ五輪が迫っているので、そこでしっかり男子の全種目でメダルを獲りたい。
チームの結束力、団結力をテーマにしたい。その中で競争力のあるチームを目指す。代表として選手たちが生き残っていくのは難しい。世界選手権の国内選考会でも誰が代表になるかわからない激戦だった。男子はNTCで合宿をやって強化をしていくし、選手とのコミュニケーションも継続してやっていきたい」

東京五輪の混合ダブルスで水谷・伊藤組のベンチに入った田勢氏

 

女子新監督・渡辺武弘氏のコメント

「今回の大役は光栄であり、馬場さんが良い流れを作ったチームを引き継いでいきたい。
パリでの金メダル、打倒中国が最大の目標です。女子は次世代にも良い選手が多いので、全体をレベルアップをさせたい。
たとえば伊藤、石川、平野はそれぞれチームを持っている。加えて企業チーム、大学生も母体がしっかり強化しているので、私は母体チームとたくさんコミュニケーションを取り合いながら強化していきます。誰もが代表を狙えるように、お互いが切磋琢磨できるチームにしていきたい」

2018年アジア競技大会でベンチに入った渡辺氏