中国の成都で戦った日本代表は、日本の卓球ファンのために世界ランキングにカウントされない今回の団体戦を必死に戦った。男子は王者中国を追い詰めて銅メダル、女子は決勝まで進み銀メダルを獲得した。中国に敗れたものの日本代表の戦いぶりは多くの人に感動を与えた。
一方、世界選手権成都大会で日本の男女が戦う10月7日から9日まで、Tリーグが5試合行われていた。
Tリーグが開催されるのは良しとしても、そこには世界選手権に出場した日本代表選手はもちろんいない。しかし、周知のようにパリ五輪日本代表の選考基準にはTリーグでの勝利ポイントも含まれている。
世界選手権日本代表はもちろんパリ五輪の代表の有力候補だが、Tリーグでプレーした選手の中にも五輪代表を狙う選手は多くいる。これはどう理解したらよいのだろうか。
成都大会の期間中のTリーグでの勝利は、選考ポイントにカウントされている。
選手には何ら罪はない。日の丸を胸に戦う選手もいる。Tリーグでのチーム優勝を目指して必死で戦っている選手もいる。
「日本のために頑張れ。メダルを期待しているぞ」と送り出す協会が、一方でTリーグの勝利ポイントを選考基準に加え、世界選手権期間中にTリーグの試合が開催されることをどう理解したらよいのだろうか。
日本卓球協会の強化本部が昨年打ち出した「パリ五輪代表の選考基準」にTリーグの勝利ポイントを加えるのはやはり無理がある。選手への出場機会の公平性を打ち出し、世界ランキングではなく、国内選考会を重視して日本独自の選考基準を発表したものの、「世界選手権とTリーグの同時開催」は成都で戦う選手に対して失礼ではないだろうか。ましてやTリーグは通常の競技ルールとは違う試合だ。
国内選考会で決めるのは百歩譲って理解できるが、Tリーグでの勝利ポイントは「公平性」という観点からも整合性が取れない。今回の世界選手権もそうだが、この大会後にWTTの試合が2大会あるために、世界ランキングを上げるべく張本智和、伊藤美誠、早田ひな、木原美悠の主力が中国に残る。彼らは10月末までTリーグには参戦できない。
戸上隼輔や宇田幸矢のように、ドイツ・ブンデスリーガで腕を磨いて、日本代表になって頑張るぞという選手も、Tリーグには参戦できない。また、日本実業団リーグの一部の選手も、会社の方針でTリーグに参戦できない選手がいると聞く。「公平性」という観点では首を傾げるしかない。
パリ五輪を狙う日本のトップ選手がTリーグに参戦することで、日本の卓球界を活性化させようという意図はあったとしても、代表選手の選考基準で掲げた「公平性」はどこにあるのか。選考基準の中にTリーグを入れなくても、リーグそのものの魅力で観客や卓球ファンを引きつけるべきで、「日本代表の選考」と「Tリーグの活性化」は切り離してほしい。今回の世界選手権での日本代表の頑張りを見ながら、多くの人がその矛盾に気づいたはずだし、成都で戦った選手たちの胸中を察すると言葉を失う。
また、今後、WTTとTリーグの日程が重なる、もしくは日程が接近することになったら、本気で世界で戦おうとする選手はその過密日程に苦しむことになる。
今からでも遅くはない。Tリーグの勝利ポイントはパリ五輪の選考基準から外すことを切に願う。(今野)
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