卓球王国 2022年6月21日 発売 vol.303
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インタビュー

「成績でしか評価されないジレンマ」「何がしたいの? 『卓球だよ』って」異能の男・西東輝は卓球をとことん“考える”

 2020年1月の全日本選手権、その男は久しぶりに全国の舞台で脚光を浴びた。とは言っても、かつてのように選手としてではなく、コーチとして。この全日本で初のベスト4進出を果たした吉田雅己のベンチに入っていたのは西東輝。かつては遊学館高のエースとして、同年代の第一集団を走っていた。

 西東の現在の職場は石川県金沢市の老舗卓球専門店・清水スポーツ。5年前から清水スポーツに勤務する西東は、この4月に結婚式を挙げた。その席で清水スポーツの清水潔社長から西東への事業承継が発表された。近いうちに西東は清水スポーツを継ぎ、30歳で社長に就任することとなる。「歴史と伝統あるお店を継ぐということで、清水社長の築いてきたものを守りながら、新しいチャレンジもしていきたい」と西東は口にする。

 そして、西東の仕事は清水スポーツでの卓球用品の販売だけにとどまらない。清水スポーツの主催する卓球クラブ「エンデバー・メイト」で小・中学生を指導し、母校の北陸大のコーチも担当。動画を送ってもらい、それをベースにアドバイスをするオンラインレッスンも実施し、講習会の要請にも応える。また、昨年からは石川県の国体成年男子監督にも就任。様々な角度から卓球に触れ合う西東が考える「卓球」はどんなものだのだろうか。

(インタビュー・浅野敬純)

 

●吉田雅己へのアドバイスは「10個から20個提案して、1、2個取り入れてもらえれば」

---本日はよろしくお願いします。ご出身は北海道ですが、石川県での生活もだいぶ長いですよね?

 清水スポーツで働くようになって5年なので、高校、大学、社会人と合わせて人生の3分の1は石川ですね。

 

---変な言い方かもしれませんが、吉田(雅己)選手のベンチコーチで久しぶりに西東さんを見たり、思い出した人も全国には多いのかなと。

 日本、特に男子でプライベートコーチをつけているトップ選手はほとんどいないじゃないですか。雅己は従兄弟なんですけど、「爺ちゃん孝行するぞ」ってぼくからオファーしてスタートしました。それに対して雅己も「じゃあ、1年は(西東)輝にお願いするよ」っていう感じで。指導者として、コーチとしての能力を期待されてコーチに抜擢されたわけではありません(笑)

 

---プライベートコーチと言っても、普段からずっと付きっきりで練習を見ていたわけではありませんよね? 指導やコミュニケーションに関してはどうしていたんでしょうか。

 卓球の話だけじゃなくて、普段からやりとりはよくしているんですよ。多いときは週4回くらい、少なくても週1回は電話していますね。スピーカーで通話を流しっぱなしの状態にして、2、3時間は平気で話してます。コーチと選手というより、普通の従兄弟の会話っていう感じで、その中で卓球の話が出るような。

 戦術や技術に関しては、雅己のほうがはるかに優れているし、ぼくはアドバイスはほとんど言わない。ただ雅己が言っていることを僕が整理しているイメージです。「この考え方いいな」とか「こういうことで悩んでいる」とか「こうやって課題を解決した」とか、無意識でしている会話の中で気づいたことをぼくがメモしている感じです。8割は雅己が自分で考えて、自分で決めます。ただ、雅己が見つけていない残りの2割をぼくが見つけて付け足す感じで、10個か20個くらい提案して、1個か2個取り入れてくれたら良いかなくらいですね。でも、ぼくが「これだけは絶対にしたほうがいい」というアドバイスは絶対に聞いてくれます。だからこそ、その1個を絞り出すための準備を徹底的にやる。あと、トップ選手の指導って、実際はメンタルケアがほとんどだと感じています。

 

---メンタルケアがほとんど。

 雅己も一時期は崩れていましたね。最高で世界ランキング18位まで上がった時期もあったのに、そこからどんどん落ちていって、国内の選考会にすら出られない時期もあった。Tリーグの契約にしても、人生においても、本人は人生設計に真剣に考えているからこそ、気持ち的にもしんどそうで、身内として支えたい気持ちもありました。

 (2019年3月の)世界選手権の選考会で2位になった時くらいからですかね、雅己がぼくのことをコーチとして認めてくれたと実感したのは。基本的に雅己は「人が良すぎる」。思いやりがあって心を鬼にできない。気を遣いすぎて遠慮している部分があって、「自分なんか」というところがあります。「雅己はすごいよ」ということを言い続ける、自信を持ってもらうというメンタルケアは大切でした。そこから全日本で3位に入れて、翌年も3位になって、そこでひとつ大きな役目は果たせたかなって。もともと力はある選手でしたから。コーチとしての契約も「いつまでやる」っていうような話は一切なくて、自然の流れで始まったり終わったり。ぼくらの根本は「祖父母孝行」ですから。

 

●指導する中での「強化」と「普及」へのジレンマ

---全日本準決勝のベンチに入るって、簡単には経験できるもんじゃないですよね。

 もちろん、最高峰の舞台に立たせてもらったことへの感謝はありますが、そこに対して喜んでいるのは「孫2人で戦っている姿を見せられてよかった」くらいで、全日本準決勝がどうとかいう考えはあまりないです。個人的に、指導者が成績でしか評価されないことにはジレンマがあって。「インターハイに出場させたからスゴい」とか「トップ選手を指導しているからスゴい」っていう評価の基準だけじゃ、日本の卓球界にとって良くないと考えているんです。

 ぼくは老若男女、初心者からトップ選手まで卓球を教えているんですけど、これは自分の取り柄だと思っていて。パラやデフの選手も指導しているので、もっと広いかもしれないですね。強化だけじゃなくて、普及も同じくらい力を入れてやっています。

 成績でしか評価されないことへのジレンマはそこですよね。強化は成績で評価できるけど、普及は評価される基準がない。確かに強化は大事だけど、普及がなかったら卓球界の未来もないじゃないですか。普及を進めている素晴らしい指導者って、たくさんいると思うんですけど、そういう方々がしっかり評価されるようにならないといけない。

 ぼくにしたって、雅己の3位だったり、インターハイに出場した時(※函大有斗高コーチ時の2016年に同校5年ぶりの学校対抗出場)は評価してもらえるけど、普及についてはあまり目を向けてもらえませんから。エンデバー・メイトはひとりあたり週2回の練習で、がっつり強化っていうクラブではないけど、石川の卓球チームの中では一番登録者数が多いんですよ。だから、エンデバーでの指導は一番土台を支えていることにもなる。ぼくの中では雅己のコーチも、エンデバーの指導も、どっちも熱量は変わらないのに評価に差が出ることがジレンマですね。

 

---ああ、なるほど。確かにそこは評価のベースがない。

 それって、卓球で生活していけるかどうかっていう話でもあると思うんですよ。結局、強化でしか評価されないと、卓球で生活していくのは難しくなるわけで。だからどうしてもボランティアだったり、副業だったり、趣味として卓球に関わることしかできなくなる。指導者の話だけじゃなくて、卓球に関わる仕事って、もっといろんな評価のされ方があって良いと思っているんです。現状ではどうしてもボランティアだったり、少ない手当で「好きだから」っていう気持ちだけで卓球に関わっている人が多い。評価される方法があれば、もっと卓球で生活できる人が増えるはずなんです。

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