卓球王国 2024年11月21日 発売
バックナンバー 定期購読のお申し込み
トピックス

[伊藤条太]パリ五輪代表選考における公平性とは何か。再考を強く願う

現行の選考方法には問題がある。

世界ランキングを選考ポイントに組み入れて、

反映されるようにするべきである

世界ランキング8位、WTTでも成績を残している石川佳純だが、世界選手権には2大会連続で参戦できないことになりそうだ

 

世界ランキングのシステムが2021年から大きく変わっており、実力を正しく反映されないものになっているという見方もある。しかし、もしも日本のトップ数名程度の実力が正しく反映されるなら、それ以下の選手たちについてどうあろうとも、世界ランキングを基準にすることに変更した方がよい。選ぶのは2名だけだからだ。すでに選考レースが始まっている今から世界ランキングだけにするのが無理なら、せめて世界ランキングを選考ポイントに組み入れて、反映されるようにするべきである。

しかし、トップ数名程度についてさえも世界ランキングに妥当性がないのなら、それを使わずに選考をするのもやむを得ないだろう。その場合でも、現行の選考方法には問題があると考える。

まず、Tリーグを選考ポイントに入れるのは妥当とは思えない。「完璧な選考方法はない」とよく言われるが、Tリーグを入れることは賛否を呼ぶことさえないのではないか。1組織による興行を選考対象とするのは、それこそ公平ではないし、団体戦なので選手起用や対戦相手のレベルに左右されすぎる。同じチーム内に選考レースを争う2人がいる場合には、ライバルでもあるチームメイトの勝利を素直に喜べないし、2020東京五輪の選考レースの石川佳純と平野美宇のように、最後の最後までポイントを争うことにでもなったらチーム内に大変な軋轢が生じる。それはTリーグにとっても良いことではないはずだ。Tリーグは選考対象から外すべきである。

選考会にも問題がある。まず、32人もの選手を参加させることがおかしい。最強の2名を選ぶのに32名も候補が必要なわけがない。強化本部は、以前から選考会に多くの選手を参加させ、若手の育成を兼ねたりモチベーションの向上につなげようとする傾向があるが、そもそもそれは選考会でやるべきことではない。

ドイツなどの強豪に確実に勝ち、中国をも脅かすことを託す2人を選ぶのが目的なのだから、その可能性がない選手やそれを任せられない選手は参加させるべきではない。

参加選手が多いためにトーナメント戦になり、選考の精度が落ちるし、精度を上げるために回数をこなさなくてはならず選手の負担が増える。

興行の面では「負けたら終わり」のトーナメント戦は、見てわかりやすくスリル満点で面白い。実績のある選手でも調子によっては負けるかもしれないから話題性もある。五輪がかかっているから選手も命がけで戦う。興行としては素晴らしい企画である。しかし、それが最強の2人を選ぶという本来の目的の障害になってはならない。

選考会に若手の育成や興行という別の目的を兼ねることに無理があるのだ。

張本智和は、今年9月の世界選手権で日本選手として47年ぶりに中国から2勝を挙げた。11月のアジアカップでは日本選手として33年ぶりに優勝し、世界ランキングを自身最高の2位に上げた。中国メディアも張本を脅威と認め、今や日本卓球界の宝と言ってよい存在である。

その張本でさえも、一発決めのトーナメント戦では、必ず勝てるとは限らない。可能性は低いが、パリ五輪に出られないこともあり得るのだ。そうした“事故”が起こり得る選考方法が本当に公平と言えるのか。

日本は今、男女ともに中国をも脅かす位置にいる。日本中の卓球ファンが長年待ち望んだ中国越えがなるかもしれない状況にあるのだ。選手選考方法は、その行方を左右する重大な問題である。再考することを強く願う。(伊藤条太・卓球コラムニスト)

 

●伊藤条太参考コラム

【卓球】代表選考の歴史「選考リーグ1位で出られないならどうしたら出られるんですか?」

https://news.yahoo.co.jp/byline/itojota/20221119-00324442

 

関連する記事