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【卓球レディース】嗚呼!卓球母その2/卓球母とは球拾いから逃れられない永遠の中一

虫とり網片手にトンボではなくボールを追いかける卓球母

【エッセイ=西村友紀子】

 

ホカバを目指す卓球キッズの親御さんのことを、私は卓球母(卓球父)と呼んでいます。卓球母は一般のママとは似て非なる感覚を持つ生き物。そのぶっ飛んだ行動を卓球母のひとりである私の体験を通してご紹介します。

 

私は高校生スタートのレディース。学生時代、小学生スタートのライバルに勝てなかった悔しさから、我が子が年中になると卓球教室へ通わせることに。

レッスンは週1回1時間半、数人の園児がわいわいのクラス。若いコーチが子供に寄り添ってくれるのがありがたく、卓球母たちは子供から目を離せる至福の時間を過ごすことができました。私も見学席でツムツムしながら思いっきり羽を伸ばしていたのですが、隣にいた中学生のママさんが「最近の若いお母さんは球拾いしない」とつぶやいたのを聞いてズッコケました。

若くもないのに球拾いをしない私の場合、何の罪に問われるのでしょうか? 私はその日からスマホを虫とり網に持ち換え、子供が打ち上げたホームランボール、打ち損なったノーコンボール、空振りした多球ボールをひろってひろってひろいまくりました。中学生以上がラリーをしているところにボールを転がしてなるものか。その一心で。

私の行動に感化されたのか、周りの卓球母も自然と球拾いを始めました。おかげで私たちは、台の上、フロアの角、ネットフェンスの底など、とりにくい場所にボールがたまっても、片手でスイッとすくい上げられる球拾いのプロ集団に。もちろん誰にも褒められることはありませんが。

そんなある日、いつものようにレッスンに連れて行くと、お友達はお休みでうちの子ひとりでした。つまり、球拾い要員は私だけ。腰に不安を覚えましたが1時間半の辛抱です。中一に戻った気分でがんばることにしました。「仕事終わりで疲れているのに」なんて文句は言わず。「子供は同じ場所からワンコースに返すだけなのに」なんて愚痴も言わず。「私が一番働いてるじゃないか」と現実を語らず。

そして、予定ゼロでバイトの時間を気にする学生のように、あと30分、あと10分、あと2分、あと60秒と時計とにらめっこ。そして、ついにFinish―――!!!の時間がきたころ、私はフロアに1個のボールも残さず球拾いを終えました。額に流れる汗をふき、達成感から満面の笑みでコーチに「ありがとうございましたっ!」と一礼。踵を返し、子供を連れて、肩で風を切って帰ろうとしたのですが、なぜかコーチに引き留められました。

そしてコーチは「いえいえ、まだ半分ですよ。あと1時間半やりましょう。前回の振り替えで」と若さいっぱいの笑顔でさらり。

NO―――――!!!

私は膝から崩れ落ちました。そういえば振り替えレッスンのお知らせメールが届いてたっけ? みんながお休みでもやるとは想像しなかったけれど。私は卓球場の窓ガラスを割って、盗んだバイクで走り出したい気分になりました。そこから1時間半の記憶はありませんが、2日後の朝、恐ろしい筋肉痛にみまわれることに。

そして球拾いが心底嫌になった私は、子供を教室に連れて行くのも億劫になってしまいました。何か理由をつけてお休みできないか? そんなことをボーっと考えながらYouTubeを観ていると、伊藤美誠ちゃんの練習風景がPC画面に流れ始めました。よく見ると、端の方でお母さんの美乃りさんが球拾いをしています。淡々と黙々と。それを見た瞬間、弾丸のような問いかけが自分の痛いところに命中しました。

「子供が選手生活を続ける間、球拾いを続ける覚悟はあるか?」

ズキューーーン!!!

ああ、息子よ。母は虫の息。自分で球拾いや。バタッ。

 

 

 

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