卓球王国 2024年3月21日 発売
バックナンバー 定期購読のお申し込み
アーカイブ

韓国卓球界のカリスマ、千栄石「選手には良いものを食べさせて、地獄の練習をやらせる」

1973年世界選手権サラエボ大会の女子団体で優勝を飾った韓国チーム。カップを掲げる千栄石監督

 

すべての韓国選手は、

一人ひとりが

これから卓球に対して

異常なほどに向き合って

いかなくてはいけない

 

●――世界ジュニア選手権を見て、千さんはそこに将来の世界の卓球が進んでいく傾向を感じましたか。

千栄石 ヨーロッパ卓球はパワードライブ傾向の早いピッチの「スマッシュドライブ」と言えるような、打法になっています。すべてスマッシュドライブ、バックハンドもスマッシュドライブですね。

フリック、スピンドライブ、スピンドライブで速いスマッシュのような打法を使う選手もいるし、台から離れてもつなぐドライブではなく、スマッシュのようなドライブを打つ、それを両ハンドでできるようになっている。それから台上の処理が中国と対応できるくらいのテクニックを身につけている。

以前は、ヨーロッパの女子の卓球はテンポが遅かったけど、それが男子と同じようになっている。それは中国でも同じで、女子が男子と同じような卓球になっている。韓国もそれにただついていくのではなく、何か付加価値をつけなくてはいけない。それに、みんながシェークハンドになっているけれど、その中でペンホルダーの価値を見い出すことも必要でしょう。戦術、技術の変化もそうだが、戦型の変化も考えていきたい。

男女ともピッチは早くなっていて、スマッシュドライブ対スマッシュドライブのラリーが、男子の場合は3、4回は続く。レベルが高くなると、1回、2回のラリーでは決まらない。得点するのは難しい。打っていく速さの中での持久力も要求されるでしょう。

ただ、今のサービスの傾向は、中国が好むような短いサービスで、ストップなどのネットプレーからラリーが始まる。中国が子どもの時から朝から晩までやっているような訓練の内容を、今ヨーロッパや日本、韓国が取り入れてやっているから、中国に追いつけず、負ける可能性も大きいのです。

これからはサービスとコースの内容を考える。背の高い両ハンド選手は、真ん中が空いているのだから、真ん中を徹底的にせめて、そこから両サイドに散らしていくような攻め方、そういうコース取りの研究とか、ロングサービスの研究も徹底的にやっていかなければいけないでしょう。なぜなら、みんな台について打っているから、ナックル性のロングサービスが効果的ではないでしょうか。

カットマンにしても、バック面はツブ高よりもアンチラバーのほうがいいんじゃないかと考えています。アンチラバーは全部ナックルボールになる。今までは下から持ち上げさせるようなラバーばかりだったから、オーバーミスを誘うようなラバーの組み合わせもおもしろいと思う。

 

●――話をうかがうと、韓国の卓球は独自のプレースタイル、路線を進んでいくということですね。

千栄石 それがなければ、中国に勝つこと、ヨーロッパに勝つこと、日本に勝つことは難しいんですよ。ヨーロッパの卓球も中国の卓球も研究しやすい。ひとつだけ研究すればほかにもつながっていく。私たちの卓球が同じような卓球でそこについていけば、練習量とか訓練の内容によって韓国が勝つことは難しいから、韓国独自のカラーをつけたい。いろいろな変化をつけないと中国に勝つのは難しいと思います。

 

●――千さんにとっては、いかに中国に勝つのか、というのは大きなテーマで、それを実際に実践していますね。日本でも、中国に勝とう、というスローガンはあっても、実践の実行段階にはいかないし、具体的な対策がない。プレースタイルも中国の選手が多く入ってきている影響もあるけど、独自というよりは、その影響を受けて、追従することも多い。

千栄石 虎穴に入らずんば虎児を得ず、ということわざがあるように、怖がったら何もできないから、虎を捕まえるためのテクニックを養成しなければいけない。国によっていろいろ考え方は違うけど、私は、「難しいことをやり遂げる人しか成功できない」と考えています。すべての韓国選手は、一人ひとりがこれから卓球に対して異常なほどに向き合っていかなくてはいけない。

私はよくみんなにエジソンの話をします。あの発明家エジソンは、我々が毎日使っている、この電気のような発明を200個ほどして、今の世界の社会に大きく寄与した。ある時、記者が彼に「あなたは天才だ」と言った時、「私の天才の部分は1%しかない。ご飯を食べる時でも何をする時でもその研究に集中して考えている、その努力が99%なんだ」と答えた。

中国を倒すためには、そういうふつうではない努力をしなければ勝てない、相手も人間なんだから我々が勝てないはずはない、私はいつもそう考えるのです。

私が監督をしていた時には中国に3回連続勝った経験がある。徐寅生さん(中国卓球協会会長)は私を友人に紹介する時に、冗談で「この人は中国が一番嫌っている人です」と笑いながら言ってます。

今は世界の頂上は中国だから、その中国に勝つためには、朝から晩までエジソンのように考えなくては勝てないですよ。私はこの試合(世界ジュニア)を見て、夜ホテルに帰ってから2時間くらいノートにいろいろと書いている。昔は頭にインプットしたら忘れなかったけど、今は歳をとってすぐに忘れるから(笑)、忘れないうちにノートに書いて、韓国に帰ってから、指導者に伝えようと思っています。

昔の卓球のほうがカラフルで、多様だった。今はひとつの方向に偏っているから研究はしやすい。用具の問題もこれから相当研究するべきでしょう。中国は回転系のラバーを使っているので、回転は多くかかっているけど、スピードはそれほどでもない。その回転ボールを研究すれば、中国のラバーにも適応性が高くなります。

ただ卓球が、女子も男子も早いピッチの男性的な卓球になりつつあるから、それをどこかで防ぐような技術を高めなければいけないでしょう。

関連する記事