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今野の眼

理想の地域密着。Tリーグの金沢ポートが見せた「おらが石川のチーム」

「卓球を初めて見た人、卓球をやりたいと

言う子も何人かいた。このリーグが

良いきっかけになればいいですね」(松平健太)

 

試合での金沢の抑制を効かせたMC(司会)にも好感が持てた。言葉の羅列で観客を無理に盛り上げるのではなく、試合をしっかり見せるところは見せて、試合の緊張感を邪魔していなかった。

試合後のファンサービスでは選手の前に、記念写真やサインを求める長蛇の列ができた。石川県七尾市出身の松平健太は嬉しそうにコメントを残した。「正直緊張したけど、たくさんの観客の前で試合ができて幸せでした。中学1年まで七尾市(石川県)の学校にいて、それ以来の試合で不思議な気持ちだった。実家の家族、親戚の人も来ていて、石川県の代表として試合ができるのは楽しかった。石川県は卓球人口が減っていると聞いていたけど、今日は盛り上がっていましたね。卓球を初めて見た人、卓球をやりたいと言う子も何人かいた。このリーグが(競技人口増の)良いきっかけになればいいですね」。

それがまさに「地域密着」のチームの役割だ。

Tリーグが「プロリーグ」と唄えないのは、企業の中で「プロチーム」を持てないチームがあるからだ。JリーグやBリーグは企業名ではなく地域名をチーム名に入れているが、Tリーグ(ラグビーもそうだが)は企業名+地域名のチームもある。リーグ創設の頃、チームを揃えるための苦肉の策だったとも言える。しかし、Tリーグの維持を目的とするならば「企業主体チーム」と「市民球団」の混成も理解できる。

6シーズン目を迎え、解決すべき問題はあるにしても、Tリーグの「地域密着」と「世界最高峰リーグ」は少しずつ進んでいる。試合レベルは中国の超級リーグに次ぐものになっている。

また、男子チームにおいては、彩たま、岡山、琉球、静岡、そして金沢と地域に根ざした活動や発信がより積極的になっている。

1回のホームチームの開催で、会場設備や音響、照明で200万円前後の出費と言われているが、それが千人前後の有料入場者数が入れば、チケット収入である程度ペイできるだろう。

加えて、石川県ゆかりの選手(石川県出身、石川県の高校に在籍)を集めたことが、チームと金沢の観客との距離を縮め、観客が会場に足を運んだ理由だとすれば、このチーム作りも素晴らしいものだ。

卓球を通して地元が盛り上がり、卓球を知らない人が卓球を始めるきっかけになることがTリーグの本来のあるべき姿ではないのか。

卓球の試合そのものを観客が楽しむTリーグになってほしい。勝つことでしかお客さんを呼べないのでは、下位チームは常に集客に苦しむことになる。重要なのは、勝利だけでなく、地元への貢献、地域の卓球愛好者とつながり、地域の人へ卓球を広める役割を担い、卓球チームとしての価値を高めることではないか。

新規の静岡、金沢が地方都市でのTリーグの新しいチームの有り様を見せてくれれば、さらにTリーグは全国に広がりを持つことになるだろう。そのチーム作りやチケット販売のノウハウを各チームが共有すれば、さらにリーグ全体は盛り上がっていく。全国で人口33番目(2022年)の石川県、人口46万人の金沢ができるのであれば「うちの県でもTリーグのチームを持てる」と思ってもらえる。

 

8月12日のホーム開幕戦には1197人の観客が詰めかけた

 

 

激戦を勝利で終えた岡山リベッツ

 

観客500人のチームを企業は

長くサポートするだろうか。

毎年、1億円を越す予算を

会社の経費として使ってくれるのだろうか

Tリーグの女子は、テレビなどで盛んに露出されるスター選手を見るために観客が集まってくる傾向がある。男子と女子で観客数の差がないのはそのためだろう。プロリーグが古くからあるヨーロッパでは考えられな現象だ。ドイツのブンデスリーガでは女子チームの経営は大変で、選手のプロ生活も厳しい。

男子のTリーグには張本智和のようなスター選手を見たい人も会場に足を運ぶが、ダイナミックな男子の卓球を見たい人が集まってくる。いつの時代でもスター選手がいるに越したことはない。しかし、このリーグが10年、20年、30年と長く維持していくためには、卓球の魅力を地域の人に示して、応援してもらうこと、チケットを一枚でも多く購入してもらうことが大切になってくる。

毎回のホームマッチで観客500人のチームを企業は長くサポートするだろうか。毎年、1億円を越す予算を会社の経費として使ってくれるのだろうか。

地域に根ざしたチームも、地元での普及活動を継続させなければ、大小のスポンサーも「お付き合い」が終わったら、離れていく可能性がある。地域の人にとってなくてはならない卓球チームになっていれば、中小のスポンサーはサポートしてくれるだろうし、愛される市民球団は地域に定着していく。

正直に言えば、今まで取材したTリーグの試合はやや「作りモノ感」があった。特にリーグ創設1年目、2年目は卓球を見たいファンではなく、「会社の応援」のために足を運んでいる人多くいたからだ。その会社サポートの時期が終わると千人を超えていた観客数は400人、500人に減っていった。これが現時点での現実なのだ。

金沢の地で伝わってきたホーム開幕戦の高揚感と期待感。翌日の試合の観客数は585名になっていたので、ホーム開幕戦は「顔見世のご祝儀」だったかもしれないが、金沢にポテンシャルがあることもわかった。人口46万人の金沢市だが、もっと小さな町でもチームができるようになったら、Tリーグは本物の地域リーグとして続いていけるだろう。

チーム作りは簡単なことではない。しかし、たくさんのサポーターと一緒に作り上げ、試合が盛り上がることがTリーグの原点だろう。

勝っても負けても卓球の試合に興奮し、笑顔で会場をあとにする金沢の観客の人たちがそこにいた。さあ、Tリーグはこれからだ。(今野)

 

熱い男、金沢の西東監督

 

 

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