昨日の日本男子対オーストリア戦、日本のベンチにあの男が帰ってきた。大会の開幕直前にインフルエンザのために戦列を離れていた戸上隼輔。「全員で(五輪出場権を)決めたかったので」と田㔟邦史監督がベンチ入りを決断した。田㔟監督によれば、昨日から少しずつトレーニングを再開し、今日からは短い時間ではあるが、練習も始めるという。
すでに男子団体も準々決勝。このラウンドでの戸上の復帰はさすがに難しいだろう。しかし、オーストリア戦ではエースの張本智和だけでなく、2番の篠塚大登、3番の松島輝空もきっちり勝利を挙げ、戸上不在の影響を感じさせないほどの強さを見せた。
大会初日、戸上発熱の情報を聞いた時はショックだった。一方で、速報には「ピンチはチャンス」とも書いた。今になって振り返ってみれば、まさに日本男子はピンチをチャンスに変えた。篠塚は「日にちが経つに連れて緊張感はなくなってきた」と語り、ガルドス戦では終盤で台との距離を詰めて前陣で勝負し、逆転で勝ち切る強さを見せた。「世界卓球の舞台は本当に楽しい」と言う松島の強心臓ぶりには驚くばかり。ふたりとも試合を重ねるごとにたくましさを増している。
昨日のミックスゾーンで取材に応じた戸上は、「体調は回復傾向にある」としながらも、体重が一時は2.5キロも落ち、昨日朝の時点で61.7キロだと明かした。「痩せたな」と感じた1月の全日本選手権時よりさらに痩せた印象も受ける。もともとしっかり食べないと体重が落ちやすい体質なのだ。
戸上については体調面だけでなく、過剰に責任を感じてしまわないかという精神面の負担も心配していた。「年に1回しかない大会での体調不良だったので、精神的にはきつかった」という戸上だが、次のように言葉を続けた。
「チームメイトが精一杯戦ってくれて、ライバルであるチャイニーズタイペイに勝ってくれたり、グループステージを1位で上がってくれた。みんなのことを誇りに思います。世界卓球は名誉のある大会だし、みんながプレーしているのを見てかっこいいなと思いました」(戸上)
仲間たちがつかみ取ってくれた、パリオリンピックへの切符。ミックスゾーンでの取材後、パリオリンピック出場を決めたチームのフォトセッションで、戸上は張本・篠塚とともに少しはにかみながら写真に収まった。7月のパリでは「今度はオレの番だぜ」とばかりに、そのカミソリドライブでバッタバッタと強敵をなぎ倒してくれるはず。まずはしっかり体調を整えてほしい。
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