卓球王国 2024年6月20日 発売
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水谷隼の逆襲「誰も知らないところで挑戦して、そこを絶対乗り越えて いこうと思いました」

 

連覇するというのは重いですね。

6連覇の重みが本当に苦しかった。

連覇はいつかは途切れるものだし、

負けて悔しいけど、楽にはなりました

 

誰が優勝するかわかんないですよ。

ぼくが7年前に優勝した時よりも

はるかにレベルが上がって、

みんなが強くなってきているから

 

今回のインタビューの直前に、「びっくりすること、発表するんですよ」と水谷。「何? 今教えてよ」と言うと、「いやいや、あとで。やっぱり言わないでおこうかな」とはぐらかす。

取材を終え、送っていく車中で「明日、入籍します」と突然言い出す。驚かすにもほどがある。「明日ブログでぼくが書きますから、その後は王国で発表しても大丈夫です」と水谷。

最近の充実ぶりはそういう私生活の安定も関係するのかもしれないと思いつつ、日本のエースの今後の活躍に期待したい。

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●ー地元での世界卓球は意識する?

水谷 いや、あまりしないですね。実感ないですね。日本にいると卓球選手という実感がないです。ナショナルチームの合宿じゃないと選手がいないんですよ。十分に練習できる環境ではないですね。

それに日本ではお互いをリスペクトする関係ではなく、友だち感覚なんですよね。ぼく自身、普段は年上でも年下でもフレンドリーに接してきたけど、卓球するうえではあまり良くないと思っています。普段の練習でも、遠征とか行っても仲の良い者同士で練習したりする。それは良くないと思うから、次の世代からはそこを割り切って変えていってほしい。強い選手をリスペクトして、強い選手が良い状態で試合に臨めるような環境にしてもらいたい。

 

●ー卓球を始めてからもう何年経つのだろう。

水谷 19年です。最初に世界選手権に出てから9年です。

 

●ーそこまで長くやっていると卓球のスタイルを変えるのは難しいでしょ。でも、5年前、10年前の自分のスタイルと今のスタイルも違うだろうけど。

水谷 昔の自分とは違いますよね。ただ、自分のスタイルを大幅に変えるのは難しいです。常に進化しなければいけない。常に時代の最先端についていかないといけない、後れを取ったら勝てない。チキータとか、YGサービス、バックハンドとか、仮にそれが苦手だとしてもそこで後れを取ったら今の卓球では勝てないです。苦手でもそこは頑張って克服しないと勝てない。

 

●ー世界でシングルスのメダルを獲るとなったら、ヨーロッパではオフチャロフなどの選手はいても、やはり対中国を考えなければいけない。その時に、今までラリー志向の君の卓球に対して、「水谷の卓球は遅い、中国に勝てない」と言われてきた。その壁はどのように乗り越えるんだろう?

水谷 確かに最近はそういうことを言われます。丹羽とか健太の卓球が速いし、彼らは中国に勝ったりするから、彼らの名前を出して「おまえの卓球は遅い」と結構言われます。それを言われて、自分で考えたこともたくさんありました。前でプレーしなきゃいけないとか、用具もバックのラバーを『(テナジー)80』にして前でカウンターした時期もあったし、『05』にしたりとか、そこで進化しようと思ったけど、結局元に戻った感じです。今はみんなチキータがうまいし、バックハンドもうまいけど、彼らよりぼくはフォアハンドが強いし、フットワークもあると思う。その特徴を消したら、勝てないと思っています。

今までもそのスタイルで自分は勝ってきたし、これからも自分のスタイルを大きく変えるつもりはないですね。

 

●ーその特徴をさらに磨いて中国に対抗するしかない、という結論?

水谷 いや、それよりも、自分のスタイルをみんなに認めさせる。このスタイルで勝てば、みんなが速いスタイルじゃなくて、遅いスタイルになるかもしれない可能性もあるわけです。自分が勝つことで、そのスタイルを見せつけてやるという気持ちのほうが強いですね。

 

●ーこのインタビューは全日本予想を載せる12月の発売号に掲載する。テーマは「水谷隼の逆襲」だけど、全日本ではどういう戦いをするんだろうか。

水谷 誰が優勝するかわかんないですよ。ぼくが7年前に優勝した時よりもはるかにレベルが上がって、みんなが強くなってきているから。世界ランキングを見ても比べものにならないくらい高い。100位の中に10人くらいの日本選手がいるわけだから。

 

●ー全日本を30年以上取材してきた中で、今回ほど熾烈で、レベルの高い全日本はないと思う。もちろん、君が優勝するとは断定できないし、優勝してもおかしくない人が何人もいるのが今回の男子シングルスだと思う。ただ、2年連続決勝でああいう負け方をした水谷隼がどういう戦いをするのか。そこで水谷の強さと卓球をアピールする。何より王者としてのプライドを取り戻す大会であるべきだという気持ちは強いと察するけど。

水谷 優勝するかどうかは本当にわからないですね。優勝する自信があるかどうかと言われたら、あるとは言えない。ただ優勝するための準備だけは完璧にして試合に臨むだけです。

 

●ー前の5連覇した時というのは自信満々だった? 

水谷 結構、自信満々でしたね。それに、そこまで深く考えてなかったですね。何か「負けてもいいや」という余裕はありましたね。

 

●ー今は違う?

水谷 今のほうがリラックスしてます。連覇するというのは重いですね。6連覇の重みが本当に苦しかった。連覇はいつかは途切れるものだし、負けて悔しいけど、楽にはなりました。

周りからは齋藤清さんの8回(優勝)を言われるので、8回以上優勝したらもういい。あと4回優勝したら(9回の新記録)、もういいです。ひとりの人が優勝し続けるのも良くないと思う。ただ、これからの1回の優勝が大変です。1回ずつ頑張って記録を作り上げていきたいです。

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水谷隼が再び世界での輝きを取り戻す日も近いだろう。単身でのロシアでの戦い。そしてプライベートでの充実。本人は引きずっているとはいえ、全日本決勝での2回の敗戦とロンドン五輪での傷は、瘡蓋を作り、より強いアスリートとしての皮膚を作り出しているのではないか。

「水谷隼のための全日本」と言われた国内最大のビッグゲームで王者は蘇るのか。自分の指定席だった、表彰台の一番上の高みに再び立つのか。

王者は戻ってくる。

そして、水谷隼の逆襲が始まる。

〈文中敬称略〉

 

●水谷隼・みずたにじゅん

1989年6月9日生まれ。静岡県磐田市の出身で、5歳で卓球を始める。全日本選手権のバンビ・カブ・ホープスの各年代で優勝。ドイツ・ブンデスリーガでの卓球修行によってその才能を磨き、05年世界選手権では当時世界ランキング8位の荘智淵(チャイニーズタイペイ)を破って世界に衝撃を与えた。09年・13年世界選手権では、岸川聖也と組んだダブルスで銅メダルを獲得。

全日本選手権では史上最年少の17歳7カ月で優勝した06年度大会からシングルス5連覇。若くして日本男子の第一人者の地位を築き、12年7月の世界ランキングで自己最高位の5位を記録した。DIOジャパン所属、世界ランキング13位(13年12月現在)

 

 

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