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「30過ぎてもまだまだ強くなれる。ポテンシャルを信じて、ドイツで頑張ってほしい。彼はできますよ」水谷、上田へ贈る言葉

2014年の全日本選手権準決勝、水谷は4-2で上田を下した

 

2014年の全日本の準決勝での二人の対戦

 

全日本ジュニア2連勝の上田。一般のタイトルは惜しくも取れなかった

 

あまり先のことを考えないで、
目の前のことをまず考えたほうがいい。
上田は人に慕われる能力があるんです

 

●ーバタフライのイベントで、君が「10年やって、その後、中東からでもオファーもらえばいい」と言ったと上田君が語っていたけど。
水谷 ぼくは本心で言ったんですよ。本人の最終目的はわからないけど、生活とかお金のことを考えたらそれが一番良いと思う。ドイツでプレーして、全くの異国でプロコーチをやるのが上田には合っている気がする。彼はあまり考えすぎないほうがいいんです。

●ー日本のファンからしたら、上田君にもう一度日本に戻ってきてほしいとか、日本の監督をやってほしいという声もあります。
水谷 今は先のことを考えないで、目の前のことをまず考えたほうがいい。お金のことを考えるならインドリーグに行ってもいいんですよ。
彼は後輩にすごく慕われていて、ぼくと違って人間性が良いんですよ(笑)。それは羨ましいですね。昔から後輩の面倒見がいい。親身になって後輩の話を聞いてあげる。上田は人に慕われる能力があるんです。

●ー「上田仁の卓球」は非常にまとまっていて、欠点も見えないし、それでもビッグタイトルを取れなかった。もちろん全日本では水谷隼という壁もあったけど、何が足りなかったんだろう。
水谷 怖さですね。迫力のある怖さが欲しかった。上田の卓球は、賢さが8割、安定が2割。

●ー意外性は?
水谷 意外性はあります。でも、それは賢さの中に含まれている。賢さの中に含まれているから、その意外性も読めていた。そうなると本当の意味の怖さにはならない。

●ーそういう怖さ、荒々しさというのはドイツに行ったら、後付で身についたりするのだろうか。
水谷 それは人間の癖なんです。指導して自分で意識して修正しなければ治らないし、本人もその癖に気づいていないかもしれない。だって、普通の選手は上田に勝てないわけだから、気付かされることが少ないかもしれない。

●ーブンデスリーガに行って、五分五分以上の勝ち星をあげようとしたら、そういう荒々しさが必要、それがあればドイツでも勝てるという意味だろうか。
水谷 ある種のずるさも必要です。ぼくが上田と試合をやって嫌だなと思ったのは、僕のバックサイドを切るフォアの巻き込みドライブとバックのミート打法だった。それをリードされている時にたまに使う程度だったけど、それが嫌だった。ぼくが対戦したら、そういうトリッキーなプレーを試合の中でやられるとすごく嫌な相手になる。

●ーこの先、1年になるのか何年になるのか、全日本にも出ないで頑張る決意で彼はドイツに行きます。
水谷 それはある意味、ぼくが全日本に出ないと宣言して東京五輪に出たのと同じじゃないですか。ぼくは現役やめてないけど、全日本を意識するとプレッシャーに耐えられない。国際大会やオリンピックに集中するために全日本に出ないことを決めたのと同じ。

●ー上田君もそういう全日本の呪縛を感じていたのかな。
水谷 上田は高校生の時に(2009年)全日本で3位になっている。そのくらいの強さを高校生の上田は持っていた。2014年の時も上田と準決勝でやっている。この時は競った試合になった。試合の途中で、サービスを変えてきた。なかなかそういう日本選手はいない。彼はそれができていた。

●ーということは水谷隼がいなかったら決勝に行ったかもしれないし、優勝していてもおかしくない選手だった。
水谷 ぼくがいなかったら、まあそうですね。彼は強かったんですよ。だから準決勝の壁を超えたいという気持ちはあったと思う。もしくは全日本でのあきらめもついて、この先の舞台に行こうと思って、ひと区切りをつけて新しい一歩を踏み出したんじゃないですか。これで吹っ切れて気楽にやって、これから上田はさらに強くなれるかもしれない。日本での所属がなくなって、背負うものがなくなったというか、家族のために一生懸命やるだけですね。
プロとして結果を残さなきゃいけないのが唯一のプレッシャーだと思うけど、日本だと所属企業やスポンサーのために結果を残そうとするのは重圧がかかる。上田はそういう責任があると考えすぎる性格だから、それがなくなればのびのびプレーできると思う。
彼は自分自身のポテンシャルを信じて、ドイツで頑張ってほしい。彼はできますよ。

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水谷隼(みずたに・じゅん)
1989年6月9日、静岡県生まれ。全日本選手権ではバンビ・カブ・ホープス・ジュニア・一般と全種目を制覇し、一般では10回の優勝を誇る。2016年リオ五輪では団体銀メダル、シングルス銅メダル、2021年東京五輪では団体銅メダル、混合ダブルスで金メダルを獲得した。現在はテレビ出演、講演、イベントで活躍

2014年の全日本選手権での準決勝、水谷隼対上田仁

 

上田仁選手のインタビュー前編

https://world-tt.com/blog/news/archives/81651

上田仁選手のインタビュー後編

https://world-tt.com/blog/news/archives/81881

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